しかたなく英雄的最後を迎えた魔法使いの受難

伊簑木サイ

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第6話

初顔合わせ1

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 立ったまま、パンをスープで流し込んでいるところにジジイがやってきて、ルシアンの別行動はあっさりと了承された。
 そして、ルシアンには、お気をつけください、と真面目な顔で言ったくせに、俺には、馬鹿なことばかりなさらないように、と釘を刺しやがったのだった。
 俺は何も言い返さなかった。言っても無駄だと昨夜学習したし、とにかく口の中がものでいっぱいだったからだ。

 そのまま俺は不機嫌に空に上がった。すぐにルシアンも追いついてきた。
 そうして俺たちはロカンに向かったのだった。



 宿の下の食堂から入れば、そこで陰気に酒だか茶だかをすすっていたカルディ以下手下八人が、俺を見ていっせいに立ち上がり、無言で頭を下げた。
 俺は奴らと必要以上に言葉を交わさないようにしている。奴らの事なんか、あまり詳しく知りたくないからだ。親しくなればなるほど、何かあったときに制裁を下すのが辛くなる。初めで懲りた。
 まあ、手綱をとらなきゃいけないから、じっくり観察だけはしているし、なんだかんだいって顔や名前どころか性格まで、なんとなく把握してしまっているんだけどな。

「やっと帰ったか。今日は遅かったな」

 そんな中でもカルディだけは別で、いくら邪険にしても、こうしていらない軽口を叩く。そして、いつの間にか右腕的存在になっていた。雑用全般、全部こいつ任せだ。

「お。そっちは?」

 俺の後ろから入ってきて横に並んだルシアンを見て、カルディが目を見開いた。他の奴らも同様だ。
 どいつもこいつも好奇心むき出し。中には、ぱかーと口を開けて見惚れているのもいる。気持ちはわかるが、とにかくその無遠慮な視線は良くない。
 俺だって不愉快に感じるのに、ルシアンの逆鱗に触れたらどうなることか。

「見るな」

 俺は低い声で命じた。手下たちが戸惑いながら、顔をそらした。
 が、意識はしっかりこちらにある。その指示だけでは足りないのがわかって、続けて警告した。

「こいつに話しかけるな。触ったら、殺すぞ」
「そちら様の存在は無視しろってか?」

 カルディは、相変わらず軽い調子でからかい気味に返してきたが、俺は奴の前の金属の杯を魔法でぐしゃりと潰してやった。中の液体がテーブルに零れる。

「思いあがるなよ。おまえらは壁になれ。こいつの視界に入るな、気配を感じさせるな、存在を消せ、いっそ息を止めてろ」

 我ながら酷い要求だが、死ぬよりはましなはずだ。

「壁。さようですか。へーへー。お言葉のままに」

 奴は腕を大きくまわして胸に当て、滑稽に貴族の真似をしてみせた。緊張感のかけらもない。わかってないんだからしかたないが。
 俺は徒労感を覚えて奴を無視し、カウンターの中で忙しく手を動かしているオヤジさんに一声掛けた。ごつくて猪のような顔つき体つきの男だ。

「オヤジさん、急で悪いけど、なんか用意してくれないか?」
「はいよ。そちらさんは食えないもんはあるかね」
「特にない」
「すぐに持っていくよ」
「ありがとう」

 オヤジの容貌はこれだし、安宿で食事も粗末だが、味はいい。それでこの宿にしたのだ。
 その時、ルシアンがカルディを見て、突然話しかけた。

「名は?」

 奴は、で、どーすんだ? とばかりに首を傾げて俺を見た。俺はそれを黙殺して、自分で教える。

「カルディだ」
「ふうん。カルディね。覚えておくよ」

 ルシアンは奴に、にっこりと微笑みかけた。破壊力満点の特上の笑顔で。
 こっそりと横目で様子を窺っていた奴らが、全員息を呑んで、目が釘付けになっている。それはもちろん、直接攻撃を食らった鼻持ちならないカルディも同様だ。

「ルシアン」

 俺は顎を振って、階段を指し示した。これ以上ここにいるのはまずい。ルシアンのあれは、たぶん宣戦布告だ。奴らがなにか一つでもヘマをやらかさないうちに、引き離さなければならない。
 やっぱり連れてくるべきではなかった。思った以上に面倒なことになりそうだ。
 俺は激しい後悔に、密かに溜息をついたのだった。
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