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海人視点
5『じっけんだい
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帰り道に飲み終わったジュースの空き缶を公園のブランコの先に置いた。そしてブランコに座って空き缶に手を向けて念じてみた。
距離は三メートルくらいだ。潰れろ、と念じて掌を握った。すると空き缶は何にも触れていないのに、ぐしゃりと潰れた。
本当に、超能力が使える。
知らない自分の力に怖い気持ちと、探求心が入り混じった。浮け、と念じて手を向けると潰れた空き缶は地面から三十センチくらい浮いた。浮いた空き缶を、飛んでいけと念じて手を払いのけると空き缶は公園の外に飛んでいった.。
だけど力を使うと、脳が一気に疲れるみたいだ。一日中考え事をしたみたいに、他のことが考えられなくなる。家に戻るとベッドに倒れこんだ。自分に何ができるのか、考えていると瞼の重さに従順に落ちた。
力を使える事実にも数日で慣れた。ベッドから起き上がらなくてもティッシュ箱は飛んできてくれるし、空き缶を捻り潰すのは呼吸をするくらい簡単になった。
部屋の中か、人のいない公園か、もっと別の場所で力を試したくなって駅近辺で良いところが無いか探してみた。
駅の向こう側、工事の止まっている建築現場まで来ると人も少なくて広々としていた。
「関係者以外立ち入り禁止」の大きな看板前で左右を確認して誰も見ていないことを確認して敷地に入った。
完成間近のマンション、足場材の奥では新しく買った本の断面みたいに綺麗な壁が空へと続いていた。足場に忍び込んで上を目指して登ってみた。
悪いことをしているのに不思議と怖くも感じない。俺には特別な力がある。そのおかげで何でもできる気がした。
遠くから見ると入り組んでいるように見えるマンションの足場も、中に入るとシンプルに同じ構造を繰り返しているだけだった。
地面は遠くに、何段登ったのかも途中から、数えるのを忘れていた。駅の屋上を見下ろせるくらいに高い。下を歩く人は米粒みたいに見える。
向かいのマンションで、同じ高さでカラスが足場に止まっている。十羽以上はいる。ここまで登ってみたはいいけれどほかに力を試す対象も見つからないからカラスに向かって手を向けて念じてみた。
「飛べ」
動物を超能力で操る。そんなヒーロー映画や小説を読んだ記憶が無かった。存在はするんだろうけれどイメージがわかない。
動物を操れたところで何を命令すればいいんだろうか。嫌いなクラスメイトの頭に糞を落とせとか、野良猫に引っ掻いて来いって命令したりとか、しょうも無い事しか思いつかない。そもそも動物にやらせるより、いい方法がありそうだ。
カラスに念じながらそんなことを考えていた。集中できていないせいか、そもそも動物をコントロールなんてできないのか、カラスはただマンションの下を走る車をじっと見つめたまま動かない。
「飛べ、飛べ、飛べ」対象のカラスを変えて念じていった。カラスたちは俺の存在にすら気がつかずに毛づくろい始めた。
だめか、と諦めて後ろの手摺にもたれかかって伸びをした。カラス達は今頃飛び上がっていって向かいのマンションには何もいなくなった。
帰ろうかと足場の階段を数回降りると、向かいのビルにまたカラスの群れを見つけた。
工事は止まっていて邪魔するものがいないからカラスに人気な休憩スポットになっているのかも知れない。
もう一度だけ試してみよう。さっきより多い数のカラスの群れで、一羽だけ離れているカラスに向けて念じてみた。
「飛べ」
手を向けて今度は目を瞑ってみた。目を開けると、そのカラスだけいなくなっていた。
一瞬成功かと嬉しくなってけれど、ただの偶然かもしれないともう一度試してみる。
目を開けたまま念じてみる。何度頭の中で念じてもカラスは微動だしなかった。もう一度目を瞑って念じてから、目を開いてみた。すると対象に手を向けたカラスはいなくなっていた。
成功かもしれない。空き缶は目を瞑らなくても潰せた。対象との距離が遠いせいか、動物に命令をするのはコツがいるのか目を開けたままでは力が発揮できなかった。
目を瞑ると集中力が上がって精度が上がる。それを立証するために他のカラス達でも実験をしてみた。
力を使うほどに脳が疲労していくのが分かる。それに空き缶を潰したり物を浮かしたりするときの疲労とは違う。
今は脳全体が熱をもってオーバーヒートをしているみたいだ。頭がズキズキと痛い気もしてくる。結果は目を瞑ればカラスを飛ばせる。
この目で見てはいないから、すごい確率的な奇跡が起きたかもしれない。だけどゲームアプリを長時間やったスマホみたいになっている頭がそうじゃないと言っている。
熱がフラフラする。手摺に掴まりながら転げ落ちないように階段を下った。入ってきたときの立ち入り禁止の看板まで来ると、看板の前に黒い物体があった。
体がのけ反ってからそれがカラスだと分かった。カラスは黒い目を開いたままこっちを見て動かない。
真っ暗な瞳の奥で、お前のせいだと鳴いて訴えているように感じる。
お前が殺した。お前のせいだ。お前が殺した。
