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3話・夜美家
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放課後、それは小学生のほとんどは開放感の塊のような言葉に聞こえるに違いない。それは沙奈はもちろん、恵美奈も夜美にさえ当てはまる。彼女らはいつものように放課後に遊ぶ約束をした。いや、いつもと少し違うところがある。それは恵美奈もいる事だ。由里子の家に泊まって以来恵美奈は沙奈と夜美と仲良くなった。
「今日は何する?」
3人は考え込む。
「夜美ちゃんの家に行ってみようよ」
沙奈が提案した。
「いいですね。今日、お邪魔してもいいですか?」
夜美は頷いた。
「夜美さんの家は想像がつきませんね。沙奈さんは行った事あるのですか?」
「無いんだよねー。だから楽しみ」
2人とも夜美の家を知らないので、一旦家に帰って夜美は学校で待つ事になった。
2人が来たので学校を出発した。夜美の家は学校から15分程歩いた所にあった。夜美の家は大きな通りの外れにあった。
「着いた・・・ここが私の家」
夜美の家は一軒家で普通の家よりはやや大きい。
「ここかー」
「大きいですねー」
早速、家に入った。
「悪霊退散!」
玄関に居た人が沙奈と恵美奈に叫んだ。
「お母さん・・・友達来る・・・言った」
夜美は顔を真っ赤にしている。悪霊を退散させようとした人は夜美の母だった。
「あら、本当にお友達だったの。私はてっきり悪霊に取り憑かれたからカモフラージュして助けを求めたのかと思ったわ」
夜美の母を名乗る人物は巫女服を着ている。沙奈たちは夜美の母がハキハキ喋る事を意外に思った。巫女服は普段着らしい。
「お邪魔します。夜美ちゃんのお友達の沙奈です」
「いつも夜美さんにはお世話になっております。恵美奈です」
夜美の母は悪霊ではなかった事に安心するよりも先に驚いた。
「夜美にお友達!赤飯を炊いておくべきだったわ!その前にお父さんに連絡しなきゃ!」
そう言って彼女は奥へ行ってしまった。しかし、すぐに戻って来た。
「ごめんなさい、飲み物用意するわね」
そして再び奥へ行った。
夜美は恵美奈たちを自分の部屋へ案内した。
「さすが夜美ちゃん。片付いてるね」
夜美は嬉しそうな顔をする。
玄関が開く音がした。そして階段を駆け上がって来る音がする。足音が夜美の部屋の前に来て止まった。勢い良く扉が開くと、そこには袈裟を着た男がいた。
「幽霊じゃない!母さん、友達がいる。赤飯は炊いてる?」
「今炊いてますよ」
袈裟を着ている男は夜美の父だ。沙奈をじっくりと見て笑った。
「君は普通の人より霊感があるみたいだね」
「そうなんですよ、昔からいろいろなものが見えました」
夜美の父は次に恵美奈を見て言った。
「君は珍しい趣味を持ってるね」
「珍しい趣味とは何ですか?」
「女の先生が好きなんだよね」
「そんな事が分かるんですか」
「霊能者だから」
「袈裟は普段着ですか?」
恵美奈が夜美の父に聞いた。母は巫女姿だったのでもしかしたら袈裟が普段着かもしれないと思った。
「違うよ。袈裟が普段着って、危ない人でしょ。今日は除霊の仕事があったんだ」
「取り憑かれた人がいるんですか?」
沙奈が食いついた。
「居るよ。すぐそこの公園の隣に神社があるでしょ。そこが俺の除霊する場所」
沙奈はその神社に行きたくてウズウズしている。それは夜美の父がそれを感じ取った。
「夜美と一緒に行ってみるといいよ。今は母さんが除霊してるよ」
3人はその神社に行く事になった。家を出て五分でその公園に着いた。その公園の隣に例の神社があった。
「普通、お祓いって寺でやるんじゃないですか?」
恵美奈が夜美に聞いた。沙奈も確かにと頷いた。
「この神社・・・強い神様がいる・・・から」
そう言って拝殿の扉を開けた。
「そこ開けていい場所なの!」
沙奈が驚いて言った。夜美は首を縦に振った。
「私の家族なら・・・大丈夫」
中には夜美の母と見知らぬ男性がいた。夜美の母は先程の巫女服を着ていた。男は気を失っていて、夜美の母は彼に塩を投げつけている。
