7 / 156
1-ようこそ、世界へ
7.少女、支度する。
しおりを挟む
「触んな変態女」
いつの間にか近寄ってきた男がシャルロッテの手をビシッと叩き落とす。そちらをキッとにらみつけた彼女は大げさに身をよじった。
「いったーい! なによう、こんな可愛い子独り占めしてあんな事こんな事する気でしょー、へんたーい、ひきこもり魔法オタクー」
「なっ、誰がそんなことするかっ」
「いやぁねぇ、事実だからってそんなムキにならなくても」
「っんの……!」
ニヤニヤと笑う彼女に激昂した男は、抱え込むようにニチカの首を上からグイッと押さえ込んだ。
「痛い痛い!」
「こんな色気もクソもねぇフェイクラヴァーに寄生されるようなガキ俺が相手にするとでも思ったか!? ハッ! あいにくと女なら間に合ってんだよ、何を好き好んでこんなペタコロンみたいなヤツを側に置くと思ってんだ」
「なっ……」
なんて言い草だ。ペタコロンがなんなのか検討もつかないが確実に馬鹿にされている。それだけはわかる。
「うわーん! 離してよっ、あなたにそんなこと言われる筋合いないでしょーっ」
「いてっ、引っかくな!」
その光景を見ていたシャルロッテがそれまでの表情から一転、真剣な顔をして口を開いた。
「フェイクラヴァーって、大昔の奴隷薬? 放っておくと一晩で薔薇の苗床になっちゃう。それホント?」
「え、あぁ、そうらしいです」
「だとしたら一大事じゃない。よく生きてるわね」
「えっと、その、応急処置……を、してもらいましたから」
赤くなって視線をそらすと、シャルロッテは顎に手をやり考え込んだ。
「応急処置って、どんな?」
「あのねぇー、ニチカはご主人とねー」
「あわわっ」
慌ててウルフィの口をふさぐ。ほんとにもうこの犬は無邪気で困る。あ、違う犬じゃなかった、オオカミだ。
「ってことは、まだ薔薇の種は体内にあるの?」
「はい、取り出す方法はさすがにわからなかったみたいで……」
そう言うと彼女は納得したようにポンと手を叩いた。
「あぁ、なるほど。だからオズちゃんが早起きしてるのね。これからそのフェイクラヴァーを取り除く旅に出るんでしょう?」
「えっ?」
「はぁ?」
少女の驚いたような声と、男の呆れたような声が同時に響く。そんな様子にはお構いなしにシャルロッテは喜々として荷物からいろいろと取り出し始めた。
「そうとなれば旅支度ね。あらやだ、ニチカちゃん靴はどうしたの? それにそんな薄着じゃ長旅には耐えらんないわよ。ちょっとまってね、確か厚手のケープと頑丈なブーツがあったはずだから」
「……おい」
鼻歌でも歌い出しそうな彼女に、オズの低いツッコミが入る。
「お前まさかとは思うが、この事態にかこつけて色々売りつけるつもりじゃ」
「やーねー! そんなわけないじゃない。ところでオズちゃんもその魔女ローブで外に出るつもり? ちょうどいいコートがあるんだけど」
「商売根性まるだしじゃねぇか!!」
咆える男の後ろでニチカはドキドキしていた。オズとウルフィがついて来てくれるならどんなに心強いか。何もわからない世界にたった一人で放り出されるよりは、ずっと良い。
だが男はあまり乗り気ではなかったようだ。
「断る。俺に何のメリットがある? コイツは記憶を消してそこらの街に放って終わりだ」
やはりダメか。ガクリと肩を落としたニチカだったが、シャルロッテは含み笑いをした。しなやかな指先を美しい唇にあて、ナイショ話でもするかのように声色を変える。
「じゃあここで旅に出たくなるような情報を一つあげましょうか、常連だから特別サービスよ」
「おー言ってみろ、俺は何を言われたってここを動く気はねーぞ」
「魔女協会が本格的に動き出したわ」
不敵な笑みを浮かべていた男は、その発言を聞いてピタリと真顔になった。
「なんだって?」
