ひねくれ師匠と偽りの恋人

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ

文字の大きさ
20 / 156
2-港町シーサイドブルー

20.少女、定まる。

しおりを挟む
 元々鋭い目つきをさらにつり上げる師匠をなだめようとするが、ハッと気づいた少女は飛び去った男へ追いすがるように手を伸ばした。

「ちょっと待って! まだ聞きたいことあったのに!!」

 がっくりとヒザをつき、不安と共に疑問点をぶちまける。

「精霊の居場所とか具体的なチカラの集め方とか、どうやれっていうのよーっ」

 あとせめて元の世界と連絡を取らせてと嘆くが、男が引き返してくる気配は残念ながらなかった。いつでも見守ってるとかいったくせに。
 だがそこは立ち直りの早いニチカのことである。パッと立ち上がるとオズワルドの手を握った。

「師匠! 教えて頂きたいことがあるのですが!」
「こんな時だけ師匠よばわりか……」

 そこでようやく亜空間でのやりとりを話すことができた。聞き終えたオズワルドは胡散臭そうな顔で眉をひそめる。

「お前が精霊の巫女? 何だそりゃ」
「私だってそう思うけど、でも溺れる者は縄でも掴みたくなるっていうでしょ」
「藁、な」
「う、ぐっ。と、とにかく! もし全部上手く行ったら元の世界にも帰して貰えるっていうの」
「勝手に呼び出しておいて都合のいい話だと思わんのか」
「やっ、それはそうなんだけど……でもほら、フェイクラヴァーズも取ってもらえるらしいし」

 そこは私の自業自得でしょと続ける。見て貰った方が早いかと考え、ポケットに入れていた魔導球を取り出し手渡した。

「これに、ええっと精霊様?のチカラを集めればいいらしいの」

 手のひら大のそれを受け取ったオズワルドは陽に透かしたり転がしたりと色々眺めた。ところがおもむろにカパッと二つに割ってしまう。

「あぁっ!? 壊した!」
「アホ、開けずにどうやって調べる気だ」

 しばらくそれを見つめていたオズワルドは軽く目を見開いた。珍しい表情に驚きながらも邪魔をしないよう黙って見守る。

「なんだこれは……単純な蓄積装置かと思ったが、どうなって――」

 目つきを変えた師匠は、それからしばらく検分していたがパクンと閉じた。待ち構えていた少女は急くように尋ねる。

「どう、何か分かった?」
「あの男がタダ者じゃないか、あるいは偶然これを手に入れたペテン師だってことぐらいは」

 なんだかよくわからないが、とにかくすごいらしい。まぁ自分をこの世界に呼び込んだ人物なのだから只者ではないのだろう。
 そう考えたニチカは、返して貰った魔導球をしまい、師匠の目をまっすぐに見つめ言った。

「私やってみようと思う」
「……」
「さっきこの世界の惨状を見せられたの。なんで私なんかが選ばれたのかわかんないけど、でも助けを求められたら応えなきゃいけない気がする。だから――」

 ――ここでお別れしましょ。

 少女の言葉を聞いていたオズワルドの耳に、どこか彼方からの声が届く。

 これはいつかの遠い記憶だ。どこか曖昧で、埋めた思いが土の下から叫んでいるような……

「これからも色々迷惑かけるかもしれないけど、その、……オズワルド?」

 すでにニチカの声は男に届いていなかった。『彼女』の声だけが頭の中にうるさく鳴り響く。

 ――あなたはもう要らないから。

 待って、と、必死に伸ばした手は届かず

 ――最初から居なければ良かったのに

 去りゆく彼女の白銀の髪が、雪の中にふわりと舞い、そして

 ――さよなら

「っ……!」

 気づけばニチカの腕を握りしめていた。驚く彼女の顔が、記憶の中の誰かとダブる。
 どれだけそうして居ただろう、うつむいたままの男は、ほとんど消え入りそうな声で言った。

「行くのか、ひとりで」

 なんとか聞き取り、その意味を噛み砕いたニチカはいきなりすっとんきょうな声をあげた。

「なんで!?」

 今の会話から、どうしてそういう流れになるのか。少女にはサッパリわからなかった。眉根を寄せ、男の服の裾を掴んで揺さぶる。

「あなたについて行っていいんでしょ? 話が違うじゃない!」

 ハッとしたオズワルドはようやく意識がこちらに戻って来た。目の前で怒る少女に現実に引き戻される。自分は今なにを考えて居たのだろうか。

「……話が違う?」
「今さら放り出そうったって、そうはいかないわよ! 意地でもついていくんだから!」

 一瞬感じた幻影は、すでにどこかへと消え去っていた。少しだけ混乱しながらも適当に相づちを打つ。

「あ、あぁ、そうだな」
「……いきなり置いてったりしないよね?」

 チラリとこちらを見上げた少女の不安そうな顔に、少し意地悪したくなる。ニヤと笑った魔女は尊大に腕を組んだ。

「知らないのか、そういうのを世間ではストーカーと呼ぶんだ」
「なっ、誰がストーカーよ! あなたを追っかけるくらいなら沼のカエルでも追っかけてた方がまだマシだわっ」
「カエルも不憫だな、こんな女に口づけを求められるなんて」
「どういう意味だー!」

 怒り出す弟子をからかい、少しだけ気分が晴れる。
 そうだ、いやな記憶などなかったことにしてしまえばいい、人は忘れられる生き物なのだから。

「まったくもう」
「……」

 オズワルドは風に吹かれながら、めずらしく穏やかな笑みを浮かべた。笑ったり泣いたり怒ったり、ほんとうに表情がクルクルと変わる娘だ。

「見ていて飽きないな」
「……どういう意味、それ」
「珍獣観察でもしてる気分だ」
「だと思った!」

 再びピィピィ喚き出される前に、話の矛先を別の場所へと向ける。もう肉眼で捉えられるほど目的地は近くなっていた。

「そんなことより……幸先が良いな、これから行く桜花国には聖なる火の祠がある」
「火の祠?」
「精霊に関する手がかりが掴めるかもしれんぞ」

 ニチカはパァッと顔を明るくしたかと思うと手放しで喜んだ。

「じゃあ、じゃあ、協力してくれるの? ありがとう師匠!」
「もちろんだ、かわいい弟子が一日でも早くオサラバしてくれるなら、俺も協力は惜しまないつもりだぞ」
「……なんかひっかかる言い方なんだけど」

 とにかく航路は順調だ。旅の目的もできたことだし、ニチカは晴れやかな気分で拳を天に突き上げた。

「がんばるぞーっ!」

 その後ろ姿を見ていたオズワルドは、何かを考え込むような仕草をした後、口を開いた。

「ニチカ」
「ん?」
「手伝ってやっても良いが、一つ条件がある」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...