突然背後でドンッと音がして反射的に体は強張った。寒気がしてオーバーヒートしていた脳みそも一気に急冷された。後ろを向くとカラスが地面に落ちている。
距離は三メートルくらいだ。潰れろ、と念じて掌を握った。すると空き缶は何にも触れていないのに、ぐしゃりと潰れた。
本当に、超能力が使える。
知らない自分の力に怖い気持ちと、探求心が入り混じった。浮け、と念じて手を向けると潰れた空き缶は地面から三十センチくらい浮いた。浮いた空き缶を、飛んでいけと念じて手を払いのけると空き缶は公園の外に飛んでいった.。
だけど力を使うと、脳が一気に疲れるみたいだ。一日中考え事をしたみたいに、他のことが考えられなくなる。家に戻るとベッドに倒れこんだ。自分に何ができるのか、考えていると瞼の重さに従順に落ちた。
力を使える事実にも数日で慣れた。ベッドから起き上がらなくてもティッシュ箱は飛んできてくれるし、空き缶を捻り潰すのは呼吸をするくらい簡単になった。
部屋の中か、人のいない公園か、もっと別の場所で力を試したくなって駅近辺で良いところが無いか探してみた。
駅の向こう側、工事の止まっている建築現場まで来ると人も少なくて広々としていた。
「関係者以外立ち入り禁止」の大きな看板前で左右を確認して誰も見ていないことを確認して敷地に入った。
完成間近のマンション、足場材の奥では新しく買った本の断面みたいに綺麗な壁が空へと続いていた。足場に忍び込んで上を目指して登ってみた。
悪いことをしているのに不思議と怖くも感じない。俺には特別な力がある。そのおかげで何でもできる気がした。
遠くから見ると入り組んでいるように見えるマンションの足場も、中に入るとシンプルに同じ構造を繰り返しているだけだった。
地面は遠くに、何段登ったのかも途中から、数えるのを忘れていた。駅の屋上を見下ろせるくらいに高い。下を歩く人は米粒みたいに見える。
向かいのマンションで、同じ高さでカラスが足場に止まっている。十羽以上はいる。ここまで登ってみたはいいけれどほかに力を試す対象も見つからないからカラスに向かって手を向けて念じてみた。
「飛べ」
動物を超能力で操る。そんなヒーロー映画や小説を読んだ記憶が無かった。存在はするんだろうけれどイメージがわかない。
動物を操れたところで何を命令すればいいんだろうか。嫌いなクラスメイトの頭に糞を落とせとか、野良猫に引っ掻いて来いって命令したりとか、しょうも無い事しか思いつかない。そもそも動物にやらせるより、いい方法がありそうだ。
カラスに念じながらそんなことを考えていた。集中できていないせいか、そもそも動物をコントロールなんてできないのか、カラスはただマンションの下を走る車をじっと見つめたまま動かない。
「飛べ、飛べ、飛べ」対象のカラスを変えて念じていった。カラスたちは俺の存在にすら気がつかずに毛づくろい始めた。
だめか、と諦めて後ろの手摺にもたれかかって伸びをした。カラス達は今頃飛び上がっていって向かいのマンションには何もいなくなった。
帰ろうかと足場の階段を数回降りると、向かいのビルにまたカラスの群れを見つけた。
工事は止まっていて邪魔するものがいないからカラスに人気な休憩スポットになっているのかも知れない。
もう一度だけ試してみよう。さっきより多い数のカラスの群れで、一羽だけ離れているカラスに向けて念じてみた。
「飛べ」
手を向けて今度は目を瞑ってみた。目を開けると、そのカラスだけいなくなっていた。
一瞬成功かと嬉しくなってけれど、ただの偶然かもしれないともう一度試してみる。
目を開けたまま念じてみる。何度頭の中で念じてもカラスは微動だしなかった。もう一度目を瞑って念じてから、目を開いてみた。すると対象に手を向けたカラスはいなくなっていた。
成功かもしれない。空き缶は目を瞑らなくても潰せた。対象との距離が遠いせいか、動物に命令をするのはコツがいるのか目を開けたままでは力が発揮できなかった。
目を瞑ると集中力が上がって精度が上がる。それを立証するために他のカラス達でも実験をしてみた。
力を使うほどに脳が疲労していくのが分かる。それに空き缶を潰したり物を浮かしたりするときの疲労とは違う。
今は脳全体が熱をもってオーバーヒートをしているみたいだ。頭がズキズキと痛い気もしてくる。結果は目を瞑ればカラスを飛ばせる。
この目で見てはいないから、すごい確率的な奇跡が起きたかもしれない。だけどゲームアプリを長時間やったスマホみたいになっている頭がそうじゃないと言っている。
熱がフラフラする。手摺に掴まりながら転げ落ちないように階段を下った。入ってきたときの立ち入り禁止の看板まで来ると、看板の前に黒い物体があった。
体がのけ反ってからそれがカラスだと分かった。カラスは黒い目を開いたままこっちを見て動かない。
真っ暗な瞳の奥で、お前のせいだと鳴いて訴えているように感じる。
お前が殺した。お前のせいだ。お前が殺した。
突然背後でドンッと音がして反射的に体は強張った。寒気がしてオーバーヒートしていた脳みそも一気に急冷された。後ろを向くとカラスが地面に落ちている。
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