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第6話
ブラッドの願い
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前方に大きな建物群が見えてきた。あれがぺリウィンクルの王都だろう。
俺は見落とさないために、少し速度を落とした。そして、とうとう、岩場がちな場所で人が倒れているのを発見したのだった。
何も言わなくても察したルシアンから魔力の供給が切られる。俺たちは手を離した。
俺は人影の真上で止まって、風属性に傾いてしまった体の中の魔力を、本来あるべき姿に整えた。
仰向けにされた姿は、どれもぴくりとも動かない。人影は四つ。ジスカールを筆頭に商隊を任せた人数と同じだ。だが、高度がまだありすぎるために、ここからでは造作までは見分けられなかった。
「罠だよ」
「わかってる」
ルシアンの指摘に、俺も頷いた。
連絡玉には血がついていた。なのに、血溜まりの跡が一つもないのはおかしい。恐らく、他から身を隠す場所の多いここへ運ばれたのだろう。
それに、一晩も血の匂いのするものが外に転がされていて、鳥につつかれてもいなければ、獣に腸を食い荒らされてもいないなんてありえない。たぶん、なんらかの仕掛けが施されている。
なんのために?
俺を捕まえるために。いや、殺すために、か。
そういえば、いろんなところから命を狙われていたんだっけと思い出す。この頃刺客に遭わなかったから、すっかり忘れていた。
降りていけば、何らかの攻撃を受けるに違いない。まさか、あれだけの火炎を扱った魔法使い相手に、弓矢で仕掛けようなんて考えるわけがないから、魔法陣が順当か。
「ルシアン」
「黙って見てろなんて、聞かないよ」
まだ何も言っていないのに、珍しく笑顔でごまかしもせず、ルシアンが主張した。
「うん。手伝ってくれ。攻撃に専念したいから、おまえに防御をお願いしたいんだ」
「あのさあ、わかってる? 俺の方が攻撃向きの能力だって」
呆れ顔でルシアンは言った。
「わかってる。だけど、考えてもみろよ。ぺリウィンクルとは、いずれ本格的にやりあわなきゃならない。こんなところで、俺たちの本当の能力を見せてやる必要はないだろう?」
しばらく俺を見ていたルシアンは、苛立たしげに目をそらして、盛大に溜息をついた。
「いっそ、あれごと焼き払っちゃえばいいんだよ。何の証拠も残らないように、塵一つ残さずにさ」
その視線の先には、王都。
やれないことは承知の上でのぼやきだ。そんなことをしたら、世界中から非難をくらうだろうし、無政府状態になったぺリウィンクルはもっと荒れてしまう。面倒事が増えるだけだ。
「まあ、それは、いつか、おまえがどうしてもって言うんなら、俺がやってやるよ」
俺は苦笑して言った。
ルシアンに人を殺させたくないのは、ただのよけいなお世話で、俺の我儘なのはわかってる。
でも、どうしても、自分が何をしているのかも理解せずに、世界を切り捨てていってほしくない。
口で言ってわかることじゃない。俺だって、言葉で説明できる自信がない。それに、ルシアンを俺の言うことをきく人形にしたいわけでもないんだ。
ただ、俺たちには永遠にも近い時間があるから、きっといつか、ルシアンも世界に意味を見出す日が来ると信じたいだけだ。
だから、それまでは、俺は俺の我儘を押し通す。
俺が、そうしたいから。これだけは、誰の文句も受け付けない。
ルシアンが驚いたように目を見開き、それからなぜか、へにゃりと情けなく笑み崩れた。
「ブラッドってさあ」
溜息のように言って、黙り込む。いつまでたっても何も言わない。俺は焦れて聞いた。
「俺がなんだよ」
「……うん。兄さんには、敵わないなって」
「なんだそれ」
俺は笑った。ルシアンはそれ以上言う気がないらしい。わけがわからないが、まあ、いいだろう。ルシアンの機嫌は悪くないから。
「だったら、お兄様の言うことをおとなしくきいてもらおうか」
俺たちは示し合わせたわけでもなく、揃って下を見た。
「あいつらも守ってやってくれ」
「了解」
「それから、」
「誰も殺すな、でしょ。わかってるよ。全部、お兄様の仰せのままに」
ルシアンは胸に手を当て、空の上で優雅に礼をした。
俺は見落とさないために、少し速度を落とした。そして、とうとう、岩場がちな場所で人が倒れているのを発見したのだった。
何も言わなくても察したルシアンから魔力の供給が切られる。俺たちは手を離した。
俺は人影の真上で止まって、風属性に傾いてしまった体の中の魔力を、本来あるべき姿に整えた。
仰向けにされた姿は、どれもぴくりとも動かない。人影は四つ。ジスカールを筆頭に商隊を任せた人数と同じだ。だが、高度がまだありすぎるために、ここからでは造作までは見分けられなかった。
「罠だよ」
「わかってる」
ルシアンの指摘に、俺も頷いた。
連絡玉には血がついていた。なのに、血溜まりの跡が一つもないのはおかしい。恐らく、他から身を隠す場所の多いここへ運ばれたのだろう。
それに、一晩も血の匂いのするものが外に転がされていて、鳥につつかれてもいなければ、獣に腸を食い荒らされてもいないなんてありえない。たぶん、なんらかの仕掛けが施されている。
なんのために?
