しかたなく英雄的最後を迎えた魔法使いの受難

伊簑木サイ

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第5話

ロズニス2

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 俺はロズニスに近付いた。しゃがんで目線を合わせて聞く。

「怪我はないか? 立てるか?」

 魔力の使いすぎで体力を消耗しているかもしれない。彼女は下を向いて、床に手をついた。ん、と言いながら腰を上げようとするが、姿勢は変わらない。

「なんかー、力が入りませんー」

 上目遣いに情けない声で訴える。元気ではあるようだから、

「腰が抜けたのか」

 どれだけ怖かったのだろう。

「これがー、腰が抜けるってー言うんですかー? 初めてですよー」

 ロズニスが唇を尖らせてぼやいた。もう全然怖がってはいないようだった。
 さて。こんなところにいつまでもいるわけにはいかない。俺は彼女に両手を差し伸べた。ロズニスはそこに自然に縋りついてくる。それを抱き上げれば、腕の中で、ほうっと彼女は息をついた。

「もう、いつものブラッド様ですねー。よかったー」
「あー。本当に悪かった」

 ばつの悪い思いで謝る。すると、彼女は突如俺の胸倉を掴み、必死の目で見上げてきた。

「そうですよう。ブラッド様も悪いんですよう! だから、一緒にリュスノー様に謝ってくださいねぇっっ」
「ああ、うん。もちろんだ」

 もう、証拠隠滅とかのレベルではない。ここは二人でおとなしくジジイに叱られるしかない。気は重いが、こうなってはどうしようもなかった。

「ブラッド様、どこへ行くんですかー?」

 扉の前で立ち止まり、今まさに扉を消し飛ばそうとしていたところに、不思議そうに聞かれた。

「ん? おまえの部屋にでも送ろうかと」
「お夕飯、まだいただいてないですよー。蝋燭も消してないですー。火の用心ですー。それに、お腹、すっきすきですー。食べてからにしましょーよー」

 俺は唖然とロズニスを見下ろした。腰が抜けてるんじゃないのか。さっきの今で、この場でメシだと? なんだ、この無神経ぶりは。

「今日のメインはお魚のフライですよー。珍しい香草が付いてたじゃないですかー。あれと合わせて食べると、すっごく美味しいですよねー? ……ブラッド様ー? もしかして香草は嫌いですかー? 私、食べてあげましょーかー?」

 ロズニスは、なにやらメニューについて力説している。要は、好物らしい。俺は体の中身まで抜け出てしまいそうなほどの脱力感を覚えて、深い溜息をついた。

「まあ、そうだな。食べ物を粗末にするのはよくないな」

 そうして俺たちは、いろんなものが散乱した部屋の中で、奇跡的に無事だった夕飯ゆうめしを食った。
 この女に会ってから初めての、苛々しない、どういうわけか和やかで和気藹々とした食事だった。



 食事の後、ロズニスには一筆書いて渡し、ランジエの所へ行っていろと命じた。確か、あいつの属性も土だ。細かい制御が得意だったから、こいつを任せてもなんとかなるだろう。……たぶん。
 心配になってきて、師匠の出した課題を残らずやっておくんだぞ、とも言いつけた。課題はまだまだある。あれをやっている限り、こいつの場合、描いているか居眠りしているかだ。……たぶん。
 どうにも不安が拭えず、ロズ二スの頭に手をのせて、ポンポンと叩きながら諭した。

「いい子にしてろよ」
「いー子ってー、私、ブラッド様より年上ですよー」
「ああ、そうだっけ」

 ロズニスの不満顔がおかしくて笑う。こんな手間隙かかる年上なんて、他に知らねーよ。

「拗ねるな。土産を買ってきてやるからな」
「じゃー、美味しーものがいーですー」

 おお。遠慮のない奴め。まったく、この女、色気の欠片もない。まあその分、気楽なんだが。

「わかった。美味うまいものだな。楽しみにしてろ」

 俺は最後に一つ、親しみを込めて、麦穂色の頭を小突いてやったのだった。
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