しかたなく英雄的最後を迎えた魔法使いの受難

伊簑木サイ

文字の大きさ
74 / 104
第6話

叩きのめす1

しおりを挟む
 俺は上着の内側をあさって、いくつかの魔法陣をはずした。それをルシアンにジャラリと渡す。

「水と木な。一応、防御系。効果はドバーとかドーンって感じで立ち塞がるやつ。詳しくは陣を読み解いてくれ」

 魔法は一時いちどきにいくつも扱えない。詠唱が必要ない俺たちでも、それは変わらない。注意を向け、魔力を注いでいる魔法しか作動させられないからだ。
 その欠点を補えるのが魔法陣だ。魔力を集めつつ収斂させるタイプ(たとえば多人数で行使する大魔法)は別だが、必要な魔力も閉じ込めてあるものは、起動してやるだけで発動する。

 俺たちは、それぞれ自分の得意な系統とは反対のもので名を売っている。俺は火だし、ルシアンは水と木だ。
 防御はルシアンの自前の魔法でやってもらうことになるだろうが、魔法陣を隠れ蓑にすれば、俺たちの能力を明かさずにすむ。

 俺も火系の魔法陣を拳にはめた鉄甲に仕込んだ。これで炎をまとわせて目くらまし代わりだ。他にも、風系をベルトのあたりに移動させておく。

「用意はいいか?」
「いつでもどうぞ」

 緊張感の欠片もないやりとりの末に、俺たちは可及的すみやかに大地に降り立った。



 地面に足が着く。と同時に、足元から光が立ちのぼった。砂の下に魔法陣が刻まれていたのだろう。それが発動したのだ。
 即座に、俺のまわりを優しい風が包み込んだ。これはルシアンの守りの魔法だろう。
 俺は何の心配もせずに、ジスカールの傍らに膝をついた。手を伸ばし、喉元に触れる。まだ、あたたかい。肌の張りも、死人のそれとは違う。それにもしやと思い、念入りにさぐると、弱々しいが脈が感じられた。

 切り裂かれた服をめくってみれば、下には包帯が巻いてあった。もちろんこれは、奴らの温情なんかじゃない。死ぬ一歩手前の状態を保たせてあるだけだ。
 囮が死んでいなければ、それも動かせない状態ならばよけいに、それは抱え込んだ者の足手まといになるからだ。

「生きてたの?」
「ああ。助かるかわからないけどな」

 俺は立ち上がって、光の帯を見ながら聞いた。

「ところで、これは何をしてるんだ?」
「空気を抜いてるようだね。つまり、息ができなくなる予定だったみたい」
「くそったれが」

 俺は思わず吐き捨てた。ふつり、と頭の中で何かが切れる音がする。一瞬、目の前が真っ白になり、連絡玉が届いた時から、腹の中でぐるぐるととぐろを巻いていたものが、とうとう解けて噴出してきた。
 強烈な怒り。それが、体のすみずみまでいき渡る。

 やっぱり、奴らにジスカールたちを生かすつもりなんてなかったのだ。そんなことをされれば、弱りきった体が耐えられるわけがないのだから。
 ふざけやがって。俺を殺したいなら、直接やりにくればいいだろう。まわりくどいことして、人のもんに手ぇ出しやがって。
 こんな、人を人とも思わねえような、罠仕掛けやがってっ。
 奴ら全員、絶対ぜってー這い蹲らせる。

 俺は鉄甲の中の魔法陣を発動させた。両手に炎をまとわせ、魔法陣の外に出る。
 なにやら詠唱が響き、狙われているみたいだが、俺はそれに、いっさい注意を払わなかった。防御はルシアンに任せてある。攻撃だけに集中すればいい。

 俺は手を前に突き出し、炎の出力を上げた。火炎が勢いよく一直線に伸びた。前方を焼き払う。
 というのは虚仮こけおどしで、これにそれほどの温度はない。まあ、触れたら火傷はするだろうが、その程度だ。

 それに重ね合わせて、俺は土の魔法を放っていた。炎の触れた一帯の岩を、すべて砕くために。
 ドドドドドドと地鳴りと共に連続音が響き、次々に岩が破裂していく。少し岩の温度を上げておくことも忘れない。熱で弾けた設定だ。

 岩の中から、男たちが転げ出てきた。顔を覆ってのた打ち回っているのもいる。岩の礫に打たれたのだろう。
 俺が魔法陣のまわりを一周したころには、あたり一面もうもうと砂埃が舞い、負傷した男たちが呻いて転がっていた。
 どいつもぺリウィンクルの甲冑を身に着けている。正規軍が商隊襲って、護衛を拉致か。武王め、舐めたマネをしてくれたな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...