しかたなく英雄的最後を迎えた魔法使いの受難

伊簑木サイ

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第6話

続 新しい二つ名2

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 母の屋敷で還元してしまいそうになった時、わかったことがある。
 俺とルシアンは、完全に二つの魂に分かたれてしまったのかもしれない、と。

 ずっと俺は、いや、たぶんルシアンも、俺たちが死ねば、その魂は再び交じり合って、魔力と記憶を共有するのだと思っていた。
 それは、前世に持ち得なかった相手由来の記憶や魔力に、とても違和感があるからだ。この異物が、このままずっと自分の魂の中に居座るとは思えなかった。

 でも、あの時、俺がどれほど危機的状況になっても、ルシアンには何の影響もなかったと聞いた。
 もう一度交じり合うのなら、一人の死は相手の死につながるはずなのだ。

 それがなかった。その時、本当に初めて、俺は死に恐怖を覚えた。記憶を持ったまま、生まれ変わることにも。
 そして何より、このままルシアンを死なせてしまうことに。

 世界に存在するあらゆる物質に、貴賎はない。魂もそうだ。人間だろうが犬だろうが木だろうが水だろうが空気だろうが、そこにはなんの上下もなければ因果もない。
 だから、死ねば俺を構成していたものが何に生まれ変わるのか、予測もつかない。

 もしも来世に、石ころにでも宿ってしまったら? そうしたら俺は、どうしたらいいのだろう。
 自分で動くこともできない。石ころとしての存在に終わりがあるのかもわからない。そんな状態で、ルシアンのことを思い続けるのは、恐ろしいことだった。

 ルシアンは、前世から満たされない思いを抱えている。かつえてかつえてしかたない、そんな状態のまま、ルシアンを一人にさせたくはなかった。
 時に訳もなく叫び出したくなる、その辛い思いを、俺も身をもって知っているから。

 いつかはなんとかしてルシアンの許に辿り着く方策を探すとしても、長い時がかかるだろう。考えたくはないが、二度と出会えない可能性すらある。
 だから、どうしても今生で、少しでもそれを埋めてやりたかった。永遠が辛いばかりの牢獄にならないように、糧となりえる記憶を与えてやりたかった。

 それがあれば。世界に絶望しないだけの何かがあれば。
 俺の魂の半身であるルシアンなら、きっといつか、『そこ』まで辿り着いてくれると、望みを託して。



 俺は何度もルシアンの頭を撫でた。こうして触れていると、不安な気持ちが安らぐ。ルシアンからも、不自然な力が抜けていくのがわかった。

「食事持ってきたぞ。開けてくれ」

 両手がふさがっているのだろう、扉の向こうから、ノックではなくカルディの声がした。

「おう。入れ」

 声を張り上げて答えておいて、ルシアンに、開けてやってくれと頼む。ルシアンは頷いて行ってくれた。
 すぐに、手下たちが手に手に料理の皿を持って列になって入ってくる。
 その中に、ジスカールたちの姿を見つけ、俺は顔をしかめて、反射的に怒鳴りつけた。

「ジスカール、ランスブルク、アマランス、モリナック! おまえたちは、まだ寝てろ!」

 俺の治癒魔法は、体の持つ治癒能力を早めているにすぎない。傷は塞いだが、それだけだ。つまり、それに使った栄養その他は、俺には補ってやれないから、体にものすごく負担がかかっているはずなのだ。

かしら一言ひとこと礼と謝罪を」

 ジスカールが皿を持ったまま、一歩出て食い下がってきた。

「必要ない。商隊に被害はなかった。おまえたちはよくやった。とにかく、飯食って寝ろ!」
「ジスカールたちは、今日は丸一日、飯食って寝てたぜ」

 カルディが口を挿む。
 ああ? 丸一日だ?

「今、朝じゃねーよ。夕方だぜ」

 俺は舌打ちをした。だからなんだ。

「本当だったら、棺桶に入っているはずだったんだぞ。一日二日で、うろちょろしてんじゃねえ。三、四日はそのシケたつら見せんな。部屋に閉じこもってろ」
「頭《かしら》」

 ジスカールが改まった態度で、その場で膝をついた。ランスブルク、アマランス、モリナックも続く。

「この恩は、生涯忘れねえ。俺は一生あんたについていく」

 「俺も」「俺もだ」と、他の三人も同意を示した。
 俺は絶句し、暫し奴らを眺めた。

 人の命を預かるなんて、こりごりだった。こいつらを治癒しながら、自分が怪我していた方がマシだとすら思ったのだ。
 なのに、おう、俺についてこいなんて、もう簡単に言えるわけがなかった。

 それも、今までとは違う。駄目なら簡単に切り捨てる、そういう付き合いではすまない関係を要求されているのだ。
 俺は心中の葛藤に返事を躊躇わずにはいられなかった。
 ところが、カルディが、

「俺もだ」

 そう言って跪いた。すると、他の手下どもも、次々と同じように膝を折っていく。そのまま、どいつもこいつも強い瞳で俺を見ている。
 両手に料理の盛られた皿を掲げたまま。むさくるしい奴らが、そろいも揃って、なんとも締まらない姿で。

「ブラッド殿下、とっくに俺たちの命はあんたが握ってる。今更、俺たちを投げ出したりはしないよな?」

 忌々しくも、カルディに痛いところを衝かれた。
 ああ。そうだった。俺が放り出せば、こいつら全員、死刑台に行くしかないんだった。
 くそ。本当に、今更だった。こんなところで怖気づいて、すげえ格好悪い。

「好きにしろ」

 俺はバツの悪さに、やみくもに言い放った。続けて奴らを急かす。

「どうでもいいから、めしだ! 早くよこせ!!」

 カルディが、ニヤリと笑った。他の手下たちの目にも、何か生温いものが宿る。

 だあっ。むかつくっ。微笑ましいもの見る目つきで、俺を見るな!!!

「さっさと置いて、とっとと出てけっ。その小汚ねーつら、しばらく見せんなっっ」

 俺は息を切らして、奴らを怒鳴りつけたのだった。



 こうして俺は、『盗賊の思い人』の二つ名を確固たるものにした。
 それだけでも腹立たしいのに、ぺリウィンクルの奴らを裸にひん剥いて切った啖呵が噂になり、『男色家』の称号までまことしやかに流れるようになりやがった。
 おかげでそれ以来、やたらとべたべた触る男と、きっちり数メートル離れて話す男が現れて、どちらも俺の気を滅入らせる。

 ふざけんなっ。
 男になんか、興味ねえってのっっっ。
 追いかけるなら、女の尻だ! 触って楽しいのは、ふっくらと柔らかい女の胸だろ!

 ちくしょう。俺の密かな夢は、かわいい嫁さんもらって、のんびり自堕落に暮らすことだってのに、どうしてまわりは男ばっかりなんだろなっ。



 こうして今日も、まっとうな小娘ならば怖がって近付かない、強面こわもてのむさいオヤジどもに囲まれながら、ブラッド・アウレリエ(15歳)の青春の貴重な一日は、不本意に過ぎていくのだった。
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