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第6話
ブラッド王子極秘捜索隊2
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「心配はないと思いますよ」
閣下はルシアン王子をなだめるように言った。
「宿の主人も、大きく金を動かしている金貸しも、関わっていると思しき商人も、娼婦たちも、覚えがございませんの一点張りなのは、見事に人心を掌握しているからでしょう。それが、王子ご本人のお力か、『悪霊』の仕業かはわかりませんが」
それを聞いて、リチェル姫は興味津々に閣下に尋ねた。
「閣下はずいぶんと、その『悪霊』を買ってらっしゃいますのね。生前はどんな方でしたの?」
「そうですね」
そこまで言って、閣下は遠くを見つめて、懐かしそうな表情を浮かべた。
「簡単に言えば、無類のお人好し、でしょうか。信義に篤く、懐が広く、身内だと認識すればとことん守ろうとする男でした。それに、敵と見なした相手とも、得意の魔法ではなく、拳で決着をつけるような一本気なところがありましてな。ですから、まあ、なんといいますか、不思議なのですが、彼に関わると、敵も味方もひっくるめて、誰も彼も仲間みたいな感じになってしまったのですよ。実際、塔の中では彼と反目していた者も、外で彼の悪い噂を聞けば、かばっていましたからね」
「まあ、とても興味深いお方でしたのね。そういえば、離宮勤めの者たちは、とても口が堅かったですわ。おかげで、ルシアン様の情報が集まらなくて、苦労いたしました。あれは、ブラッド様を守るためだったのですね。ブラッド様は、姿だけでなく、性格も似られたのですね」
弟の名声が、双子の兄を貶めるものとなってしまう。それほどに今のブラッド王子の名は一人歩きして、悪循環に陥っていた。だから、離宮の人員は、極力中の様子を外に漏らさないように努めていた。
「そうでしょうな。彼らを知らない者は、その行動故に謗りますが、彼らを知る者は、その人柄故に、大なり小なり仲間意識を持つ。……そう、とても魅力的な男でしたよ」
楽しげに語って、閣下はそう締めくくった。そして、むっつりと黙り込んでいるルシアン王子に話しかけた。
「これといった情報がないのが、無事であるという証拠でしょう。あのブラッド様のことですから」
「ああ。そうだろうね」
王子は瞳だけ動かして閣下に視線をやると、呟くように同意を示した。
事態が進展しない状況では、これ以上の話し合いは無駄である。それはお互いにわかっていた。
「では、私はこれで失礼いたします。御用があれば、いつでもお呼びください」
「ご苦労だった」
王子のねぎらいの言葉に礼を返し、リュスノー閣下も部屋を出ていったのだった。
リチェル姫と二人きりになると、ルシアン王子は上を向いて溜息をこぼして、背もたれへと体を投げ出した。
姫は唇に人差し指を当て、少し考えた後に言った。
「大丈夫でしてよ。ブラッド様はルシアン様のために行動していらっしゃるのですから」
王子はそれに答えなかった。ただ、天井を睨みつけている。
「全部、ルシアン様のためですわ。それは疑いありませんわ」
『盗賊王』の噂の中には、凄惨なものもあった。言うことを聞かない者は、すべて殴り殺したというのだ。だから、『鉄拳制裁の死神』などという二つ名までついている。
それを、人を殺すのが大嫌いなブラッド王子が、好んでしたわけがない。けれど、そういったことを人任せにするような性格でないのはわかっていた。
「うるさい」
ルシアン王子は、腕で目元を覆って、悪態をついた。
「あら、こんなに思われているのに、怖気づいていらっしゃるの?」
ほんの少し、揶揄して煽る響きが声に混じっている。
「ルシアン様は、ブラッド様を独り占めしたいんじゃなかったんですの?」
「そうだ。でも、違う」
王子は、相反することを言った。
「それだけではないと? まあ、初耳でしてよ。では、どうなさりたいの?」
「俺は、ただ」
それまで彼らしくもなく素直に答えていたルシアン王子は、そこで急に口を閉ざした。同時に心も閉ざしてしまう。
何者も寄せ付けない拒絶を感じ取ったリチェル姫は、ふうっと溜息をつくと、席を立った。
「私、部屋に引き上げますわ。おやすみなさいませ、ルシアン様」
そうして一人きりになった部屋で、王子は、どこにいるかもわからない兄に向かって、ぽつりと呼びかけた。