「当然よ、あなたの作った魔女道具が余計なトラブルばっかり引き起こして苦情が殺到してるとかなんとか……まぁそれ以外にも不穏な動きがあって、正式な免状を持たないモグリの魔女をあっちこっちで捕まえてるみたい」
何の話かさっぱりわからないニチカは、少し離れたところで深刻な雰囲気を見守っていた。魔女二人はしばらくボソボソと情報を交換していたかと思うと唐突にこちらに向かって来る。
「一般人ならともかく、魔女相手じゃこの森の結界も意味ないわよ。今すぐにでも審議官が空から降りてきても不思議じゃないんだから」
「ここの場所もバレてるってか。チッ、頭の固い連中め」
完全に目を覚ました様子の男は、目の前に来るとハッキリした声で呼びかけた。
「ウルフィ!」
「はぁい」
「しばらく家を開ける。ついてくるか?」
「もちろんですご主人さま。どこまでもお供します」
ウルフィはピシッと背すじを正しておすわりの姿勢を崩さない。普段はゆるい彼もこういった場面では主従関係をきっちり締めるらしい。
「当初の予定通りあと一時間で発つ。いつでも出られるようにしておけ。ニチカ、お前もだ」
「ラジャーっ!!」
「う、うん」
***
一時間後、一行は旅の支度を整え家の前に集合していた。ウルフィは大きな黄色いリュックを背中に背負っている。中にはたくさん詰められているのかパンパンだ。
そしてニチカはと言えば、シャルロッテに渡された装備を身につけているところだった。深紅のケープを制服の上からはおり、腕を保護するためにアームカバーをつけ、脱げてしまったローファーの代わりに頑丈な茶色いブーツを履くと旅装備はすっかり整えられた。
「いやーんやっぱり似合うわ、我ながら抜群のセンスね!」
「すごい、生地はしっかりしてるのにデザインも可愛い」
「でしょでしょー! アタシが作ったのよ!」
頑丈なだけでなく、簡単な魔除けもかけられているそうだ。さすが魔女の作ったものは違う。
ところが、ある事実を思い出しニチカは一気にしょげた。ケープの留め具を外しながら謝る。
「シャルロッテさんごめんなさい。ここまで試着しておいて申し訳ないんですけど、私ぜんぜんお金持ってないんです」
「あら、平気よ」
したり顔でニヤリとしたシャルロッテは、内緒話でもするように耳打ちした。
「お代はぜーんぶオズちゃんの請求に上乗せしちゃってるの。このくらい買ってもらいなさい、良い仲なんでしょ?」
「だから違いますってば!!」
真っ赤になりながら否定するも、魔女はカラカラと笑うだけだった。
「なーんてね、ニチカちゃん可愛いから今回だけ特別サービスよ。次回からご贔屓によろしくたのむわ」
なんて太っ腹なのだろう。胸がいっぱいになったニチカは小さくお礼を言いながら頭を下げる事しかできなかった。
「おい、この請求額はなんだ」
そしてようやく家主が出てくる。彼はさきほどまで来ていたヨレヨレの黒いローブからしっかりとしたロングコートに着替えていた。旅用のマントを羽織って留めるのだがそれすら黒い。全身黒ずくめなのに不審者にならずバッチリ決まっているのはやはり顔立ちが整っているせいだろうか。ずるい。
「あら、それでも安くしたのよ。市場価値を考えれば破格だと思うけどね」
「フン、しばらくは食料の配達もいいからな」
「はいはーい、わかってますわよー」
そしてオズは小袋から取り出した緑色の石のようなものをシャルロッテに渡す。あれがこの世界の通貨なのだろうか?
それにしても……と、少女はチラリと二人の様子を伺う。
「落ち着いたら連絡をよこす」
「えぇ、そうしたらまた訪ねるから。頼むからホウキで飛んでいける範囲にしておいてよ?」
「さぁ、保証はできないな……」
この二人の方が、よっぽど『良い仲』に見えるが違うのだろうか? 金髪の美女と黒髪の美青年。実に絵になる組み合わせだ。
(うー、この世界の人間って美形しかいないわけ?)
