不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第4章 勇者の日常

12 出現2

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「へっ、ありあまる欲望エネルギー……素材としては悪くねーな」

 声が、響いた。

 まさか──!?

 俺は慌てて背後を振り返る。

 岩壁の扉が、わずかに開いていた。

 その側に黒い影がたたずんでいる。
 ねじくれた四肢をもつ、いびつな人型のシルエット。

 そいつの腕が伸び、チャラ男の一人を貫いたのだ。

「魔族……!?」

 うめく俺。

 異世界には、魔族デーモンと呼ばれる魔の眷属が存在する。

 その大半は『下位魔族レッサーデーモン』と呼ばれ、獣並みの知性や本能で行動する。
 文字通りのモンスターである。

 だけど、一部には人間と同等か、それ以上の知性を持つ個体が存在する。
 そいつらを総称して『中位魔族』や『高位魔族』と呼ぶ──。

 まさか、そんな連中までこっちの世界に現れたのか?

「我が名はギシュリ! 魔王ヴィルガロード様の配下!」

 魔族が朗々とした声で名乗った。
 気配から察するに、魔王に準ずる力を持つ高位魔族ほどじゃないが、十分に強力な中位の魔族だろう。

「な、なんだ、こいつ……?」
「化け物……!?」

 チャラ男たちが呆然とうめく。

「……逃げろ!」

 俺は彼らに叫んだ。

「もう遅えよ」

 が、チャラ男たちが身を起こすより早く、ギシュリが動く。
 ねじくれた四肢が触手のように伸び、彼らの胸を順番に突き刺した。

「がっ!?」
「ぐあっ!?」

 血を吹き出して動かなくなるチャラ男たち。

「お前……っ!」
「安心しろ。全員、生きているからよ」

 ギシュリが笑う。

「ただし──人間とは別の存在として、な」
「ぐおおおおあああああぎぃぃぃぃいいいいいいいいい」

 次の瞬間、異様な悲鳴を上げて、彼らの体が内側から爆発的に膨れあがる。
 全身が青黒く変色し、硬質化し、両腕が異様なまでに長く太く変形する。

「魔物……!?」

 最初に血を吐いた奴も、その後に胸を貫かれた連中も──。
 全員が、異形のモンスターへと変化を遂げていた。

「スキル【魔物化】。俺の腕に貫かれた人間は、その名の通り魔物へと変質する」

 魔物と化したチャラ男たちが、ゆっくりと立ち上がった。

「さあ、そいつを──『勇者候補』を殺せ!」

 命令するギシュリ。
 異様に長い腕を揺らし、近づいてくる彼ら──いや、魔物たち。

「へっ、同胞である人間を傷つけられるか? 殺せるか? できねーあろ?」

 ギシュリが勝ち誇った。

「魔族やモンスターは容赦なく殺すわりに、同じ人間相手だとたちまち戦意を失う──それがてめーらの弱点だ」
「──どうかな」

 俺は思いっきり踏みこみ、渾身の拳を放った。

 まさしく砲弾に匹敵する一撃を、正面の魔物に叩きつける。
 胸元の肉を裂き、心臓を貫く。

「あ、がっ……」

 苦鳴を上げた、そいつは倒れ──絶命した。
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