ひねくれ師匠と偽りの恋人

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ

文字の大きさ
70 / 156
6-フライアウェイ!

70.少女、デートする。

しおりを挟む
 シルミアの家を出て二人で街を散策していると、あちこちで住人から声を掛けられる事になった。

「あら、今年の優勝者さんじゃない。もう歩いて平気なの?」
「いい飛びっぷりだったよぉ、あんなのはおじさんが子供の時に見た以来だ」
「時計塔の修復はだいぶ進んでるぜ、なぁにすぐ元どおりさ」
「ほらこれも持ってきな! いいよいいよ新しい風の後継者が誕生したから景気づけさ」
「その後継者があのラン坊ってのがちょっと不安だけどね」
「まったくだ! ハハハ」

 両手いっぱいに貰ったリンゴやらお菓子やらを抱えて、少女は隣の男にそっと話しかけた。

「ラン君が犯人だったのは、やっぱり秘密なんだ」
「何者かに仕掛けられた罠を、お前とランバールが協力して破壊したことになっている。わざわざ言う必要もないだろう」
「そうだよね」

 その犯人が身を呈して動いたことで被害は最小限に収まった。蒸し返す話でもないだろう。

 爽やかな風が吹き抜ける中、ニチカはチラッと横を見上げた。オズワルドは今日はいつもの黒いコートではなく、街の人たちと同じようなラフな服装をしている。メガネも外しているので装飾は一切ないが、シンプルなのが返って素材の良さを引き立てている。自分も旅向きではない、やわらかなワンピースにカーディガンをかけてその隣を歩く。

 考えてみれば、道中はいつも急かされるように歩いているし、いつマモノに襲われるか分からないので一瞬たりとも気が抜けない。こんな風にゆったりと二人で歩くなど初めてではないだろうか?

(なんだかデートみたい)

 その考えが浮かんだ瞬間、意識してしまって顔が熱くなる。急にギクシャクとした動きになったのに気付いたのだろう、オズワルドが珍しく気遣うように声をかけてきた。

「どうした?」
「なっ、なんでもないの! それよりほら! 時計塔が見――」

 少女は話題を逸らそうと、角を曲がったところで見えてくるはずの街のシンボルを指し……固まった。爆破して半壊したはずの塔の上に巨大なブロンズ像が建設されている。

「……」
「……」

 力を失った指先がへろへろと落ちていき、同時に非常に強い脱力感が二人を襲う。その理由はブロンズ像の造形にあった。

「やぁ! あまりの感激に声も出ないようだね!」

 語尾に星でも付きそうな声でシルミアが通りの向こうから爽やかにやってくる。ニチカはつかみかかる勢いで彼に迫った。

「何なんですかあれ! どういうつもりですか!」
「はっはっは、普通の時計塔に戻してもつまらないからね。実にいい出来栄えだろう?」

 ブロンズ像の正体。塔の崩れた個所からにょきっと生えているのは、シルミアの巨大像だった。それだけならまだいい(いや、かなりいかれたセンスではあるが)問題はその像に寄り添うように、一回り小さなニチカとランバールと思われるオプションがついている事だった。ところがシルミアはニチカの怒涛の勢いを喜びと勘違いしたらしい。胸を張って鼻高々に言い放った。

「我が風の里の歴史に残る大事件だったからな! こうしておけば誰も忘れることはないだろう!」
「やめてえええ恥ずかしい!」

 その時、ブロンズ像を遠目に眺めていたオズワルドがぼそりと付け足し、火に油を注いだ。

「ずいぶん美化されてないか、お前」
「っるさい! ペタコロンでも設置しとけ!」

 恥ずかしさのままニチカは怒鳴りつける。本気でもう一度爆破してやろうかと思った時、もう一人の被害者がやってきた。彼は自分をモデルにした像を見上げながらコメントする。

「オレもやめとけって言ったんだけど」
「ラン君たすけて! 私、もうこの街来れない!」

 涙目で訴えると苦笑いでなだめられた。

「まぁまぁ、顔はもうちょいぼかすように職人に言っとくよ。それよりウル君の足取り掴めたッスよセンパイ」

 ハッとしてニチカは耳を傾ける。結局、あの陽気なオオカミは街の入り口で別れたきり消息不明になっていたのだ。主人であるオズワルドの問いかけにもまるで反応がなく、呼び出しても何かに妨害されているらしい。休息を取っている間、ランバールに調査を頼んでいたのだが……。真面目な顔をした青年は報告を続けた。

「オレたちと入れ替わりでこの街から出て行った商人がウル君とすれ違ったらしいです、どうやら誘拐されたみたいッスよ」
「ゆ、誘拐!?」

 物騒な響きに青ざめる。頬を押さえたニチカは盛大にうろたえ始めた。

「どうしよう、あの子かなり人懐っこいしよく見れば可愛い顔してるし、気に入られた悪人に連れ去られたんだ!」
「可愛くはないと思うぞ、たぶん」
「私にとっては可愛いの!」

 余計なツッコミを入れる師匠をにらみつけて、じわりと涙を浮かべる。このまま会えなかったらどうしようかと不安がよぎる。だがランバールの調査力は期待以上だった。

「それで、その誘拐犯なんスけど、派手な赤い髪の女の子と冴えない地味な青年だったらしいッス。こっから北に行ったブロニィ村ってとこに向かうとか何とか」
「オズワルド、追いかけよう!」

 勢い込んでニチカが提案すると、師匠は、だはぁっとため息をついた。

「何やってんだあいつは」

***

 元の服装に着替え、旅の支度を整えたニチカとオズワルドは入ってきた門とは反対側の出口に居た。見送りに来てくれた街の人たちから、大量に餞別を渡されそうになったが持ちきれない分は丁重に断る。中には例の巨大像を小さくしたレプリカなどがあって、少女は引きつりながらそれを突き返した。

「それじゃ、しばらくのお別れッス」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...