しかたなく英雄的最後を迎えた魔法使いの受難

伊簑木サイ

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第6話

初顔合わせ2

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 たいして待たされもしないで、食事が運ばれてきた。手下たちは俯きがちにして、黙々と皿を机の上に並べていく。ところが途中で置き所がなくなり、奴らが困ってうろうろするので、ベッドの上に置けと指示した。
 最後に大鍋がテーブルの真ん中に据えられ、カルディだけが残った。報告をするためだ。

 奴はそれら全部を眺めて、呆れたように口を開いた。が、冷たい一瞥をくれてやると、何も言わずに口を閉じた。
 言いたいことはわかる。今までさんざんいろいろ言われてきたからな、だいたい目つきで内容はわかる。
 俺たちは並外れた大食漢なのだ。

 魔法使いの特徴だ。それでたいてい、赤ん坊の頃から魔力持ちかどうかわかるのだ。
 十羽一絡げの魔法使いでも人の倍は食べる。俺やルシアンにいたっては、五倍くらいになるだろうか。あのロズニスだって、騎士団の男たちなんぞ足元にも及ばない食欲を示す。

 だから貧乏人の子は、まともに育たないことも多い。前世でうちはマシな方だったが、それでも好きなだけというわけにはいかなかったし、ルシアンにいたっては、がりがりに痩せていた。
 とにかく常時腹が空いているので、カリカリするし、遊びの半分は食糧確保だった。魚やザリガニを獲って、その場で焼いたり茹でたりして食べるのは普通だったし、鳥、卵、カエル、トカゲ、野草や木の実、食えるもんならなんでも食った。旨いか旨くないかじゃない。腹が満ちるかどうかの問題だった。

 そんなだから、俺たちは早食いだ。五倍の時間をかけているわけにはいかないというより、人に食われる前に自分の腹に収める癖がついてる。
 そんな俺たちに食えないもんがあるわけない。まっとうに調理されているだけありがたいくらいだ。

 しばらく異様なものを見るように俺たちを見守っていたカルディは、空いた皿をまとめて床の上に下ろし、ベッドの上から新しい盆を運んできた。それを順番に繰り返して全部運び終わったところで、奴は改めて書類を手にした。

 特に緊急事項はないこと、新しい仕事の依頼について、元職人だった奴らの復帰状況について、借金の総額について。
 最後のところで、ルシアンが口を挿んだ。

「金は治安維持名目で国から出る予定。閣下が申請してくれてるから、たぶんそろそろ認可証が届くと思う」

 ジジイ、気が利くな、と思ったが、骨付きの鶏肉をしゃぶってたために、頷くにとどめた。ジジイも直接言ってくれたら、少しは感謝してみせたのに。

「言っておくけど、だからって好き放題使えるわけじゃないよ。国の金を使うってことは、監査が付くってことだからね。認可証と一緒に監査官が来るから、これからはビタ一文として無駄に使えなくなるからね」

 ルシアンは俺にではなく、カルディに艶っぽい流し目をくれながら言った。幸い言いつけを守って視線をそらしているからいいようなものの、直視してたら、ルシアンが男とわかっていてもむしゃぶりつきたくなるに違いないものだ。
 どうやらカルディは、ルシアンに完全に目を付けられてしまったようだった。

 俺には今のルシアンが、獲物を狙って舌なめずりしている大型肉食獣に見える。隙を見せたら、あっという間に飛び掛って、喉笛を噛み切るに違いない。
 それが全部色気に転化されて駄々漏れになるって、ネニャフルの血って、いったいどうなってんだろうかと、改めて疑問に思う。

 それはともかくとして、だ。とにかく明日になる前に、ジジイとリチェル姫のところへルシアンを置いてこようと決心した。でないと、あまりに危険すぎる。
 カルディだけじゃない。誰一人として、ルシアンに殺させるわけにはいかないのだから。

 俺はそのためにここにこうしているし、手下どもも動いてくれている。その手下どもをルシアンに殺させたら、本末転倒も甚だしい。

「ルシアン、これも旨いぞ」

 カルディから意識をそらさせるべく、俺は適当な皿をルシアンに押しやった。ありがとう、と見せる笑顔は子猫なのにな。
 俺は苦笑して頭を切り替えることにした。まあ、なにがどうであれ、目の前の用事を、一つ一つこなしていくしかないのは変わりない。

 俺は今日の予定を頭の中で思い描いた。
 依頼のあった商人を呼んで打ち合わせをして、兄弟子の道具をへし折って殴られた馬鹿を連れて詫びに行って、それから、えーと、後はなんだっけ。

 俺が食事の手を止めて、なんとなく天井を見上げて考え込んだ時だった。

 ゴツン、バリン、ゴ、ゴツ、バリ、ゴリ、と硬い何かがぶち当たるような音が近付いてくる。と思ったら天井に穴が開いて、黒っぽい物体が落下してきた。テーブルの真ん中にある鍋の中に、天井の破片と一緒にぼちゃんと飛び込み、底に当たってゴンと音を響かせた。急に静かになる。
 俺とルシアンは、そろって顔に飛び散ったスープを拭いた。

「何だ、今のは」

 立ち上がって鍋の中を覗き込む。木片が浮いている。これを除けたら、まだスープは食えそうだ。せっかくの旨いスープを残すのは勿体ない。
 具をよけながら、謎の物体をおたまでつついてみた。動かない。思い切って、すくい上げてみる。

「ん?」

 見たことがある。気がする。それも、ごく最近に。
 嫌な予感に眉をしかめたところで、覗き込んできたカルディが、緊張した声で先に言った。

「それ、『連絡玉』じゃないのか」

 スープと野菜にまみれたそれは、確かに俺が魔法を使って作り上げて手下どもに持たせた、緊急連絡用の、仮称『連絡玉』だった。
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