密かに自分の子供っぽい顔にコンプレックスを抱いていると、ポンと額をはたかれた。
「ほら行くぞ。ボーッとしてたら置いて行くからな」
「わわわっ、ちょっと」
倒れそうになるところを寸でのところで踏ん張り、もう一度シャルロッテの方を向く。
「ありがとうございました、シャルロッテさん!」
「気をつけてね、近いうちにまた会いましょ」
軽く笑って手を振り、金髪の魔女はひらりとホウキにまたがる。トンッと地を蹴ると突風を巻き起こし、あっという間に木々を飛び越えて行ってしまった。
それを見送った後、残された三人も森の出口むけて歩き出す。前を歩く黒い背中に向かって、ニチカは声を投げかけた。
「ねぇねぇ」
「なんだ」
こちらを振り向きもしないでオズは応えた。一応会話をする気はあるらしい。
「あなたオズっていう名前なのね」
いつの間にか近寄ってきた男がシャルロッテの手をビシッと叩き落とす。そちらをキッとにらみつけた彼女は大げさに身をよじった。
「いったーい! なによう、こんな可愛い子独り占めしてあんな事こんな事する気でしょー、へんたーい、ひきこもり魔法オタクー」
「なっ、誰がそんなことするかっ」
「いやぁねぇ、事実だからってそんなムキにならなくても」
「っんの……!」
ニヤニヤと笑う彼女に激昂した男は、抱え込むようにニチカの首を上からグイッと押さえ込んだ。
「痛い痛い!」
「こんな色気もクソもねぇフェイクラヴァーに寄生されるようなガキ俺が相手にするとでも思ったか!? ハッ! あいにくと女なら間に合ってんだよ、何を好き好んでこんなペタコロンみたいなヤツを側に置くと思ってんだ」
「なっ……」
なんて言い草だ。ペタコロンがなんなのか検討もつかないが確実に馬鹿にされている。それだけはわかる。
「うわーん! 離してよっ、あなたにそんなこと言われる筋合いないでしょーっ」
「いてっ、引っかくな!」
その光景を見ていたシャルロッテがそれまでの表情から一転、真剣な顔をして口を開いた。
「フェイクラヴァーって、大昔の奴隷薬? 放っておくと一晩で薔薇の苗床になっちゃう。それホント?」
「え、あぁ、そうらしいです」
「だとしたら一大事じゃない。よく生きてるわね」
「えっと、その、応急処置……を、してもらいましたから」
赤くなって視線をそらすと、シャルロッテは顎に手をやり考え込んだ。
「応急処置って、どんな?」
「あのねぇー、ニチカはご主人とねー」
「あわわっ」
慌ててウルフィの口をふさぐ。ほんとにもうこの犬は無邪気で困る。あ、違う犬じゃなかった、オオカミだ。
「ってことは、まだ薔薇の種は体内にあるの?」
「はい、取り出す方法はさすがにわからなかったみたいで……」
そう言うと彼女は納得したようにポンと手を叩いた。
「あぁ、なるほど。だからオズちゃんが早起きしてるのね。これからそのフェイクラヴァーを取り除く旅に出るんでしょう?」
「えっ?」
「はぁ?」
少女の驚いたような声と、男の呆れたような声が同時に響く。そんな様子にはお構いなしにシャルロッテは喜々として荷物からいろいろと取り出し始めた。
「そうとなれば旅支度ね。あらやだ、ニチカちゃん靴はどうしたの? それにそんな薄着じゃ長旅には耐えらんないわよ。ちょっとまってね、確か厚手のケープと頑丈なブーツがあったはずだから」
「……おい」
鼻歌でも歌い出しそうな彼女に、オズの低いツッコミが入る。
「お前まさかとは思うが、この事態にかこつけて色々売りつけるつもりじゃ」
「やーねー! そんなわけないじゃない。ところでオズちゃんもその魔女ローブで外に出るつもり? ちょうどいいコートがあるんだけど」
「商売根性まるだしじゃねぇか!!」
咆える男の後ろでニチカはドキドキしていた。オズとウルフィがついて来てくれるならどんなに心強いか。何もわからない世界にたった一人で放り出されるよりは、ずっと良い。
だが男はあまり乗り気ではなかったようだ。
「断る。俺に何のメリットがある? コイツは記憶を消してそこらの街に放って終わりだ」
やはりダメか。ガクリと肩を落としたニチカだったが、シャルロッテは含み笑いをした。しなやかな指先を美しい唇にあて、ナイショ話でもするかのように声色を変える。
「じゃあここで旅に出たくなるような情報を一つあげましょうか、常連だから特別サービスよ」
「おー言ってみろ、俺は何を言われたってここを動く気はねーぞ」
「魔女協会が本格的に動き出したわ」
不敵な笑みを浮かべていた男は、その発言を聞いてピタリと真顔になった。
「なんだって?」
「当然よ、あなたの作った魔女道具が余計なトラブルばっかり引き起こして苦情が殺到してるとかなんとか……まぁそれ以外にも不穏な動きがあって、正式な免状を持たないモグリの魔女をあっちこっちで捕まえてるみたい」