「あら、何しに来たの?」
夜美の母は沙奈達が来た事に気付いて、塩を投げつけるのをやめた。
「お父さんに・・・行ってみたら・・・言われた」
「そうなの」
「それより大丈夫何ですか?お祓いの途中だったんじゃないんですか?」
恵美奈が放置されている男を心配して聞いた。
「大丈夫よ。あんなの形だけだから」
そう言って彼女は男を残して扉を閉めた。
「本当は私達の家族の誰かがここに連れて来るだけで除霊できるのよ。でもそれだけじゃ除霊が終わっても信用しない人が多いから塩を投げつけてやったの。それが思いのほかストレス発散になるのよね。今はそのために除霊をやってるようなもんよ」
拝殿の中から物音がした。男が起きたらしい。
「もうお祓いは終わりましたか?」
「終わりましたよ。そこにある水を飲んでください」
夜美の母は扉を開けた。扉の中には男の他にもう1人いた。その人物は恵美奈には見えなかった。つまり幽霊だ。男に取り付いていた者らしい。それはもがき苦しみながら足の方から消えていく。見るに耐えない光景に沙奈は言葉が出なかった。
「あの水って何だったんですか?」
悲惨な光景を見なかった恵美奈は水に興味を示した。
「あれは私と私の夫以外があそこから出る時に飲まないと死んでしまうのよ」
予想以上に怖い場所だったことが判明した。ただ水なら何でも良いらしく唾でもかまわないようだ。一応、水を飲んだという確証を得るためにコップの水を飲ませるらしい。
お祓いが終わり、4人で帰った。夜美の母の巫女服姿は近所の名物のような物になっているらしい。
「どうして夜美ちゃんのお父さんとお母さんは水を飲まなくても大丈夫何ですか?」
沙奈が聞いた。
「家に帰ったらお父さんが説明するわね」
家に着いた。夜美の父は私服に着替えている。
「袈裟が私服じゃないのは本当だったんですね」
沙奈が少しからかう気持ちを込めて言うと父は真面目に答えた。
「あんな動き辛い服なんて着てらんないよ」
「あなた、どうして私達だけがあな神社で神様にお祓いしてもらえるか知りたいって。教えてあげて」
待ってましたと言わんばかりに笑って奥へ行った。
父は絵本を持ってきた。絵はクレヨンで描かれている事からお手製であることが分かる。
「これ俺が作ったんだよ」
夜美の父が語る紙芝居が始まった。
「これは誰ですか?」
かろうじて人と分かるが男女の区別は出来ない。
「これは俺のじいちゃんだね」
「じゃあ、これは誰ですか?」
「これは俺のばあちゃん」
「この人は俺のじいちゃんかな?」
「同じ場面に同じ人がいますよ」
絵が下手すぎて描いた本人にも見分けられなかった。見かねた母が即席で作った指人形を持ち出した。
「私に任せて」
父は母にバトンタッチした。母も自信満々に背筋を伸ばしてアピールする。
「これは200年前のお話です」
「ある所に1人の男・・・女だったかな?えーと・・・間を取ってニュハーフが住んでいました」
父が慌てて止める。
「違うよ!先祖を馬鹿にするな」
母が締めくくるように言う。
「このように、とても古い出来事なので詳しく知る者はいません」
夜美の一族の歴史が明かされないまま話が終わりかけた。そんな時、夜美が口を開いた。
「お父さんが・・・紙芝居・・読んで・・・お母さんが・・指人形で・・演じれば・・良い・・・思う」
夜美の案で夜美の一族の謎が謎のままで終わらずに済む事になった。
「神様と私達、始まり始まりー」
ーー次回に続きます。ーー
「今日は何する?」
3人は考え込む。
「夜美ちゃんの家に行ってみようよ」
沙奈が提案した。
「いいですね。今日、お邪魔してもいいですか?」
夜美は頷いた。
「夜美さんの家は想像がつきませんね。沙奈さんは行った事あるのですか?」
「無いんだよねー。だから楽しみ」
2人とも夜美の家を知らないので、一旦家に帰って夜美は学校で待つ事になった。
2人が来たので学校を出発した。夜美の家は学校から15分程歩いた所にあった。夜美の家は大きな通りの外れにあった。
「着いた・・・ここが私の家」
夜美の家は一軒家で普通の家よりはやや大きい。
