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51.奇妙な痣
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「あれ?」
翌朝、勇者様を迎え入れる為にいつもよりも少しだけ早起きした私はそれを見つけて髪の毛をかき上げた。
「こんなところに痣なんてあったっけ?」
左耳の後ろ、普通にしていたらまず気づかないようなところに、うすーく赤っぽい模様がある。
手鏡と鏡台を合わせ鏡にしながらなんとか見ようと奮闘する。微妙に幾何学模様っぽいような、そうでもないような、花のような模様が縦に三つ並んでいる。
「ねぇ手首ちゃん、こんな痣前からあったっけ?」
丁寧に髪の毛を梳いてくれていた専属メイドに問いかけると、喋れない彼女はぴょいっと肩から飛び降りた。鏡台の上に置かれたペンを掴んだかと思うとメモ帳にサラサラ~っと走り書きで返答してくれる。
――元からあったものでは無いのですか?
「え」
戸惑いながら確認すると、どうやら手首ちゃんが私の世話を焼いてくれるようになった当初からこの痣はあったらしい。生まれつきの物かと思ってわざわざ報告しなかったのだとか。
「気にしなくていいよ、別にそんなに目立つ場所でもないし」
しょんぼりとする彼女を慰めるように撫でる。いいっていいって、痣くらいで死にゃしないと思うし。
でもふしぎな模様だな……自然に出来たにしては妙に規則的すぎるというか。
もう一度見てみようとしたその時、置き時計の針が指す時刻を見てそれどころではない事を思い出してしまう。
「うわっ、もうこんな時間!?」
まずいまずい! 今は痣なんかより勇者様をお迎えする方が重要!
……後になって思えば、もう少し気に留めるべきだったのだ。
とはいえ、この後も色々ありすぎて、痣の件を私が思い出すのはだいぶ先の事となる。
***
勇者と魔王の二度目の邂逅は、国境でもあるレーテ川の真上で行われた。
穏やかだけど川の流れは早く、辺りにゴウゴウと音が響く中、私は桟橋の上でまっすぐにその人と見つめあう。
「君は……」
「初めまして……じゃないですよね」
アッシュグレーの髪、新緑のような明るいグリーンの瞳を驚いたように少しだけ見開く勇者エリック様は、服装こそあの時のような騎士服ではなかったけど、堂々とした佇まいはそのままだった。
「……」
「……」
何か言いたげに口を開いては言葉を飲み込む彼に、こちらまで何も言えなくなってしまう。
どうしてあの時カイベルクに居たのか、その理由を言わなきゃいけないのに、なんとなくタイミングを見失ってしまって……
微妙に気まずい雰囲気が流れ始めたその時、場違いに明るい声が彼の後ろからひょいと顔を出した。
「あーっ、あの時の女の子! え、なんでここにいるの?」
ほとんど黄色に近い金髪にハチミツ色のくりっとした瞳。見るからに人懐っこそうな笑みを浮かべていたのは私とそう年が変わらなそうな一人の青年だった。
彼はこちらを興味津々に見つめながら、まるでマシンガンのように言葉の豆鉄砲を撃ち続ける。
「ほら、センパイが君を大通りで尋問してた時に横に居たんだけど覚えてないかなぁ~、オレは覚えてるよ、黒髪なんてこの地方じゃ珍しいからね。そういえばあの時ってどうしてうずくまってたの? カーミラ卿ンとこのお嬢さんと何かトラブル起こしたって後から聞いたけど。でもその気持ちわかるなぁ~あのコすっげぇ癇癪もちでさぁ、オレも城の廊下ですれ違っただけで「顔がうるさい」とか言われちゃって」
その頭に後ろからドスッと大きなカバンが落とされ金髪君は桟橋に沈む。申し訳なさそうな顔をしたエリック様はその首根っこを掴みながら謝罪した。
「申し訳ない、この男は騎士として実力は申し分ないのだが礼節に欠けるところがあって……」
「いだだだだ! センパイ重い! シャレにならんくらい重いんですけど! 何入ってんスかこれェ!?」
ジタバタと暴れる金髪君に、思わず吹き出してしまう。それを見た勇者様もどこかホッとしたように苦笑を浮かべ、立ち上がり手を差し伸べてきた。
「メルスランド国リヒター王より遣わされて来たエリック・グロウリアです。こちらは私の部下でルシアン・バルドロウ」
「お越し頂きとても嬉しいです。私がハーツイーズ国の城主あきら。こっちは側近のリュカリウス」
その手を握り返し、すぐ後ろで控えていた右腕の紹介もする。ルカは笑みを少しだけ浮かべて会釈したけれど、手は後ろで組んだままだった。
私の自己紹介を聞いた金髪君、もといルシアン君は元から大きな目をさらに見開いてパッと立ち上がった。
「え、城主ってことはトップで、つまり魔王? ……マジ!? うわーサインいい!? 握手も! あとそっちのイケメンのお兄さん、言われてみれば号外で見た顔だ!!」
「こら、失礼だろう」
呆れたように後ろから小突く勇者様に笑いがこみ上げる。確かにちょっとだけ騒がしいけど、彼が居てくれると空気が和むな。
気を取り直した私は一歩横に退いて、ハーツイーズへの道を紹介するように手を掲げて見せた。
「それじゃ、今日は視察ということで私が案内させて貰います。この国のいいところ存分に見て行って下さいね」
◇◆◇
【手首ちゃんの一言コーナー】
手首です。わたくしとした事が、ご主人様の異変に気付かないとはメイド失格ですわ…
それにしてもあの花のような痣、どこかで見た事があるような気がするのですが… うーん?
