不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第1章 勇者の帰還

10 名前を呼んで1

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「夏瀬くん~」

 放課後、靴箱のところで八条が声をかけてきた。

「八条、今日はどうだった? いじめられてないだろうな?」
「はい、平和な一日でした」

 八条が微笑む。

 柔らかな昼の日差しに照らされたその顔は、本当に可愛らしい。
 可憐という言葉がよく似合う美少女ぶりだ。

「本当にありがとうございました」
「いいって。礼なら朝に聞いたし」

 何度も礼を言われると、照れる。

「それと、一つ言い忘れたことがあります」

 八条は真顔に戻り、俺を見つめた。

「もう私にかかわらないほうがいいです。姫宮さんって、確かちょっと怖い人たちとつながりがあるみたいで……その、あまり首を突っこんだら、夏瀬くんに迷惑がかかってしまいます……」
「迷惑なんて言うなよ。俺はただ──」

 八条をまっすぐに見つめる。

「友だちを助けたかっただけだ。これからも、お前が困ったら俺が力になる」
「友……だち……?」

 つぶらな瞳で俺を見つめ返す八条。

「お、おう」

 うわ、急激に照れくささが込み上げてきた。

 そういえば、こっちの世界で誰かのためにここまで本気で怒ったのって初めてだ。
 誰かのために──真剣になったのは、初めてだ。

「私が、夏瀬くんの友だち……」
「そのつもりだ」

 うなずきながら、俺はますます照れる。

 友だち、なんて言ってしまって馴れ馴れしかっただろうか。
 八条はどう思ったんだろう?

「嬉しいっ」

 次の瞬間、彼女の顔がほころんだ。

「ん、いいのか? その、俺と友だちってことで……」
「私はすごく嬉しいです。夏瀬くんさえよければ、お友だちになってほしいです!」

 満面の笑顔だ。

「じゃあ、今日から俺と八条は友だちだ」
「そうですね。あ、えっと……」

 ふいに八条が顔を赤らめる。

「どした?」
「その、あ、いえ……やっぱり、恥ずかしい……」
「なんだよ。俺だってめちゃくちゃ恥ずかしい思いをして、友だちだ、って言ったんだぞ」
「え、恥ずかしかったんですか」
「顔から火が出そうだった」
「……じゃあ、私も照れずに言わなきゃ、ですね」

 八条はますます顔を赤くして、

「友だち……なので、えっと、私のことは下の名前で──『しずく』って呼んでほしいです」
「名前呼びか……」

 異世界ならともかく、この世界で女の子を名前で呼ぶのって生まれて初めてかもしれない。

「よ、よければ、で」

 モジモジする八条。
 恥ずかしがっている様子が、やたらと可愛らしい。

「じゃあ、八条も俺のことは『彼方』呼びだな」
「ひあぁぁ、私もですか……?」
「当たり前だ。俺だけ照れくさい思いをするなんて不公平だろ」

 力説する。

「うう、わかりましたぁ……」
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