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11 あの誓いを
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「違う。違うの。兄さんは、蜂に刺されて死んだの。庭師のフォンテが、悪魔が姿を変えた蜂だったに違いないって、テュルソーの誰かに呪い殺されたんだって」
「まさか、そんなことが」
「兄さんは立派な騎士だったのに。忠誠を尽くしただけなのに。どうして。どうして……」
「アイリーン」
たまらなくなって彼の肩に顔をこすりつけると、深く胸元に抱きこんでくれた。ゆっくりと髪を撫でてくれる。息を吸い込めば、懐かしい彼の匂いがして、胸の奥がきゅっと締まって、もっと涙が止まらなくなった。
慰めのキスが頭の上に何度もされる。それでも泣き止めないでいると、額にも降ってきた。優しい感触に目を上げれば、エルバートも切なそうなまなざしをしていて、眼尻に口付け、あふれたばかりの涙を吸い取ってくれた。
右に、左に、涙の跡をたどって彼の唇が頬の上を下りていく。優しく、気遣いに満ちたそれに、目をつぶって身をゆだねているうちに、涙にぬれた唇もついばまれ、私ははっとして目を開けた。
「愛してる、アイリーン。あの日の誓いを忘れたことはない。どうか、俺に誓いを果たさせてはくれないだろうか」
愛してる。その言葉に、それまでとは違った涙が湧き出してくる。あの日の気持ちと光景が、胸と脳裏に鮮明によみがえってきた。
「だけど、お兄様はもう……」
「亡くなってしまっても、同じだ。俺は彼の望みを助けたいし、アイリーンと生きていきたい」
「お兄様の、望み?」
「家族と領民の幸せだ。二人で、グレッグの子や奥方や、アンドール村を守っていこう。
君が当主となるなら、それでいい。招集には、家名に連なる誰かが一人従えばいいのだから、その時は俺が赴く。
君が領内を守り、俺が外で守る。俺に、そうさせてはくれないか」
「エルバート……」
私はしゃくりあげて、彼に抱き着いた。大きな体で、しっかりと抱き返してくれる。
悲しかった。不安だった。辛かった。誰にも頼れない寄る辺なさに、虚勢を張ってないと潰れてしまいそうだった。
誰かに助けてほしいって、……ううん、本当は、エルバートがそばに居てくれたらって、ずっと思ってた。
「う、わあああああああんっ」
張りつめていたものがなくなって、私は声をあげて泣いた。一度泣き声を出してしまったら、止まらなくなった。彼の胸に顔を押し付けて、声の限り泣き叫ばずにはいられなかった。
泣いて泣いて泣いて、声が出なくなって、涙も枯れて、しゃくりあげているのか呻いているのかわからなくなっても、私は彼にすがりついていた。ただもう、この広くて温かい彼の胸から、離れたくなかった。
「アイリーン、大丈夫だ、傍にいる。君と共に生きていく。もう二度と、一人にしたりしないから」
囁きながら、彼は子供をあやすように体を揺すってくれて。泣き疲れた私がそのまま腕の中で眠ってしまうまで、彼はずっとゆるぎなく抱きしめ続けてくれたのだった。
「まさか、そんなことが」
「兄さんは立派な騎士だったのに。忠誠を尽くしただけなのに。どうして。どうして……」
「アイリーン」
たまらなくなって彼の肩に顔をこすりつけると、深く胸元に抱きこんでくれた。ゆっくりと髪を撫でてくれる。息を吸い込めば、懐かしい彼の匂いがして、胸の奥がきゅっと締まって、もっと涙が止まらなくなった。
慰めのキスが頭の上に何度もされる。それでも泣き止めないでいると、額にも降ってきた。優しい感触に目を上げれば、エルバートも切なそうなまなざしをしていて、眼尻に口付け、あふれたばかりの涙を吸い取ってくれた。
右に、左に、涙の跡をたどって彼の唇が頬の上を下りていく。優しく、気遣いに満ちたそれに、目をつぶって身をゆだねているうちに、涙にぬれた唇もついばまれ、私ははっとして目を開けた。
「愛してる、アイリーン。あの日の誓いを忘れたことはない。どうか、俺に誓いを果たさせてはくれないだろうか」
愛してる。その言葉に、それまでとは違った涙が湧き出してくる。あの日の気持ちと光景が、胸と脳裏に鮮明によみがえってきた。
「だけど、お兄様はもう……」
「亡くなってしまっても、同じだ。俺は彼の望みを助けたいし、アイリーンと生きていきたい」
「お兄様の、望み?」
「家族と領民の幸せだ。二人で、グレッグの子や奥方や、アンドール村を守っていこう。
君が当主となるなら、それでいい。招集には、家名に連なる誰かが一人従えばいいのだから、その時は俺が赴く。
君が領内を守り、俺が外で守る。俺に、そうさせてはくれないか」
「エルバート……」
私はしゃくりあげて、彼に抱き着いた。大きな体で、しっかりと抱き返してくれる。
悲しかった。不安だった。辛かった。誰にも頼れない寄る辺なさに、虚勢を張ってないと潰れてしまいそうだった。
誰かに助けてほしいって、……ううん、本当は、エルバートがそばに居てくれたらって、ずっと思ってた。
「う、わあああああああんっ」
張りつめていたものがなくなって、私は声をあげて泣いた。一度泣き声を出してしまったら、止まらなくなった。彼の胸に顔を押し付けて、声の限り泣き叫ばずにはいられなかった。
泣いて泣いて泣いて、声が出なくなって、涙も枯れて、しゃくりあげているのか呻いているのかわからなくなっても、私は彼にすがりついていた。ただもう、この広くて温かい彼の胸から、離れたくなかった。
「アイリーン、大丈夫だ、傍にいる。君と共に生きていく。もう二度と、一人にしたりしないから」
囁きながら、彼は子供をあやすように体を揺すってくれて。泣き疲れた私がそのまま腕の中で眠ってしまうまで、彼はずっとゆるぎなく抱きしめ続けてくれたのだった。
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