何の話かさっぱりわからないニチカは、少し離れたところで深刻な雰囲気を見守っていた。魔女二人はしばらくボソボソと情報を交換していたかと思うと唐突にこちらに向かって来る。
「一般人ならともかく、魔女相手じゃこの森の結界も意味ないわよ。今すぐにでも審議官が空から降りてきても不思議じゃないんだから」
「ここの場所もバレてるってか。チッ、頭の固い連中め」
完全に目を覚ました様子の男は、目の前に来るとハッキリした声で呼びかけた。
「ウルフィ!」
「はぁい」
「しばらく家を開ける。ついてくるか?」
「もちろんですご主人さま。どこまでもお供します」
ウルフィはピシッと背すじを正しておすわりの姿勢を崩さない。普段はゆるい彼もこういった場面では主従関係をきっちり締めるらしい。
「当初の予定通りあと一時間で発つ。いつでも出られるようにしておけ。ニチカ、お前もだ」
「ラジャーっ!!」
「う、うん」
***
一時間後、一行は旅の支度を整え家の前に集合していた。ウルフィは大きな黄色いリュックを背中に背負っている。中にはたくさん詰められているのかパンパンだ。
そしてニチカはと言えば、シャルロッテに渡された装備を身につけているところだった。深紅のケープを制服の上からはおり、腕を保護するためにアームカバーをつけ、脱げてしまったローファーの代わりに頑丈な茶色いブーツを履くと旅装備はすっかり整えられた。
「いやーんやっぱり似合うわ、我ながら抜群のセンスね!」
「すごい、生地はしっかりしてるのにデザインも可愛い」
「でしょでしょー! アタシが作ったのよ!」
頑丈なだけでなく、簡単な魔除けもかけられているそうだ。さすが魔女の作ったものは違う。
ところが、ある事実を思い出しニチカは一気にしょげた。ケープの留め具を外しながら謝る。
「シャルロッテさんごめんなさい。ここまで試着しておいて申し訳ないんですけど、私ぜんぜんお金持ってないんです」
「あら、平気よ」
したり顔でニヤリとしたシャルロッテは、内緒話でもするように耳打ちした。
「お代はぜーんぶオズちゃんの請求に上乗せしちゃってるの。このくらい買ってもらいなさい、良い仲なんでしょ?」
「だから違いますってば!!」
真っ赤になりながら否定するも、魔女はカラカラと笑うだけだった。
「なーんてね、ニチカちゃん可愛いから今回だけ特別サービスよ。次回からご贔屓によろしくたのむわ」
なんて太っ腹なのだろう。胸がいっぱいになったニチカは小さくお礼を言いながら頭を下げる事しかできなかった。
「おい、この請求額はなんだ」
そしてようやく家主が出てくる。彼はさきほどまで来ていたヨレヨレの黒いローブからしっかりとしたロングコートに着替えていた。旅用のマントを羽織って留めるのだがそれすら黒い。全身黒ずくめなのに不審者にならずバッチリ決まっているのはやはり顔立ちが整っているせいだろうか。ずるい。
「あら、それでも安くしたのよ。市場価値を考えれば破格だと思うけどね」
「フン、しばらくは食料の配達もいいからな」
「はいはーい、わかってますわよー」
そしてオズは小袋から取り出した緑色の石のようなものをシャルロッテに渡す。あれがこの世界の通貨なのだろうか?
それにしても……と、少女はチラリと二人の様子を伺う。
「落ち着いたら連絡をよこす」
「えぇ、そうしたらまた訪ねるから。頼むからホウキで飛んでいける範囲にしておいてよ?」
「さぁ、保証はできないな……」
この二人の方が、よっぽど『良い仲』に見えるが違うのだろうか? 金髪の美女と黒髪の美青年。実に絵になる組み合わせだ。
(うー、この世界の人間って美形しかいないわけ?)
密かに自分の子供っぽい顔にコンプレックスを抱いていると、ポンと額をはたかれた。
「ほら行くぞ。ボーッとしてたら置いて行くからな」
「わわわっ、ちょっと」
倒れそうになるところを寸でのところで踏ん張り、もう一度シャルロッテの方を向く。
「ありがとうございました、シャルロッテさん!」
「気をつけてね、近いうちにまた会いましょ」
軽く笑って手を振り、金髪の魔女はひらりとホウキにまたがる。トンッと地を蹴ると突風を巻き起こし、あっという間に木々を飛び越えて行ってしまった。
それを見送った後、残された三人も森の出口むけて歩き出す。前を歩く黒い背中に向かって、ニチカは声を投げかけた。
「ねぇねぇ」
「なんだ」
こちらを振り向きもしないでオズは応えた。一応会話をする気はあるらしい。
「あなたオズっていう名前なのね」
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる