普通のゲイの『奇妙な短編集』

しゅんすけ

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成人式にタバコを吸いなれているのは早く大人になりたかったから

成人式のたばこを吸い慣れているのは 2

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電話の向こうで扉がバタンと閉まるような音と水の流れる音がした。直感的にトイレかと思った。けれどなぜ、トイレから電話をかけてくるのか分からない。人ごみを避けたいならもっと他の場所があるはずだ。向こう側が静かになると小さな声で話し出した。

「もしもし、悠也?」

 電話の向こうは女性の声で僕の名前を知っていた。僕が誰ですか? と聞くと清香と名乗ってからもう一度フルネームで答えた。

「清水清香よ、覚えてるわよね」

「うん、もちろん。そっちこそ覚えていてくれたんだ。だけど、どこでこの番号を?」

「そんなことは今はいいの。同窓会にはくる?」清香は昔から少しだけ気が強かった。それは今も変わっていないみたいだ。
「いや、行かないかな。そんな気分じゃなくなった」

「見かけたわよ。孝史の写真、持ってきてたわね」

「孝史のこと覚えていたんだ。よかったよ、直人も誠司も忘れてたり、過去の出来事だって感じだったから」

 電話の向こうが静かになって、清香は沈黙をした。何か言うのを渋っているのが伝わってくる。そして、あのね、とようやく口を開いた。

「孝史が川に流されたの、私も栞も見ていないの」

 僕宇は布団から起き上がって、なんだって? と大きな声を出してしまった。落ち着いて聞いてと清香が言った。だけど落ち着いてなんかいられなかった。

 あの日清香たち、五人は何をして遊ぶかで意見が分かれたという。

 清香と栞はいつもの公園でおままごとを、直人と誠司は前日の雨で流れの激しくなった大七川を見に行こうと言うので別れたらしい。いつもなら僕が居て、僕はそんな危険なことはしないから孝史とおままごとの方に票を入れる。だけどその日は僕が居なくて孝史は直人に、男なら行くよな? と川を見にいく方に票を入れたそうだった。

 だけど川には近づくな、と学校から言われていたから、清香と栞は絶対に行かない、と公園に残ったそうだった。三人は別行動で川に行って、次に合流したのは焦りながら戻ってきた直人と誠司の二人だけだったそうだ。直人は、どうしよどうしよ、と焦ってはじめは何が起きたのか分からなかったという。そして清香が孝史は? と聞くと川に流されたと言った。そこで栞が大人に知らせなくちゃと、近くの家に行って警察を呼んだらしい。

「だから、直接は私たちは見ていないの。だけど私たちも動揺してて直人たちから聞いた話を警察の人に話していたらみんなで一緒に行ったと思われて私たちも怒られて…」

「そうなんだ」

 その場に清香たちが居なかったとしても、孝史が川に流されたという事実は変わらない。今さらだからなんだというだ。こんなことで電話をかけてきたのかと思い、僕はそうなんだと返した。だけど清香はまだ話があるみたいだった。

「それでね、結論だけいうと……。孝史は川に流されてない。あの日孝史たちは川に行っていないの」

「え、どういうこと?」

「詳しくは直接話したい。ごめん直人待たせてるからそろそろ行かないと……」

「え、直人?」

「今日の二次会中に抜け出すから、駅に来て。同窓会は来なくてもいいから、二二時ころに、また電話する」

 電話は切られて僕はしばらく携帯を耳に付けたままにしていた。僕は居ても経っても居られなくなって、スーツを今さら脱いで私服に着替えた。このままじっとしていても落ち着かない、と同窓会に行く準備をした。

 同窓会の行われる居酒屋に行くとようやく、知った顔だけがいる空間に懐かしさを感じた。久しぶり、どうしてた? と言うやり取りを繰り返ししながらみんなが集まるのを待つ。誠司が来て僕に、よっ、とだけ挨拶をして奥の席の方に入って行く。まだ直人と清香、栞が来ていなかった。

 ほとんどの席が埋まったところで、主役のように遅れて登場したのが直人だった。そして直人と腕を組んで清香が入ってきた。

「サプラーイズ」と言って直人と清香が左手の甲をみんなの方へ見せつける。その薬指にはおそろいの指輪が輝いていた。みんなが拍手をして、二人がみんなの前を歩いていく。清香が僕に近づくと、直人に腕を組みながら話しかけてきた。

