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第6話
ブラッド王子極秘捜索隊1
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宵の口。ある高級旅籠の一室。
人払いをした室内には、ルシアン王子、リチェル姫、リュスノー閣下、それに、王が差し向けたブラッド王子極秘捜索隊の定期連絡係がいるだけだった。
べつに、彼らはブラッド王子を罪人として追っているわけではない。
世界でも有数の魔法使いとして知られている王子は、常にその命を狙われている。その上、放っておけば何をしでかすかわからない性格もしており、この捜索は、王子の安全確保が目的だった。
「覚えがないと言われて、はいそうですかと引き下がっただけ? 張り込んだりはしてないの?」
ルシアン王子は鋭い目つきで報告係を詰問した。
「いえ、もちろん、宿、金貸し、商人、娼館、すべてに監視を付けてあるのですが、それらしき者は捕まらず、……申し訳ございません」
商人の格好をした密偵は、深く頭を下げた。五日に一遍の定期報告のたびに、はかばかしい報告は一度もできていない。どうなじられても言い訳はできなかった。
ここ何週間かで、国の南部では様々な噂が乱れ飛ぶようになっている。今彼らは、ブラッド王子と繋がっていそうなその噂の真相を探るべく動いていた。
南部の広域にわたって盗賊集団が何者かによって統率され、被害がまったくなくなっており、また、商人たちが凄腕の護衛を雇い、盗賊の頻発出現地域であるクラジャニーニャ越えをして利益を上げたりもしている。
その立役者の名は、『盗賊王』。または、『鉄拳制裁の死神』、『商隊の守護悪霊』。しかも、陳腐な二つ名のそれら全部に、黒髪の、だの、最強で最凶で最狂の、だのという冠詞がついていた。
となれば、その無茶苦茶な行動といい、本名を憚って二つ名を山盛り付けられることといい、誰と言われなくても、誰もがただ一人の人物を思い浮かべる。
さらにそれだけでなく、花街では娼婦たちに人気の『貴公子』なる人物が派手に遊んでいるというものや、あちこちの金貸しから多額の金を集めている『借金王』がいるなどという報も入っており、いったいあの人、何をしているのかと、最早心配を通り越して頭が痛い事態になっていた。
つまり、着々と王子は墓穴を掘っていらっしゃるのであった。
何しろ彼は、破壊神の権化として悪名を世界中に轟かせている超有名人だ。こうしている間にも、他国にもこれらの噂は尾ひれがついて伝わり始めていた。
曰く、世界最凶の魔法使いが退屈しのぎに騒乱を起こすため、盗賊を私兵に仕立て上げて、他国に攻め込む機会を虎視眈々と狙っている。手始めは、ネニャフル南部と国境を接する国々になるだろう。などというものだった。
そうされてはたまらないと、今後ますます彼を狙う暗殺者は増えるだろう。
だいたい、今回のルシアン王子一行の旅の目的の一つは、増えるばかりのブラッド王子を狙った暗殺者を、婚約話でこちらに引きつけ、一度一掃するというものだった。
そのために、王宮でも最も安全と言われる真理の塔に、しっかり閉じ込めてきたはずなのに、なぜか、ブラッド王子本人のご活躍によって、状況はさらに悪化しているという状況だ。
救いは、王子が掌中に治めたのが盗賊集団だったというところだろうか。彼らは影ばかりで形も尻尾も掴ませない手腕を持っていた。しかし、それも本職の暗殺者が来れば、どれほどの盾になるかわからない。
王子がこちらを追ってこようとした時のために、最短ルートで合流できるよう、密かに旅程を書き付けた地図が手に渡るようにしてあったのに、どういうわけか王子はいっこうに姿を現さなかった。
それがよけいに不安を煽る。弟命な彼が姿を現せない何かがあるのかと、考えずにはいられないからだ。
まあ、案外、娼婦や盗賊たちと仲良くしているからかもしれなかったが。なにしろ、『娼婦の情人』で、『盗賊の思い人』らしいから。
黙ったルシアン王子から、一気にすさまじい怒気が膨れ上がり、リュスノー閣下は少々早口に報告係に声をかけた。
