不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第1章 勇者の帰還

11 名前を呼んで2

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 俺たちは見つめあった。

「先に言っていいぞ」
「えっと、夏瀬く……じゃなかった、あの、その……か、彼方……くん……っ!」

 言ったとたんに、八条の顔がさらに赤らんだ。
 もはや赤らみすぎて、頬も耳も首筋辺りまで全部赤だ。

「わ、私は勇気を出して言ったんですから、次は夏──いえ、彼方くんの番です」
「そ、そうだった。お前だけじゃ不公平だもんな」

 すうはあ、と深呼吸をする。

 よし、いくぞ。
 初めての、女の子の下の名前呼び!

 ……はっきり言って魔王と戦ったときより緊張する。

 いや、俺ならできる!

 俺は魔王をも倒した男!
 女の子を下の名前で呼ぶくらいなんてことない!
 できる、俺はできる!

 よーし──やるぞ!

「し、し、雫……っ!」

 俺は彼女を初めて名前で呼んだ。

 ……………………。
 ………………。
 …………。
 なんだこれ、照れくさい恥ずかしい甘酸っぱいっ!

 向こうの世界では、勇者パーティに女魔法使いとか女僧侶もいて、彼女たちを名前で呼んでいた。
 でも、そういうのとは別次元の気持ちの高ぶりだった。

「はい、彼方くん」

 八条──じゃなかった、雫がそんな俺を見て微笑んだ。

 その顔は、まさしく花が咲いたように可愛らしくて、朗らかで、嬉しそうで。
 心が癒されていくのを感じた。



 翌日の放課後。

「野球部?」
「ああ。さっきの体育の授業、すごかったじゃないか。お前、あんなに運動神経よかったんだな」

 クラスメイトの男が言った。

「もしよかったら野球部に入らないか?」

 ちなみに俺は帰宅部である。

「部活には興味ないし……」
「見るだけでもどうだ? 頼むよ、うちの部はけっこう強いんだ。今年は本気で甲子園狙ってるんだぜ」

 やたらと食い下がられてしまう。

「なあ、お前もそう思うよな、杉山」
「……べ、別に、俺は」

 同じ野球部の杉山は、同意を求められて口ごもった。
 この前叩きのめして以降、奴はおとなしいもんだ。

「ちょっと試すだけでも。な? な?」

 と、頭を下げて頼まれる。
 ま、どうせヒマだし、ちょっと付き合うくらいならいいか。

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