「あ、悠也? 久しぶりー」

 電話でのテンションとは全く違うものだった。さっきの電話は清香じゃ無かったのか、という疑いも出てきたけれど声は一緒だった。僕は久しぶり、と返して二人も奥の席に入って行った。

 僕は適当に入り口近くの席に座って、遠くに座る清香たちを見ていた。栞はどうやら来ていないようだ。小中ぶりに会うみんなは雰囲気は変わっていても顔を見れば当時の記憶が蘇った。担任の松田先生を呼ぼうとしたらすでに亡くなっていたこと(当時で六十を超えていたからおかしい話ではない)や在り来たりな昔話をお酒を飲みながら繰り返した。僕は最初の一杯だけ飲んで、あとはバレないように水を飲んでいた。

 同窓会を楽しみに来たんじゃない、清香の話を聞きに来たんだ。周りはみんなアルコールが回ってきていて、顔を真っ赤に染めたり呂律が回らなくなったり、みんな陽気に楽しんでいる。清香が席を立って僕のいる入口の方に歩いてきた。お手洗いだろうか、僕の前を横切る時にぼそっと耳打ちをした。

「着いてきて」

 僕もお手洗いに、というように席を立った。清香はトイレの方に向かわずにお店の外に出た。そして煙草に火をつけた。

「もう限界、あんな奴の隣にいられないわ」
 僕もタバコに火をつけると清香は意外そうな顔で見てきた。

「あら、以外ね。タバコは吸わないかと思ってた」

「よく言われるさ」と僕は返した。

「あんな奴の隣って?」

「直人よ」と清香は冷たく吐いた。

「お酒弱い癖にかっこつけるからもう寝ちゃってるし、今話すわ……。あのね……」
 僕はそれを聞いて、タバコを持つ手が震えた。

「直人が殺したの。孝史のこと……。あれは事故じゃないの」

 吸った煙が変なところに入り込んで、僕は咳き込んだ。そしてさすがに、そんなことは無いと僕は笑いながら言った。

「さすがに、そんなわけないよ」

 でも清香は細めた冷たい目で僕を見た。そして冷たく、ほんとよ、と言った。
 清香はタバコを一本吸いきるまでそれ以上何も言わなかった。清香のタバコは1ミリのピアニッシモで彼女にぴったりだった。

「あいつが殺したの、私にそう言ったわ。本人は覚えていなそうだけどこの指輪をくれた日に言ったの。私へのプロポーズに成功して喜んだあいつは弱いくせにお酒を沢山飲んで、泥酔してた。子供は二人欲しい、大きなマイホームを建てたい、子供とおそろいの服を着て旅行に行きたい、私に理想の家族像を話してきて、その時までは私もそうだねって、あいつとの将来を夢見てた。そんな生活が理想だなって……。だけど、あいつが言ったの。

 家族になるなら秘密もお互いに、なんでも打ち明けられないとダメだって、でも私はそんな秘密は無いわって言ったの。でもあいつは、生きてれば人に言えない秘密の一つや二つあるはずだって、俺が先に話すからその後教えろって。それであいつは、私に話し始めたの」

 清香はまた自分のタバコに火をつけようとして、僕のタバコを見て言った。それ一本ちょうだい、と。僕はセッターのメンソールを清香にあげた。清香はピアニッシモを僕にくれた。清香がセッターのメンソールを一口吸うと、ゆっくりと長い煙を吐いた。

「俺が孝史を殺したんだよって、あいつ言ったの。呂律もろくに回ってないし、言いながら笑ってた。それで私は聞いたの、どういうことって、そうするとあいつは今度泣き出しながら話し始めたのよ。殺す気は無かったんだって、あいつのこと少しだけ痛い目に合わせようとしただけなんだよって」

「なんで直人が孝史を痛めつけようと?」

「あの日の前日、私は直人に告白されたのよ。だけど断ったの。好きな人がいるってね。すると誰だよって始まって、私は正直に答えたの。孝史が好きだって」

「好きだったんだ、孝史のこと」

「うん、そりゃあの当時は子供だしさ。孝史は私たちの遊びにも嫌な顔しないで混ざってくれるからね。純粋な好きだったの」

「純粋な好きか……」

「うん、それであいつが孝史のどこがいいんだって、俺の方が足も速いし背も高い、それに男らしいだろって。それだけ言って目を真っ赤にしながら私の前から逃げてったの。それでその次の日に、あいつは孝史に嫌がらせをしたみたいなの。