俺を捕まえるために。いや、殺すために、か。
そういえば、いろんなところから命を狙われていたんだっけと思い出す。この頃刺客に遭わなかったから、すっかり忘れていた。
降りていけば、何らかの攻撃を受けるに違いない。まさか、あれだけの火炎を扱った魔法使い相手に、弓矢で仕掛けようなんて考えるわけがないから、魔法陣が順当か。
「ルシアン」
「黙って見てろなんて、聞かないよ」
まだ何も言っていないのに、珍しく笑顔でごまかしもせず、ルシアンが主張した。
「うん。手伝ってくれ。攻撃に専念したいから、おまえに防御をお願いしたいんだ」
「あのさあ、わかってる? 俺の方が攻撃向きの能力だって」
呆れ顔でルシアンは言った。
「わかってる。だけど、考えてもみろよ。ぺリウィンクルとは、いずれ本格的にやりあわなきゃならない。こんなところで、俺たちの本当の能力を見せてやる必要はないだろう?」
しばらく俺を見ていたルシアンは、苛立たしげに目をそらして、盛大に溜息をついた。
「いっそ、あれごと焼き払っちゃえばいいんだよ。何の証拠も残らないように、塵一つ残さずにさ」
その視線の先には、王都。
やれないことは承知の上でのぼやきだ。そんなことをしたら、世界中から非難をくらうだろうし、無政府状態になったぺリウィンクルはもっと荒れてしまう。面倒事が増えるだけだ。
「まあ、それは、いつか、おまえがどうしてもって言うんなら、俺がやってやるよ」
俺は苦笑して言った。
ルシアンに人を殺させたくないのは、ただのよけいなお世話で、俺の我儘なのはわかってる。
でも、どうしても、自分が何をしているのかも理解せずに、世界を切り捨てていってほしくない。
口で言ってわかることじゃない。俺だって、言葉で説明できる自信がない。それに、ルシアンを俺の言うことをきく人形にしたいわけでもないんだ。
ただ、俺たちには永遠にも近い時間があるから、きっといつか、ルシアンも世界に意味を見出す日が来ると信じたいだけだ。
だから、それまでは、俺は俺の我儘を押し通す。
俺が、そうしたいから。これだけは、誰の文句も受け付けない。
ルシアンが驚いたように目を見開き、それからなぜか、へにゃりと情けなく笑み崩れた。
「ブラッドってさあ」
溜息のように言って、黙り込む。いつまでたっても何も言わない。俺は焦れて聞いた。
「俺がなんだよ」
「……うん。兄さんには、敵わないなって」
「なんだそれ」
俺は笑った。ルシアンはそれ以上言う気がないらしい。わけがわからないが、まあ、いいだろう。ルシアンの機嫌は悪くないから。
「だったら、お兄様の言うことをおとなしくきいてもらおうか」
俺たちは示し合わせたわけでもなく、揃って下を見た。
「あいつらも守ってやってくれ」
「了解」
「それから、」
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ルシアンは胸に手を当て、空の上で優雅に礼をした。
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