幽霊少女

猫ふくろう

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1話・幼女浮遊霊

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 笹原百合子は独身で小学校の教師をしている。一軒家に住んでいる。一軒家は一人が住むには広すぎる。寂しいという気持ちは無いらしい。百合子は幽霊の存在など全く信じていない。実際に心霊スポットに行った事もあるが見たことは無かった。
 今日も朝早くから夜遅くまで働いてきた。
「あー、疲れた。明日は休みだ。今日は寝よう」
一人暮らしになると独り言の量が多くなる。決して寂しいわけではない。
 深夜、トイレに行きたくなって目が覚めた。トイレを済ましてドアを開けると見覚えの無い幼女がいた。寝ぼけていた百合子は一人暮らしなのに他の人がいる事を不思議に思わず彼女に話しかけた。「どうしたの」
「迷子になっちゃった」
「そうなんだ。今日はもう遅いから家に泊まって明日お母さん探そう」
幼女はうなずく。
 百合子はとび起きた。夜遅くに家の中に見知らぬ幼女がいることがおかしい事に気付いた。幼女を泊まらせた部屋へ行くとベットの上で寝ていたが、掛け布団と幼女が重なっていた。
「ちょっ、君。起きて」
「ん~」
幼女が起きた。
「どうやって家に入ったの」
「玄関から」
目をこすって眠そうにしている。
「鍵は閉まってたのにどうやって入ったの?」
「すり抜けて」
二度寝する気満々で目をつぶりながら質問に答えている。
「名前はなんていうの?」
「・・・」
眠りに入られてしまった。百合子も二度寝しようかと思ったが、さすがに幽霊がいると分かった家で寝ようとは思えない。
 とりあえずいろいろ試してみることにした。最初は幼女に触ってみるとこにした。結果は触ることができなかった。幼女の中は少し涼しかった。塩をかけてみた。結果は何も起こらなかった。
 塩が効いたのか百合子には分からないが幼女が起きた。
「ん~」
次は眠そうな様子は無い。さっきの質問の続きをすることにした。
「名前はなんていうの」
「人に名前を聞くときは先に名乗るのが礼儀じゃない?」
百合子は小生意気な子供だと思ったが教師歴の長さで耐えた。
「それもそうね、私の名前は・・・」
「鈴木久美っていうの」
百合子は呆気にとられた。
「ハハッ、これ一回やってみたかったの」
百合子はまだ意味が分からない。数秒間、固まったまま久美を見ていた。
「あなたの名前は久美ちゃんっていうのね」
「うん!」
元気な返事が返ってきた。百合子の担当するクラスでもこんなに元気な返事をする子はいない。
 その後、話を聞いて分かったことはどうして死んだのかは分からず、それどころか、生前の記憶は一切ない。
「これからどうするの?」
久美は少し考えて答える。
「ここに居候させてもらう」
幽霊と二人暮らしなんて嫌だ。頭がおかしくなってしまう。しかし教師として幽霊であっても子供を見捨てるわけにもいかない。子供は何があっても助けることが彼女のモットーだ。自分の精神を取るか自分の信念を取るか。百合子は迷っている。
「私を居候させるか迷っているあなたにアドバイス。私には寝る場所、食事、一切必要ありません。そして私があなたを癒してあげましょう。悲しい時は慰めて、楽しい時は一緒に笑ってさしあげます」
多弁な幽霊が色々喋っている。
「そういえば、食費も寝る場所も必要ないのにどうして私の家に居候しようと思ったの?」
 今まで百合子をからかって笑っているだけだった久美の顔が無表情になる。さっきまでは憎らしい気持ちが勝って気づかなかったが結構可愛い顔立ちをしている。
「私が幽霊になって何年経ったと思う?」
百合子にわかるわけがない質問だが一応答えてみる。
「2年くらいかな」
久美は深くため息をつく。全然違ったことは察しがついた。百合子は久美の答えを待った。
「確か7年。辛いもんだよ7年も誰とも話せないのは」
「そんなに経つんだ。それじゃあ、なんで昨日、迷子になったなんて言ったの」
「見た目が小学低学年くらいだから幼稚に話した方が話がスムーズに進むと思ってね」
表情がさっきの無表情からかうような表情に戻った。
「悪いけど私は一人暮らしが気に入ってるんだ」
久美の顔が曇る。今の言葉に次の言葉が何なのか察しがついたのだろう。その言葉を聞く前に久美が言った。
「お願いだよ。私は一人は嫌だよ」
いきなり泣き始めた。泣いたり、百合子をからかって笑ったり感情の起伏が激しい。7年間誰とも話さないで成長することが無かったのだろう。
百合子はきっと私がこの子にとっての初めてで最後の希望なのだろうと思った。
「イタズラしないと誓うならこの家に住んでも良いよ。あと私に取り憑かないで」
「分かった」
すぐに返事が来た。久美がイタズラしてくることは百合子にも分かった。
「そういえば昨日は何で迷子なんて言ったの?」
百合子は何となく気になった。自分が死んでいることに気付いているなら迷子なんていう事は無い。
「あー、あれは何となく。そっちの方が違和感ないでしょ。後から少しずつ本性出してくつもりだったよ」
「少しずつ・・・」
お互いに知りたい事を聞き終わり、昼が過ぎた。
 夜になり久美が眠そうな目をしている。話しかけても反応が鈍い。もう寝かせる事にした。
「明日、私は仕事で家にはいないからね。留守番頼んだよ」
「うん」