 悠也がいないことを良いことにね。誠司と三人で山の奥に行ったんだって、学校の裏手にあった城山に、そこであいつは孝史の持ってた鞄をいたずらに隠した。そして孝史を一人置いて、誠司と二人で城山の下で遊んでたんだってさ。見つけたら降りてくるだろうって、だけど孝史はいくら待っても降りてこなかった。

 それであいつは城山に登って孝史を探したの。そしたら孝史は崖の下で頭から血を流して息もしてなかったんだって」

「そ、それじゃなんで溺れたってことに……。すぐ病院に連れて行けば助かったのかも……」

「そうよね、私も同じことをあいつに言ったわ。あいつは自分が悪戯をしたから死んでしまったと焦ったのよ。まあ、その通りなんだけど。それで誠司と口裏を合わせて孝史を山の中に埋めたの。山にある祠の裏だって言っていたわ。それでみんなには川で遊んでいて溺れてしまったと、気が付いたら居なくなっていたと言ったのよ」

「そんな、子供の判断で死んだことにして、埋めただって……。もしかしたら生きていたのかもしれない」

 僕がそういうと清香はそうねと煙を見ながら言った。

「山の祠のある所に埋めたって言ってたけど、警察には話したの?」

「してないわよ。小学生のころの記憶を酔っ払いが話してたのを聞いたって言っても仕方ないわよ。まだ祠の場所は確認していないわ」

「か、確認しないと……」

「だからあなたに話したの」

 僕たちはタクシーに乗って城山の下にあるコンビニまで移動した。栞が待っているから、と清香は言った。タクシーで移動中に僕は清香に聞いてみた。運転手には分からないように遠回しに。

「もし、直人の言っていることが本当で、あそこに言ったとおりの物があったら清香はどうするの?もう直人のことは好きじゃないの?」

 清香は僕の顔を見てから窓の外を見た。

「プロポーズをされた瞬間は、世界で一番幸せなんじゃないかそう思えた。それは嘘じゃない。だけどあいつからそれを聞いて目の前の景色が一瞬にして変わった。宇宙から見える綺麗な地球から、駅前に落ちてるタバコの吸い殻にね。明るい未来は一瞬にして燃え尽きたわ。もう愛せないし一緒にも居たくない。死ねばいいとさえ思っている」

 僕はタクシーを降りるまでそれ以上何も聞かなかった。タクシーがコンビニについて、栞が待っていた。栞は昔から変わらず栞だった。二本のポニーテールで丸い眼鏡をしていた。

「久しぶり、式には来なかったんだね」

「久しぶりね。あんな人殺しのいる場所に行きたくないわ」

 栞の辛口な話し方も何も変わっていなかった。栞はもっと前からこのことを聞いていたらしい。そして成人式のこの日に探しに行くと決めていたらしい。

「でもなんで今日なの?」

「子供のころの出来事で済ませたくなかったのよ。あいつは過去の出来事だからで終わらせようとしてた。だから正式に大人になる成人式を迎えてから、罪を償わせたかった。過去の出来事で本当の罪に問えないとしても、しっかり反省してもらいたい。友達として、親友だった仲間としてね」と清香は言った。

「早くいこう。シャベルは向こうに置いてきたから」栞はそういうと、僕たちを祠のある所まで案内してくれた。

 山道は背の高い木々に光を遮られて携帯のライトを頼るしかない。足元を照らして踏み外さないように歩を進めた。外は寒いのに体は熱くなってきて、パーカーの下は汗ばんでいた。息切れに運動不足を感じながら栞の後を追いかける。誰も言葉を発さないから、僕の息切れだけが目立つ。