「ご苦労だった。下がってよい」
「は。失礼致します」
報告係は頭を下げると、素早く退出していった。
人払いをした室内には、ルシアン王子、リチェル姫、リュスノー閣下、それに、王が差し向けたブラッド王子極秘捜索隊の定期連絡係がいるだけだった。
べつに、彼らはブラッド王子を罪人として追っているわけではない。
世界でも有数の魔法使いとして知られている王子は、常にその命を狙われている。その上、放っておけば何をしでかすかわからない性格もしており、この捜索は、王子の安全確保が目的だった。
「覚えがないと言われて、はいそうですかと引き下がっただけ? 張り込んだりはしてないの?」
ルシアン王子は鋭い目つきで報告係を詰問した。
「いえ、もちろん、宿、金貸し、商人、娼館、すべてに監視を付けてあるのですが、それらしき者は捕まらず、……申し訳ございません」
商人の格好をした密偵は、深く頭を下げた。五日に一遍の定期報告のたびに、はかばかしい報告は一度もできていない。どうなじられても言い訳はできなかった。
ここ何週間かで、国の南部では様々な噂が乱れ飛ぶようになっている。今彼らは、ブラッド王子と繋がっていそうなその噂の真相を探るべく動いていた。
南部の広域にわたって盗賊集団が何者かによって統率され、被害がまったくなくなっており、また、商人たちが凄腕の護衛を雇い、盗賊の頻発出現地域であるクラジャニーニャ越えをして利益を上げたりもしている。
その立役者の名は、『盗賊王』。または、『鉄拳制裁の死神』、『商隊の守護悪霊』。しかも、陳腐な二つ名のそれら全部に、黒髪の、だの、最強で最凶で最狂の、だのという冠詞がついていた。
となれば、その無茶苦茶な行動といい、本名を憚って二つ名を山盛り付けられることといい、誰と言われなくても、誰もがただ一人の人物を思い浮かべる。
さらにそれだけでなく、花街では娼婦たちに人気の『貴公子』なる人物が派手に遊んでいるというものや、あちこちの金貸しから多額の金を集めている『借金王』がいるなどという報も入っており、いったいあの人、何をしているのかと、最早心配を通り越して頭が痛い事態になっていた。
つまり、着々と王子は墓穴を掘っていらっしゃるのであった。
何しろ彼は、破壊神の権化として悪名を世界中に轟かせている超有名人だ。こうしている間にも、他国にもこれらの噂は尾ひれがついて伝わり始めていた。
曰く、世界最凶の魔法使いが退屈しのぎに騒乱を起こすため、盗賊を私兵に仕立て上げて、他国に攻め込む機会を虎視眈々と狙っている。手始めは、ネニャフル南部と国境を接する国々になるだろう。などというものだった。
そうされてはたまらないと、今後ますます彼を狙う暗殺者は増えるだろう。
だいたい、今回のルシアン王子一行の旅の目的の一つは、増えるばかりのブラッド王子を狙った暗殺者を、婚約話でこちらに引きつけ、一度一掃するというものだった。
そのために、王宮でも最も安全と言われる真理の塔に、しっかり閉じ込めてきたはずなのに、なぜか、ブラッド王子本人のご活躍によって、状況はさらに悪化しているという状況だ。
救いは、王子が掌中に治めたのが盗賊集団だったというところだろうか。彼らは影ばかりで形も尻尾も掴ませない手腕を持っていた。しかし、それも本職の暗殺者が来れば、どれほどの盾になるかわからない。
王子がこちらを追ってこようとした時のために、最短ルートで合流できるよう、密かに旅程を書き付けた地図が手に渡るようにしてあったのに、どういうわけか王子はいっこうに姿を現さなかった。
それがよけいに不安を煽る。弟命な彼が姿を現せない何かがあるのかと、考えずにはいられないからだ。
まあ、案外、娼婦や盗賊たちと仲良くしているからかもしれなかったが。なにしろ、『娼婦の情人』で、『盗賊の思い人』らしいから。
黙ったルシアン王子から、一気にすさまじい怒気が膨れ上がり、リュスノー閣下は少々早口に報告係に声をかけた。
「ご苦労だった。下がってよい」
「は。失礼致します」
報告係は頭を下げると、素早く退出していった。
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