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第八章 思い交わす時
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ぽかりと目が覚めた。窓がうっすらと明るくなっている。小鳥の声もする。もうすぐ夜明けなのだろう。
ソランは布団の上に起き上がった。乱れた髪を手櫛でかきあげる。マリーたちに毎日手入れしてもらっているそれは絹のようにすべらかで、かきあげた先から落ちてきて、すぐに顔を覆ってしまう。ソランは溜息を吐いた。
昨夜は、皆に悪いことをした。きっと、夕食もお湯の用意もしてくれていただろうに。我儘なことをした。あとで謝らないと。調理室にも顔を出そう。
そう考え、もう一度溜息を零す。
気持ちは落ち着いていた。
返事をするまで、朝は起こしに来なくていいと殿下に言われている。だから、食事も別だ。ありがたかった。昨日の今日で、とてもではないが、殿下の前で平静でなどいられない。
小屋の中であったできごとが脳裏に甦る。まなざしと声と感触と。なんと得難く、幸せな夢だろう。恐らく、一生、ソランの心を苛むにちがいない。
ソランは、やはり、女だと打ち明けられないと結論付けていた。殿下が『男のソラン』を求めているというのなら、尚更。だがそれは、殿下の思いを受け入れられないと告げることでもある。
それでも、傍に置いてもらえるだろうか、度量の広い方だから、きっと遠ざけたりはなさらない、とソランは自分に言い聞かせるように思いめぐらせる。
ただ、今までみたいに親しく傍近くにはいられない気はした。ソランもそこまで厚顔無恥ではない。適度な距離を置くことになるだろう。そしていずれは、女だとばれる前に、領地に引き込まなければならない。
そうなったとしても、女だと知られて義務で結婚されるよりは、マシだと思った。殿下も好きだと告白したからには、女が受け入れがたくても、ソランを受け入れようとするに違いない。
けれどきっと、ソランがマリーをどんなに愛していても、抱きしめる以上のことができないように、無理をすれば、いずれお互いに堪え難くなるのではなかろうか。
ソランは彼と不幸にだけはなりたくなかった。一人ならともかく、二人で共になんて、お互いのせいでそうなるなんて、耐えられなかった。
掛け布団を握り締める。いっそ泣きたかったが、涙は出てこなかった。胸の中に熱く重いものが溜まり、苦しくなるばかりだ。
泣くわけにはいかないと、思い返す。これから相手を振ろうという人間が、何を泣く理由があるだろう。
普通にしていないと。
それを心の中で繰り返す。そうしていないと、何度でも、殿下と触れ合った記憶が甦り、ソランの頭も体も支配してしまう。
ソランはマリーが起こしにくるまで、身動ぎもせず、ベッドの上に座っていた
ソランは布団の上に起き上がった。乱れた髪を手櫛でかきあげる。マリーたちに毎日手入れしてもらっているそれは絹のようにすべらかで、かきあげた先から落ちてきて、すぐに顔を覆ってしまう。ソランは溜息を吐いた。
昨夜は、皆に悪いことをした。きっと、夕食もお湯の用意もしてくれていただろうに。我儘なことをした。あとで謝らないと。調理室にも顔を出そう。
そう考え、もう一度溜息を零す。
気持ちは落ち着いていた。
返事をするまで、朝は起こしに来なくていいと殿下に言われている。だから、食事も別だ。ありがたかった。昨日の今日で、とてもではないが、殿下の前で平静でなどいられない。
小屋の中であったできごとが脳裏に甦る。まなざしと声と感触と。なんと得難く、幸せな夢だろう。恐らく、一生、ソランの心を苛むにちがいない。
ソランは、やはり、女だと打ち明けられないと結論付けていた。殿下が『男のソラン』を求めているというのなら、尚更。だがそれは、殿下の思いを受け入れられないと告げることでもある。
それでも、傍に置いてもらえるだろうか、度量の広い方だから、きっと遠ざけたりはなさらない、とソランは自分に言い聞かせるように思いめぐらせる。
ただ、今までみたいに親しく傍近くにはいられない気はした。ソランもそこまで厚顔無恥ではない。適度な距離を置くことになるだろう。そしていずれは、女だとばれる前に、領地に引き込まなければならない。
そうなったとしても、女だと知られて義務で結婚されるよりは、マシだと思った。殿下も好きだと告白したからには、女が受け入れがたくても、ソランを受け入れようとするに違いない。
けれどきっと、ソランがマリーをどんなに愛していても、抱きしめる以上のことができないように、無理をすれば、いずれお互いに堪え難くなるのではなかろうか。
ソランは彼と不幸にだけはなりたくなかった。一人ならともかく、二人で共になんて、お互いのせいでそうなるなんて、耐えられなかった。
掛け布団を握り締める。いっそ泣きたかったが、涙は出てこなかった。胸の中に熱く重いものが溜まり、苦しくなるばかりだ。
泣くわけにはいかないと、思い返す。これから相手を振ろうという人間が、何を泣く理由があるだろう。
普通にしていないと。
それを心の中で繰り返す。そうしていないと、何度でも、殿下と触れ合った記憶が甦り、ソランの頭も体も支配してしまう。
ソランはマリーが起こしにくるまで、身動ぎもせず、ベッドの上に座っていた
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