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第5話
過去の残滓2
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「ジ、ジジイ、なんだあの阿呆は?」
俺は半ば呆然と呟いた。
「声を落とせ、言葉を慎め。国王陛下であらせられるぞ。それに、誰がジジイだ。心の声が駄々漏れになっておる。おまえはどうも、いつまでたっても歯に衣着せられないようだな。その歳でそれでは、正直者というより、ただの礼儀知らずというものだ。しかたないから、とにかく人前では口を噤んでいろ」
本日三度目、ベシン、と頭を叩かれ、師匠、もしくはリュスノー様に諭された。
「本気であれが国王なのか!? まさかアレを崇めろと? できるかよ!!」
あの男、俺の魔法の腕前より、容姿を重要視していたぞ!!
「ならば、おまえが王になるか? それならそれでお膳立てしてやるが」
「はぁ?」
何言ってやがるんだ、このジジイは。耄碌するには少々早いだろう。
俺は苛立ちと不信を込めて、ジジイを見た。しかし、ジジイは思いのほか、真剣な顔をしていた。
「王のお子はまだ小さい。王の次に王位に近いのは、アナローズ様の夫となるおまえだ」
「冗談だろう」
俺は笑った。
「俺は百姓の息子だぞ。そんなの話にもならないだろうが」
真理の塔でも、宮廷でも、上辺は高位の魔法使いとして尊重されても、貴族でもない、大商人の出でもない、しかも辺境の百姓の出の俺は、一部の者たちをのぞいて、けっして受け入れられることはなかった。
「それがそうでもないのだ。他は皆、傍流だからな。何十人もいるその中から王を選ぼうとすれば、争いが起きる。嫡流の姫の夫の方が、まだ無駄な争いを抑えられる」
「だとしても、俺ごときができるわけがないだろう。自分がそんな器でないのは、誰よりも俺が一番わかっている。師匠だってわかってるだろう」
「わかっておるとも。王など、誰でもよいのだよ。前王はそのように人材を揃えられた。ぼんくらでも残忍でなければよし。たとえ百姓の息子だろうと、王位の正当性が主張できるのならば、我らは担ぐに否やはないのだ」
「……どいつもこいつも、馬鹿にしやがって」
王は俺の容姿に、ジジイとその仲間は、俺の立場に興味があるだけだってのか。
「馬鹿にされないほどの何をおまえが持っている。ちょっとした魔法の腕だけではないか。自分だとて、それだけの器だと先程言っていただろう。いいか、自分でやる気がないのなら、黙って従え。実効性のない権威は国の乱れる元だ。たとえどんな阿呆だろうと、王を王として崇めるのは当たり前のことだ。それが、国王というものだからな。それに、あれはあれでなかなか王に向いていらっしゃる。なにしろ、自己顕示欲は人並み外れているから、己を貶める者に敏感で容赦ない。しかも常に人々の賞賛を得ようとしているから、それほど苛政を布くこともない」
ジジイは現守護魔法使いとしての威圧感たっぷりに俺を見据えた。
「自分で起つか、でなければ従うのだ。どちらも選ばず道を乱すならば、おまえであっても私は排除する。いいな。覚悟を決めろ」
覚悟。
その本当の意味を、当時の俺はわかっていなかった。ただ、王の犬になり下がることだと理解した程度だった。
本当の意味を知ったのは、生まれ変わった後だった。赤ん坊だったルシアンが、俺に笑いかけながら抱きついてきた時。一緒に倒れながら、その温かく柔らかい体を感じた時だった。
突然、思いがけないほど、深く思い知った。
俺は、友達を殺したんだ。大切な、仲間を。
俺は泣きだした。赤ん坊の体は堪え性がない。心理的肉体的を問わず、不快に対して敏感に泣きわめく。まわりの人間は、床に頭をしたたかにぶつけたせいだろうと、いつまでも泣きやまない俺に慌てたが、そんな理由ではなかった。
俺は恐ろしかったのだ。自分の罪に怯えていた。二度と覆らない、取り消せない罪に。
覚悟とは、王になることでも、それに従うことでもなかった。
それは、人を殺すことを命じる人間か、それを実行する人間になるかを、選べということだった。そういう義務を持つ地位に就くということ。
師匠は、それを言っていたのだった。
俺は半ば呆然と呟いた。
「声を落とせ、言葉を慎め。国王陛下であらせられるぞ。それに、誰がジジイだ。心の声が駄々漏れになっておる。おまえはどうも、いつまでたっても歯に衣着せられないようだな。その歳でそれでは、正直者というより、ただの礼儀知らずというものだ。しかたないから、とにかく人前では口を噤んでいろ」
本日三度目、ベシン、と頭を叩かれ、師匠、もしくはリュスノー様に諭された。
「本気であれが国王なのか!? まさかアレを崇めろと? できるかよ!!」
あの男、俺の魔法の腕前より、容姿を重要視していたぞ!!