百合子は寝る前にトイレに行き久美は先に寝室に行った。由里子がトイレでくつろいでいると、扉を勢いよく叩かられた。
「うわー」
すぐに久美のイタズラだと分かった。扉を開けるとやっぱり久美が笑顔で立っている。
「ビックリしたでしょ」
百合子は涙を拭いて怒る。
「そういう事はするなって言ったでしょ。追い出すよ」
「分かったよ。もうしな・・い・・」
久美が気を失うように倒れながら寝た。久美の上には布がのっている。久美は何も触れる事が出来ないはずだ。百合子もその布を触ることが出来た。百合子は布越しに柔らかいものを感じた。この布なら久美に触ることができることが分かった。
 百合子はこの布を使ってベッドまで運んでやることにした。最初はお姫様抱っこて運ぼうとしたが小さい布が一枚しか無く、腕に縛り付けてそれを引っ張って行くことにした。百合子は腕が痛いだろうが今日受けたイタズラに比べれば良い仕返しだと思い、そのスタイルで運ぶことにした。
 百合子が目覚めた。身体が動かない。久美の仕業であることは間違いない。百合子は久美に動けるようにするように頼んだ。
「あ~、頭痛い」
「どうしたの、誰かに取り憑かれたの」
「そんなのよりひどいよ。誰かに紐で縛られたせいで寝返りを打てなくて血が頭に溜まってるんだ」
「そうなんだー。じゃあ今日は寝返りを打てるようにおまじないをかけてあげるね」
性格の悪そうな笑いをする。
「そういえば、ロープで縛るより幽霊らしく金縛りとかすればよかったんじゃないの」
「金縛りなんて私みたいなぺーぺーには出来ないよ。私ができることといったら寝起きを最悪にすることくらいだよ」
「私にはそんなことしないでよ」
久美は何も答えず笑っている。時間がないので百合子は久美に寝起きを最悪にされないことを願って家を出ていった。
 由里子の働いている学校ついた。
「おはよー。出席とるよー」
 午前の授業が終わって昼休みになった。
「センセー、昨日は何回も同じところで自殺し続ける幽霊を見たよー」
この生徒は沙奈といい、とても明るい生徒だ。
「夜美ちゃんも見たよね」
「い、いや。わ、私は・・どうだろう・・・」
この子は夜美といい、沙奈とは対照的でとても暗くあまりクラスの子と喋らない。沙奈は 自称霊感持ちで見た幽霊の話をよく報告してくる。夜美は沙奈いわく霊感持ちで夜美自身は霊感持ちではないと言っている。
 昼休みも終わり、今日最後の授業をしている時、壁から人がすり抜けてきた。もちろん久美だ。百合子はここが家なら突っ込むところだが、ここでは生徒たちに、見えない人に怒るヤバイ奴と思われるのでスルーすることに決めた。
「幽霊がいる!」
沙奈が叫んだ。スルーすることができなくなってしまった。引っ叩いてやりたいところだが今はできない。どうしようか考えていたら、突然久美が苦しそうな顔をしながら逃げていった。沙奈を見ると怯えてきって震えている。その隣で夜美がブツブツ念仏のようなものを呟いていた。どうやら二人とも本当に幽霊が見えるらしい。
「ありがとー。夜美ちゃーん」
沙奈が夜美に抱きついた。夜美もまんざらではなさそうだがとても恥ずかしいようで顔を真っ赤にしている。
 放課後、百合子は沙奈と夜美の2人を教室に待たせた。
「ちょっと見せたい人、人なのか?まあ、なんでも良いや。見せたいのがあるからもう少し待ってて」
由里子が連れて来たのは久美だ。彼女を見た瞬間、2人とも身構える。
「ゴメンねー、怖がらせるつもりは無かったんだー。まさか私が見える人がいるとは思わなくてねー、特に君、まさか私を除霊しようとするとは、死ぬかと思ったよ。まぁ、元々死んでるんですけどね!」
笑いは全く起きない。当たり前だ。由里子は頭を抱え、沙奈と夜美はポカンとし久美はウケなかったことを不思議に思っている。
「続きまして、幽霊あるある」
百合子に止める気力は無い。
「人にぶつかった時、思わず謝っちゃう」
笑いは起きない。
「さらに続きまして。冒険の危険と掛けまして、動物の霊に憑依されたと解きます。その心は、どちらもツキモノでしょう」
もちろん笑いは起きない。
「いや、だから冒険には危険がつきものと、憑き物を掛けたんだよ。ちょっと難しかったかな?」
「これは沙奈ちゃんを怖がらせたぶん」
由里子はそう言って久美のシリを叩いた。
「そしてこれは空気が読めないことに対する罰」
そう言ってもう一回シリを叩いた。
「叩いたね、二度も叩いたね。親父にも叩かれた記憶ないのに!」
「もういいや。この子達は沙奈ちゃんと夜美ちゃん」
「こんにちは」
久美が挨拶する。スベり倒したことを反省して普通の声のトーンで話している。「こんにちは」
さすがに沙奈でも明るくは振る舞えない。夜美は沙奈をかばうように久美と沙奈の間に入っている。今日はもう沙奈たちの警戒を解くのは無理だと思い久美を連れて帰ることにした。
「ごめんねー。次はもっと調子が良い時に連れてくる」
そう言って久美を引っ張りながら帰った。
 完全に久美と彼女達を合わせるのは失敗したと百合子は思った。
「まさかあそこまでウケないとは思わなかったよー」
「今度会う時はあまりふざけないでよ」
「ごめん」
「言いたいことはもっとあるけど今日はもう遅いから寝よう」
「そうだね。おやすみー」
「おやすみ」
百合子は明日の寝起きがいいことやその他もろもろを願いながら寝た。
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