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第五章 平穏は、ほど遠く
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午後からは、将軍も交えて、慈善医療所の警備についての話し合いが行われた。
午前のメンバーの他に、王都警備隊長のアーネスト・ハイデベルグとその旗下の班長六名、王女の護衛隊長カルシアン・ペイヴァー、それに王宮側担当者としてミアーハが出席した。
医療所は王宮前の広場に開設される。いつもは市が開かれ賑わっている場所だ。その露天商を一部締め出し、テントを張り、その中で行うという。脇では炊き出しも行い、日持ちのする食料も支給するという。
物資の拠出は王宮の方で手配してくれるが、配膳や診察待ちの民衆を並ばせ、待ち時間の長さに苛々として騒ぎを起こさないように見張るのは、王都警備隊の仕事だ。
また、今回は王女が臨席するので、今までの警備ではとても間に合わない。
警備隊からは周辺の不審者探索の報告が上がり、ミアーハからは配膳の侍女の人員計画と、物資補充の運搬計画の最終確認が提出された。
後五日である。総指揮は殿下であり、計画は詰め終えられ、当日を迎えるばかりになっていた。
「では、これが最終確認になります。何かある方はいませんか?」
一同を見まわして、副指揮官のディーが聞いた。
ソランはミアーハを見た。視線が合って、なにかしら、と小さく首を傾げられる。それからディーを見ると、二人のやり取りを見ていたのだろう、声をかけられた。
「どんな些細なことでもいい。ファレノ殿、言ってみなさい」
「はい。当日はミアーハ嬢、コランティア殿、私も警備の人員として入っておりますが、テントの影に護衛を隠せとおっしゃるくらいですから、トレド殿以下三人の帯剣は認められても、私たちは認められのではないかと」
「ミアーハ嬢、どうかね?」
「恐らくそうなりましょう。もっとも、私たちなら大丈夫です。衣装の下に隠せますから」
数人が、テーブルに隠された彼女の足の方に、見えるわけもないのに目をやった。どうなっているのか想像したらしい。その視線を感じて、彼女がにこりと微笑む。同時に殺気が膨れあがり、男たちが身を強張らせた。
「となると、やはりファレノ殿も、衣装をおそろいにする必要がありますね?」
ミアーハの、親しげで、しかし有無を言わさぬ迫力を兼ね備えた声に、ソランは辛うじて反論した。
「いいえ、暗器ならいくらでも仕込めますし、剣ならば、狭いテント内のこと、このような大剣よりも、小ぶりな物の方が扱いやすいでしょう。それくらいなら隠す場所は、……ありますよね?」
最後はディーを見て、目で救いを求める。
「ううん、どうかなあ」
ディーは顎に手を当てて唸った。真面目に考えている素振りが見られない。ミアーハの威圧感に即答を避けているのだ。まったくもって、頼りにならない上司だった。
「ああ言っておりますよ。ここはおそろいにした方が、王妃陛下も喜ばれましょう」
「私では、いくらなんでも違和感がありましょう」
「大丈夫です。王妃の侍女の着付けの腕前は最高ですから。それに隠し方なら、あなたになら手取り足取り教えてさしあげましてよ」
ふふふ、と笑う。
彼女がソランに対して怒っているのではないのはわかっていた。だからといって、不可抗力で不埒な想像をした男どもに、ソランをダシにして妙な圧力をかけるのはやめてほしい。
ソランはどちらかというと男どもに同情していた。自分にはない女の怖さを見せつけられて、たじろいでいたのだ。
「将来が楽しみな若者に、語りたくないような過去を作ることもあるまい」
将軍が声をあげた。
「隠し場所がないというのなら、作ってやれ。よいな?」
「承知いたしました」
ディーがすぐに拝命した。
「一度テントを張って、実際にどれくらい動けるものか、確認が必要だろう。それも手配しろ」
殿下も命を出す。