「着いたよ」と栞が言って光を照らした方を見ると小さな祠があった。その前に大きなシャベルが一本転がっている。石造りの祠で枯れた花が供えられたままになっている。

「罰とか当たらないかな、祠の周り掘り起こしたりして」と僕は言うと、栞はライトで自分の顔を照らした。そして空いてる方の手をポケットに突っ込んで何かを取り出した。

「だからお備える饅頭、買っといたよ」と栞は言って枯れた花の隣にまんじゅうを置いて、手を合わせた。「ここら辺掘らせてください。友達がいるかもしれないんです」

 栞は昔から幽霊とかそういった物は信じない奴だった。林間学校の肝試しの時も何が怖いのよ、と怯える僕たちの先頭を歩いていたのを思い出した。

「さあ、掘って」と栞はシャベルを僕に渡した。

「え、僕が?」

「照らしてあげるから、あんた男でしょ」と清香が言ってタバコに火をつけた。火事にしないでよ、と栞が怒ってこれから遺体を掘り起こすかもしれないのに緊張感が無かった。

 祠の後ろを掘り進めて三十分ほどかかってようやく、五十センチくらい掘り進めた。地面は思った以上に硬くて石が多い。掘るのに時間がかかった。

「祠のどの辺りに埋めたか言ってなかったの?それに小学生に人を一人埋められるほどの穴が掘れるのかな?」

「分からないけど、祠のあたりに埋めたって」

「それにここ以外に祠がある可能性は……」

「いいから口より手を動かしなさいよ」と清香は強めに言ってきた。昔からの気性の強さは変わらなくて懐かしさで噴き出してしまった。

「なに笑ってんのよ」

「いや、変わらないなって」

 栞は辺りに目印か何かがないかを探しているようで、地面を照らしながら辺りを回っていた。僕はまた地面を掘り続けてシャベルが大きめの岩に当たった。これ以上は掘れ無そうで場所を変えようと辺りを見た。

 栞が、ちょっとこっちに来てよ、と僕たちを呼んだ。栞のもとへ行くと一本の木の根元を照らしていた。どうしたの? と清香が聞くと、ここだと思う、と栞は言った。

栞の照らした木の根元には、枯れた花が置いてある。それと昔よく飲んでいた炭酸のジュースの缶が置いてあった。もう販売していないはずだ。それは供えられているように置いてあった。

「誰が置いたんだろう。意図的かな」

「あいつらでしょ。罪滅ぼしのつもりで置いたんじゃないの?」

 僕はその木の根元を掘り進めた。さっきの場所より土は軽くて慎重に掘り進めた。二人は何も言葉を話さず僕の掘る穴をただ見つめていた。そしてしばらくして清香が口を開いた。

「私さ、孝史に振られたんだよね。直人に告られるだいぶ前にね」

「そうだったの?」と栞が驚いて言った。

「うん、だけど孝史はまだ子供だから好きが分かんないって言ってきてさ。私が教えてあげたの、好きって言うのはずっと一緒に居たいとか、一人の時にも考えちゃうとか、手を繋ぎたいとか、そう思える相手のことだって」

「なにそれ可愛い」と栞が言う。

「それで孝史は言ったの。それなら僕が好きなのは悠也かな、一緒に居たいし、明日は悠也と何話そうってよく考えるからって。あんたたち両思いだったのよ」

「え? なに、いや違うって、俺は別に孝史のことなんか……」

「分かっていたわよ。あんたの目線も、孝史の目線も見てればね。あんたはよく孝史を直人たちのいじりから守っていたし、孝史も悠也を慕ってた。ね、栞」

「うん、隠せてない。別にゲイだからって驚かないしね」

「う、うん。まあ……。好き……だった」
 思いがけないカミングアウトに戸惑って、恥ずかしさをごまかすようにシャベルを動かした。そしてシャベルは土じゃない、岩でもない何かに当たった。

「何か、当たった」

 そういうと同時に誰かの携帯が鳴った。急になる電子音に三人そろって悲鳴に近いか細い声を出した。鳴ったのは清香の携帯で、相手は直人からだった。

「もしもし、今どこ? だれかといるん?」
 清香は携帯をスピーカーにしていて直人の声が聞こえた。泥酔しているのは話し方で分かる。

「今ね、懐かしい友達といるの」

「え、誰?」

「私の初恋の人よ」

「初恋って、俺じゃなかったっけ?」

 直人の声がシャキッとしだした。結婚相手が初恋の人といると言われて目が覚めたらしい。

「そいつ誰やねん、俺も行くわ。どこにおんの?」

 直人の声がイラついているのが分かる。清香はタバコに火をつけて何口か吸う間直人の返答を無視していた。その間直人は誰といるのかと問い続けた。

「あのね、私たち別れましょ。もうだめよ」

「いいからいる場所教えろよ。誰とおるねん」

「孝史よ。あなたの殺した」

 電話の向こうでガシャンと言う音がした。携帯を落としたみたいだった、しばらくして電話は切れて清香は穴を覗いてまた電話をかけた。

 しばらくすると城山の麓には赤いランプが点滅して、やじ馬たちが何事かと周りに集まっていた

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