翌朝、勇者様を迎え入れる為にいつもよりも少しだけ早起きした私はそれを見つけて髪の毛をかき上げた。
「こんなところに痣なんてあったっけ?」
左耳の後ろ、普通にしていたらまず気づかないようなところに、うすーく赤っぽい模様がある。
手鏡と鏡台を合わせ鏡にしながらなんとか見ようと奮闘する。微妙に幾何学模様っぽいような、そうでもないような、花のような模様が縦に三つ並んでいる。
「ねぇ手首ちゃん、こんな痣前からあったっけ?」
丁寧に髪の毛を梳いてくれていた専属メイドに問いかけると、喋れない彼女はぴょいっと肩から飛び降りた。鏡台の上に置かれたペンを掴んだかと思うとメモ帳にサラサラ~っと走り書きで返答してくれる。
――元からあったものでは無いのですか?
「え」
戸惑いながら確認すると、どうやら手首ちゃんが私の世話を焼いてくれるようになった当初からこの痣はあったらしい。生まれつきの物かと思ってわざわざ報告しなかったのだとか。
「気にしなくていいよ、別にそんなに目立つ場所でもないし」
しょんぼりとする彼女を慰めるように撫でる。いいっていいって、痣くらいで死にゃしないと思うし。
でもふしぎな模様だな……自然に出来たにしては妙に規則的すぎるというか。
もう一度見てみようとしたその時、置き時計の針が指す時刻を見てそれどころではない事を思い出してしまう。
「うわっ、もうこんな時間!?」
まずいまずい! 今は痣なんかより勇者様をお迎えする方が重要!
……後になって思えば、もう少し気に留めるべきだったのだ。
とはいえ、この後も色々ありすぎて、痣の件を私が思い出すのはだいぶ先の事となる。
***
勇者と魔王の二度目の邂逅は、国境でもあるレーテ川の真上で行われた。
穏やかだけど川の流れは早く、辺りにゴウゴウと音が響く中、私は桟橋の上でまっすぐにその人と見つめあう。
「君は……」
「初めまして……じゃないですよね」
アッシュグレーの髪、新緑のような明るいグリーンの瞳を驚いたように少しだけ見開く勇者エリック様は、服装こそあの時のような騎士服ではなかったけど、堂々とした佇まいはそのままだった。
「……」
「……」
何か言いたげに口を開いては言葉を飲み込む彼に、こちらまで何も言えなくなってしまう。
どうしてあの時カイベルクに居たのか、その理由を言わなきゃいけないのに、なんとなくタイミングを見失ってしまって……
微妙に気まずい雰囲気が流れ始めたその時、場違いに明るい声が彼の後ろからひょいと顔を出した。
「あーっ、あの時の女の子! え、なんでここにいるの?」
ほとんど黄色に近い金髪にハチミツ色のくりっとした瞳。見るからに人懐っこそうな笑みを浮かべていたのは私とそう年が変わらなそうな一人の青年だった。
彼はこちらを興味津々に見つめながら、まるでマシンガンのように言葉の豆鉄砲を撃ち続ける。
「ほら、センパイが君を大通りで尋問してた時に横に居たんだけど覚えてないかなぁ~、オレは覚えてるよ、黒髪なんてこの地方じゃ珍しいからね。そういえばあの時ってどうしてうずくまってたの? カーミラ卿ンとこのお嬢さんと何かトラブル起こしたって後から聞いたけど。でもその気持ちわかるなぁ~あのコすっげぇ癇癪もちでさぁ、オレも城の廊下ですれ違っただけで「顔がうるさい」とか言われちゃって」
その頭に後ろからドスッと大きなカバンが落とされ金髪君は桟橋に沈む。申し訳なさそうな顔をしたエリック様はその首根っこを掴みながら謝罪した。
「申し訳ない、この男は騎士として実力は申し分ないのだが礼節に欠けるところがあって……」
「いだだだだ! センパイ重い! シャレにならんくらい重いんですけど! 何入ってんスかこれェ!?」
ジタバタと暴れる金髪君に、思わず吹き出してしまう。それを見た勇者様もどこかホッとしたように苦笑を浮かべ、立ち上がり手を差し伸べてきた。
「メルスランド国リヒター王より遣わされて来たエリック・グロウリアです。こちらは私の部下でルシアン・バルドロウ」
「お越し頂きとても嬉しいです。私がハーツイーズ国の城主あきら。こっちは側近のリュカリウス」
その手を握り返し、すぐ後ろで控えていた右腕の紹介もする。ルカは笑みを少しだけ浮かべて会釈したけれど、手は後ろで組んだままだった。
私の自己紹介を聞いた金髪君、もといルシアン君は元から大きな目をさらに見開いてパッと立ち上がった。
「え、城主ってことはトップで、つまり魔王? ……マジ!? うわーサインいい!? 握手も! あとそっちのイケメンのお兄さん、言われてみれば号外で見た顔だ!!」
「こら、失礼だろう」
呆れたように後ろから小突く勇者様に笑いがこみ上げる。確かにちょっとだけ騒がしいけど、彼が居てくれると空気が和むな。
気を取り直した私は一歩横に退いて、ハーツイーズへの道を紹介するように手を掲げて見せた。
「それじゃ、今日は視察ということで私が案内させて貰います。この国のいいところ存分に見て行って下さいね」
◇◆◇
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手首です。わたくしとした事が、ご主人様の異変に気付かないとはメイド失格ですわ…
それにしてもあの花のような痣、どこかで見た事があるような気がするのですが… うーん?
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