召しませ我らが魔王様~魔王軍とか正直知らんけど死にたくないのでこの国を改革しようと思います!~

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ

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52.浮気は許しませんよ?

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 桟橋を歩き、行く手に見えてきた巨大な建造物にまず声をあげたのは、やっぱりお付きのルシアン君だった。

「うおお、なにあれ!? 関所じゃありえないシルエットなんですけど!」

 彼の言うシルエットとは、小さなカゴが円形状に取り付けられ、ゆっくりと時計回りに移動している――つまり観覧車のこと。

 橋の終着点は茶色いレンガで組まれたゲートがあって、その上ではピコピコと跳ねる小さな球体状の生き物たちが歓声をあげていた。

「よーこそっ、ゆうしゃさま~」
「お待ちしてました~」
「ボクたち悪いスライムじゃないよ、良いスライムだよ~」

 めいめいにカラフルな手旗を振っているのは、すっかりここに居を構えてしまったスライム達だった。

 私たちが下にたどり着くタイミングでバッと垂れ幕が投げ下ろされる。紙ふぶきが舞う中見えてきたのは「歓迎・勇者エリック様」という字だ。

「これは……さすがに少し照れるな」
「えぇーオレは!? 偉大なる未来の勇者候補・ルシアン様の名前がない!」

 これまで魔物たちに恐怖の目で見られることはあっても、暖かいまなざしを向けられるなんて初めてなんだろう、勇者様は困惑しながらも少しだけはにかんでゲートをくぐる。

 だけど真下を潜り抜ける瞬間私は見てしまった。一瞬だけまなざしを鋭くした彼は脱出経路を確認するかのように素早く視線を走らせたのだ。

(メインの聖剣が一本、腰回りに三本、左腿と右足首にそれぞれ仕込みナイフ……あとは腕にもいくつか、ですかね)

 後ろからルカがこそっと耳打ちをしてくる。観察眼に長けた右腕はどこか称賛するようにまなざしを細めて歴戦の勇者の背中を見やった。

(さすがですね、ここまで一瞬たりとも隙を見せません。リラックスしているように見えますが、どの角度からも対応できるよう常に気を張っているのが分かります)

 そしてその警戒は自分に一番向けられているとバンパイアは続ける。ひぇぇ、会って数分も経たないのにそういうことまで見抜けちゃうの? 強者はお互いの匂いをかぎ分けるとかそういうアレ? ハイレベルすぎて私にはついていけない……。

 後ろに目でもついてるのかと見つめていると、ふいにその背中が振り返り私に呼びかけた。

「魔王殿」
「ひゃい!?」
「招かれて帯剣しているというのも失礼だろう。どこかに預けた方が良いだろうか」

 そう言って腰の装飾が施されたロングソードを帯ごとカチャリと外す。

 他にも大量に隠し持っていますからこちらを油断させる演出ですよ、とルカから無言の指摘がビシバシと届く。あー、だよねぇ。だったら

「そのままで結構ですよ、見知らぬ地に来て丸腰にさせるのも忍びないですし、『一番使い慣れた剣』がないと不安でしょう?」

 表情こそ表に出さなかったけど、言葉の裏を読み取ったようで勇者様は黙り込む。私はニコッと笑ってこう続けた。

「剣はそのまま持って頂いても大丈夫です。でもご心配なく、絶対にその出番はないですよ」

 しばらくこちらを見ていた彼は、ふいに笑みを浮かべると剣帯を再度留めなおした。

「ではお言葉に甘えて、騎士が自分の魂でもある剣を手放すのは正直心苦しいので感謝する」

 そんなやり取りを終えて、関所とは名ばかりの入門ゲートを通り抜ける。

 村へと続くレンガ敷きの街道へ足を踏み入れた瞬間、どこからか赤い狼がスルリと現れ、いつの間にか私の足元に寄り添っていた。

「わっ、迎えに来てくれたの?」

 予定では村で合流する打ち合わせだったのに、と思っていると、またも顔を輝かせたルシアン君がしゃがんで狼と目線を合わせた。

「ふおおでっかいワンコ! ねぇねぇ魔王様、これもペット? 名前は!?」
「え、えっと……ぷー君」
「ぷー君、おて!おて!」

 しばらく冷めた目で彼のことを見ていた赤い狼は、ぷいっと顔を背けると先導するように歩き出した。振られたルシアン君ががっくりと道に崩れ落ちる。

「ワンコぉぉ~」
「放っておいて良いです」
「あはは、そうですね……」

 そこから下の村へいくまでの道のりを、私とエリック様は並んで歩いていく。

 ドキドキしながら横目でチラッと見ると、視線を感じた勇者様は微笑み返してくれた。慌てて視線を正面に戻して赤くなってしまっているであろう頬を隠すため俯く。

 あぁぁ~~!! やっぱり見れば見るほど立谷先輩とそっくりすぎる! 公私混同しちゃいけないとは分かってるけど、でも、でも……っ!!

 …………このまま、帰り際にさらってくれたりとか……しないかなぁ、ふふ、うふふふふ。

「主様」
「!?」

 突然耳元で冷えた声が響き、妄想にふけっていた私は一瞬にして現実に引き戻された。

 足を止めて左を見れば、完璧すぎる笑みをたたえたルカが目を細めている。そのまま耳元に口を寄せた彼は私にだけ聞こえるようにささやいた。

「浮気は許しませんよ?」
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