「俺を一人にしないで」
それは、常の王子からは想像もつかない、とても弱々しい声だった。
閣下はルシアン王子をなだめるように言った。
「宿の主人も、大きく金を動かしている金貸しも、関わっていると思しき商人も、娼婦たちも、覚えがございませんの一点張りなのは、見事に人心を掌握しているからでしょう。それが、王子ご本人のお力か、『悪霊』の仕業かはわかりませんが」
それを聞いて、リチェル姫は興味津々に閣下に尋ねた。
「閣下はずいぶんと、その『悪霊』を買ってらっしゃいますのね。生前はどんな方でしたの?」
「そうですね」
そこまで言って、閣下は遠くを見つめて、懐かしそうな表情を浮かべた。
「簡単に言えば、無類のお人好し、でしょうか。信義に篤く、懐が広く、身内だと認識すればとことん守ろうとする男でした。それに、敵と見なした相手とも、得意の魔法ではなく、拳で決着をつけるような一本気なところがありましてな。ですから、まあ、なんといいますか、不思議なのですが、彼に関わると、敵も味方もひっくるめて、誰も彼も仲間みたいな感じになってしまったのですよ。実際、塔の中では彼と反目していた者も、外で彼の悪い噂を聞けば、かばっていましたからね」
「まあ、とても興味深いお方でしたのね。そういえば、離宮勤めの者たちは、とても口が堅かったですわ。おかげで、ルシアン様の情報が集まらなくて、苦労いたしました。あれは、ブラッド様を守るためだったのですね。ブラッド様は、姿だけでなく、性格も似られたのですね」
弟の名声が、双子の兄を貶めるものとなってしまう。それほどに今のブラッド王子の名は一人歩きして、悪循環に陥っていた。だから、離宮の人員は、極力中の様子を外に漏らさないように努めていた。
「そうでしょうな。彼らを知らない者は、その行動故に謗りますが、彼らを知る者は、その人柄故に、大なり小なり仲間意識を持つ。……そう、とても魅力的な男でしたよ」
楽しげに語って、閣下はそう締めくくった。そして、むっつりと黙り込んでいるルシアン王子に話しかけた。
「これといった情報がないのが、無事であるという証拠でしょう。あのブラッド様のことですから」
「ああ。そうだろうね」
王子は瞳だけ動かして閣下に視線をやると、呟くように同意を示した。
事態が進展しない状況では、これ以上の話し合いは無駄である。それはお互いにわかっていた。
「では、私はこれで失礼いたします。御用があれば、いつでもお呼びください」
「ご苦労だった」
王子のねぎらいの言葉に礼を返し、リュスノー閣下も部屋を出ていったのだった。
リチェル姫と二人きりになると、ルシアン王子は上を向いて溜息をこぼして、背もたれへと体を投げ出した。
姫は唇に人差し指を当て、少し考えた後に言った。
「大丈夫でしてよ。ブラッド様はルシアン様のために行動していらっしゃるのですから」
王子はそれに答えなかった。ただ、天井を睨みつけている。
「全部、ルシアン様のためですわ。それは疑いありませんわ」
『盗賊王』の噂の中には、凄惨なものもあった。言うことを聞かない者は、すべて殴り殺したというのだ。だから、『鉄拳制裁の死神』などという二つ名までついている。
それを、人を殺すのが大嫌いなブラッド王子が、好んでしたわけがない。けれど、そういったことを人任せにするような性格でないのはわかっていた。
「うるさい」
ルシアン王子は、腕で目元を覆って、悪態をついた。
「あら、こんなに思われているのに、怖気づいていらっしゃるの?」
ほんの少し、揶揄して煽る響きが声に混じっている。
「ルシアン様は、ブラッド様を独り占めしたいんじゃなかったんですの?」
「そうだ。でも、違う」
王子は、相反することを言った。
「それだけではないと? まあ、初耳でしてよ。では、どうなさりたいの?」
「俺は、ただ」
それまで彼らしくもなく素直に答えていたルシアン王子は、そこで急に口を閉ざした。同時に心も閉ざしてしまう。
何者も寄せ付けない拒絶を感じ取ったリチェル姫は、ふうっと溜息をつくと、席を立った。
「私、部屋に引き上げますわ。おやすみなさいませ、ルシアン様」
そうして一人きりになった部屋で、王子は、どこにいるかもわからない兄に向かって、ぽつりと呼びかけた。
「俺を一人にしないで」
それは、常の王子からは想像もつかない、とても弱々しい声だった。
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