しかたなく英雄的最後を迎えた魔法使いの受難

伊簑木サイ

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第7話

収拾2

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 俺は、涙を我慢しながら、粉々になって散らばってしまった自信をかき集め、責任感で塗り固めるのにしばらくいそしんだ。

 いかんいかん。こいつらを野放しにしたら、もっと混沌な恐ろしいことが起こる。そんな光景は、俺が見たくない。だったら、ここで投げ出すわけにはいかなかった。

 それにしても、まずは魔力が足りない。

「ルシアン、魔力」

 よこせ。
 俺は息も絶え絶えに囁いた。

 世界に偏在する魔力を集めてルシアンに送り、巨大魔法を使うように、その魔力を己の体に取り込めたらいいのだが、そんな便利なことはできないのだった。
 人の魔力は個人ごとに少しずつ波動が違い、そもそも俺たちでなければ融通さえできない。同様に、自然に存在する魔力も、そのままの形では取り入れられないのだ。
 どうやら人の体は、食事や呼吸で少しずつ魔力を溜め込んでいるようだというのが、今のところの通説である。それ以外に、人体に蓄積する方法は未だ確立されていない。

 ……そんな薀蓄はどうでもいいな。
 両の掌を繋がれ、じわじわと体に満ちてくるものを感じる。頭の中のぐらぐらがおさまり、倦怠感はあっても脱力感までいかなくなったところで、目を開けた。おお。ちゃんとはっきり視線が定まる。

 そこで俺から手を離した。重い体を起こし、座り込む。
 傍でちょこんと座って、相変わらず心配そうなロズニスの様子に苦笑して、手を伸ばした。頬を、ぐに、と押してやった。

「具合悪いところはないか」
大丈夫だいじょーぶですー。ごめんなさいー、ブラッド様ー」

 くしゃりと顔を歪めて涙ぐむ。
 前の時も思ったが、彼女はとんでもない魔力量を保持しているらしい。
 このまま放っておくのは危険だ。明日から本腰入れて、制御方法を身につけさせなければなるまい、と決心する。泣こうが喚こうがグレようが、なんとしても、叩き込んでやる。
 それが世のためであり、なによりロズニスのためだろう。

「明日から、おまえは制御方法の特訓をする。覚悟しろ」
「うえええええ?」

 不満そうな返事に、頬を掴んで引っ張ってやれば、はい、と諦めて頷いた。

「よし、いい子だ」

 それから、今度は少し離れて控えているカルディに目を向けた。

「被害状況は」
「例に漏れず、あんただけだ。地面の様子はご覧のとおり。他は何もないぜ」

 吸収されずに残った柱がごろごろしている。その下もぼこぼこだ。訓練場は、七割方使用不可能状態になっていた。

 柱の始末と訓練場の整地は、後でランジエあたりに頼もうと思った。ロズニスじゃ、勢い余って何かやらかしそうだし、ルシアンが土属の魔法に不慣れなところを、軍の奴らに見せたくない。

 簡単に見通しを立てて、やはりこちらも傍まで来ていたジョアキムに話しかける。

「イェーフネン将軍、これ以上の訓練は無理だろう。訓練場の補修はこちらで責任をもつと約束する。今日のところは、これで引き上げさせてもらう」
「かしこまりました。……本日はよいものを見せていただき、ありがとうございました」

 ジョアキムは、あの唇の左端だけを引き上げる歪んだ笑みを浮かべた。
 うわあ。とっておきに禍々しいなあ、おい。
 俺はあまりの不吉さに、さっと目をそらした。イヤだ。もうこいつと関わりたくない。一回目の一人目にしてこれだ。この先も、きっとロクなことがないに違いない。

「して、仕切りなおしはいつにいたしましょう?」
「あー、俺は忙しい。いつとは確約できない」

 言葉を濁して追い討ちを打ち返す。
 空気を読め。これで納得しろ。そして、追求するな。

「では、それを使者にいたします。毎日伺わせるので、お時間ができたら、それにお申し付けください」

 けれどジョアキムは堪えた様子もなく、俺の背後を手で指し示した。
 誰かと確認するために振り返れば、よりによって自殺未遂男だった。

 目が合ったとたん、なぜか男が頬を紅潮させる。うろ~と視線を泳がせ、明後日を向きながら、それでもぴしっと姿勢を整えた。そして、意味の通らないことを叫んだ。

「このレオメンティス、命に代えましても!!!」

 うん、だから、命は粗末にするな。な?
 ていうか、どうして伝言を受けるくらいで、命を懸けなきゃならないなんて思うんだよ。そんなに俺のまわりは危険がいっぱいか?
 ……ああ、まあ、そうかもな。ロズニスとルシアンの二人の面倒を見ている限りはな。

 俺は疲れた笑みが自分の顔面を覆うのを、為すすべもなく許すしかなかった。
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