「ならば、おまえが王になるか? それならそれでお膳立てしてやるが」
「はぁ?」
何言ってやがるんだ、このジジイは。耄碌するには少々早いだろう。
俺は苛立ちと不信を込めて、ジジイを見た。しかし、ジジイは思いのほか、真剣な顔をしていた。
「王のお子はまだ小さい。王の次に王位に近いのは、アナローズ様の夫となるおまえだ」
「冗談だろう」
俺は笑った。
「俺は百姓の息子だぞ。そんなの話にもならないだろうが」
真理の塔でも、宮廷でも、上辺は高位の魔法使いとして尊重されても、貴族でもない、大商人の出でもない、しかも辺境の百姓の出の俺は、一部の者たちをのぞいて、けっして受け入れられることはなかった。
「それがそうでもないのだ。他は皆、傍流だからな。何十人もいるその中から王を選ぼうとすれば、争いが起きる。嫡流の姫の夫の方が、まだ無駄な争いを抑えられる」
「だとしても、俺ごときができるわけがないだろう。自分がそんな器でないのは、誰よりも俺が一番わかっている。師匠だってわかってるだろう」
「わかっておるとも。王など、誰でもよいのだよ。前王はそのように人材を揃えられた。ぼんくらでも残忍でなければよし。たとえ百姓の息子だろうと、王位の正当性が主張できるのならば、我らは担ぐに否やはないのだ」
「……どいつもこいつも、馬鹿にしやがって」
王は俺の容姿に、ジジイとその仲間は、俺の立場に興味があるだけだってのか。
「馬鹿にされないほどの何をおまえが持っている。ちょっとした魔法の腕だけではないか。自分だとて、それだけの器だと先程言っていただろう。いいか、自分でやる気がないのなら、黙って従え。実効性のない権威は国の乱れる元だ。たとえどんな阿呆だろうと、王を王として崇めるのは当たり前のことだ。それが、国王というものだからな。それに、あれはあれでなかなか王に向いていらっしゃる。なにしろ、自己顕示欲は人並み外れているから、己を貶める者に敏感で容赦ない。しかも常に人々の賞賛を得ようとしているから、それほど苛政を布くこともない」
ジジイは現守護魔法使いとしての威圧感たっぷりに俺を見据えた。
「自分で起つか、でなければ従うのだ。どちらも選ばず道を乱すならば、おまえであっても私は排除する。いいな。覚悟を決めろ」
覚悟。
その本当の意味を、当時の俺はわかっていなかった。ただ、王の犬になり下がることだと理解した程度だった。
本当の意味を知ったのは、生まれ変わった後だった。赤ん坊だったルシアンが、俺に笑いかけながら抱きついてきた時。一緒に倒れながら、その温かく柔らかい体を感じた時だった。
突然、思いがけないほど、深く思い知った。
俺は、友達を殺したんだ。大切な、仲間を。
俺は泣きだした。赤ん坊の体は堪え性がない。心理的肉体的を問わず、不快に対して敏感に泣きわめく。まわりの人間は、床に頭をしたたかにぶつけたせいだろうと、いつまでも泣きやまない俺に慌てたが、そんな理由ではなかった。
俺は恐ろしかったのだ。自分の罪に怯えていた。二度と覆らない、取り消せない罪に。
覚悟とは、王になることでも、それに従うことでもなかった。
それは、人を殺すことを命じる人間か、それを実行する人間になるかを、選べということだった。そういう義務を持つ地位に就くということ。
師匠は、それを言っていたのだった。
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