「承知いたしました。他には?」
手を上げる者はいなかった。
「では、以上とする。解散」
殿下がさっさと終了を告げた。
午前のメンバーの他に、王都警備隊長のアーネスト・ハイデベルグとその旗下の班長六名、王女の護衛隊長カルシアン・ペイヴァー、それに王宮側担当者としてミアーハが出席した。
医療所は王宮前の広場に開設される。いつもは市が開かれ賑わっている場所だ。その露天商を一部締め出し、テントを張り、その中で行うという。脇では炊き出しも行い、日持ちのする食料も支給するという。
物資の拠出は王宮の方で手配してくれるが、配膳や診察待ちの民衆を並ばせ、待ち時間の長さに苛々として騒ぎを起こさないように見張るのは、王都警備隊の仕事だ。
また、今回は王女が臨席するので、今までの警備ではとても間に合わない。
警備隊からは周辺の不審者探索の報告が上がり、ミアーハからは配膳の侍女の人員計画と、物資補充の運搬計画の最終確認が提出された。
後五日である。総指揮は殿下であり、計画は詰め終えられ、当日を迎えるばかりになっていた。
「では、これが最終確認になります。何かある方はいませんか?」
一同を見まわして、副指揮官のディーが聞いた。
ソランはミアーハを見た。視線が合って、なにかしら、と小さく首を傾げられる。それからディーを見ると、二人のやり取りを見ていたのだろう、声をかけられた。
「どんな些細なことでもいい。ファレノ殿、言ってみなさい」
「はい。当日はミアーハ嬢、コランティア殿、私も警備の人員として入っておりますが、テントの影に護衛を隠せとおっしゃるくらいですから、トレド殿以下三人の帯剣は認められても、私たちは認められのではないかと」
「ミアーハ嬢、どうかね?」
「恐らくそうなりましょう。もっとも、私たちなら大丈夫です。衣装の下に隠せますから」
数人が、テーブルに隠された彼女の足の方に、見えるわけもないのに目をやった。どうなっているのか想像したらしい。その視線を感じて、彼女がにこりと微笑む。同時に殺気が膨れあがり、男たちが身を強張らせた。
「となると、やはりファレノ殿も、衣装をおそろいにする必要がありますね?」
ミアーハの、親しげで、しかし有無を言わさぬ迫力を兼ね備えた声に、ソランは辛うじて反論した。
「いいえ、暗器ならいくらでも仕込めますし、剣ならば、狭いテント内のこと、このような大剣よりも、小ぶりな物の方が扱いやすいでしょう。それくらいなら隠す場所は、……ありますよね?」
最後はディーを見て、目で救いを求める。
「ううん、どうかなあ」
ディーは顎に手を当てて唸った。真面目に考えている素振りが見られない。ミアーハの威圧感に即答を避けているのだ。まったくもって、頼りにならない上司だった。
「ああ言っておりますよ。ここはおそろいにした方が、王妃陛下も喜ばれましょう」
「私では、いくらなんでも違和感がありましょう」
「大丈夫です。王妃の侍女の着付けの腕前は最高ですから。それに隠し方なら、あなたになら手取り足取り教えてさしあげましてよ」
ふふふ、と笑う。
彼女がソランに対して怒っているのではないのはわかっていた。だからといって、不可抗力で不埒な想像をした男どもに、ソランをダシにして妙な圧力をかけるのはやめてほしい。
ソランはどちらかというと男どもに同情していた。自分にはない女の怖さを見せつけられて、たじろいでいたのだ。
「将来が楽しみな若者に、語りたくないような過去を作ることもあるまい」
将軍が声をあげた。
「隠し場所がないというのなら、作ってやれ。よいな?」
「承知いたしました」
ディーがすぐに拝命した。
「一度テントを張って、実際にどれくらい動けるものか、確認が必要だろう。それも手配しろ」
殿下も命を出す。
「承知いたしました。他には?」
手を上げる者はいなかった。
「では、以上とする。解散」
殿下がさっさと終了を告げた。
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