「ここかー」
「大きいですねー」
早速、家に入った。
「悪霊退散!」
玄関に居た人が沙奈と恵美奈に叫んだ。
「お母さん・・・友達来る・・・言った」
夜美は顔を真っ赤にしている。悪霊を退散させようとした人は夜美の母だった。
「あら、本当にお友達だったの。私はてっきり悪霊に取り憑かれたからカモフラージュして助けを求めたのかと思ったわ」
夜美の母を名乗る人物は巫女服を着ている。沙奈たちは夜美の母がハキハキ喋る事を意外に思った。巫女服は普段着らしい。
「お邪魔します。夜美ちゃんのお友達の沙奈です」
「いつも夜美さんにはお世話になっております。恵美奈です」
夜美の母は悪霊ではなかった事に安心するよりも先に驚いた。
「夜美にお友達!赤飯を炊いておくべきだったわ!その前にお父さんに連絡しなきゃ!」
そう言って彼女は奥へ行ってしまった。しかし、すぐに戻って来た。
「ごめんなさい、飲み物用意するわね」
そして再び奥へ行った。
夜美は恵美奈たちを自分の部屋へ案内した。
「さすが夜美ちゃん。片付いてるね」
夜美は嬉しそうな顔をする。
玄関が開く音がした。そして階段を駆け上がって来る音がする。足音が夜美の部屋の前に来て止まった。勢い良く扉が開くと、そこには袈裟を着た男がいた。
「幽霊じゃない!母さん、友達がいる。赤飯は炊いてる?」
「今炊いてますよ」
袈裟を着ている男は夜美の父だ。沙奈をじっくりと見て笑った。
「君は普通の人より霊感があるみたいだね」
「そうなんですよ、昔からいろいろなものが見えました」
夜美の父は次に恵美奈を見て言った。
「君は珍しい趣味を持ってるね」
「珍しい趣味とは何ですか?」
「女の先生が好きなんだよね」
「そんな事が分かるんですか」
「霊能者だから」
「袈裟は普段着ですか?」
恵美奈が夜美の父に聞いた。母は巫女姿だったのでもしかしたら袈裟が普段着かもしれないと思った。
「違うよ。袈裟が普段着って、危ない人でしょ。今日は除霊の仕事があったんだ」
「取り憑かれた人がいるんですか?」
沙奈が食いついた。
「居るよ。すぐそこの公園の隣に神社があるでしょ。そこが俺の除霊する場所」
沙奈はその神社に行きたくてウズウズしている。それは夜美の父がそれを感じ取った。
「夜美と一緒に行ってみるといいよ。今は母さんが除霊してるよ」
3人はその神社に行く事になった。家を出て五分でその公園に着いた。その公園の隣に例の神社があった。
「普通、お祓いって寺でやるんじゃないですか?」
恵美奈が夜美に聞いた。沙奈も確かにと頷いた。
「この神社・・・強い神様がいる・・・から」
そう言って拝殿の扉を開けた。
「そこ開けていい場所なの!」
沙奈が驚いて言った。夜美は首を縦に振った。
「私の家族なら・・・大丈夫」
中には夜美の母と見知らぬ男性がいた。夜美の母は先程の巫女服を着ていた。男は気を失っていて、夜美の母は彼に塩を投げつけている。
「あら、何しに来たの?」
夜美の母は沙奈達が来た事に気付いて、塩を投げつけるのをやめた。
「お父さんに・・・行ってみたら・・・言われた」
「そうなの」
「それより大丈夫何ですか?お祓いの途中だったんじゃないんですか?」
恵美奈が放置されている男を心配して聞いた。
「大丈夫よ。あんなの形だけだから」
そう言って彼女は男を残して扉を閉めた。
「本当は私達の家族の誰かがここに連れて来るだけで除霊できるのよ。でもそれだけじゃ除霊が終わっても信用しない人が多いから塩を投げつけてやったの。それが思いのほかストレス発散になるのよね。今はそのために除霊をやってるようなもんよ」
拝殿の中から物音がした。男が起きたらしい。
「もうお祓いは終わりましたか?」
「終わりましたよ。そこにある水を飲んでください」
夜美の母は扉を開けた。扉の中には男の他にもう1人いた。その人物は恵美奈には見えなかった。つまり幽霊だ。男に取り付いていた者らしい。それはもがき苦しみながら足の方から消えていく。見るに耐えない光景に沙奈は言葉が出なかった。
「あの水って何だったんですか?」
悲惨な光景を見なかった恵美奈は水に興味を示した。
「あれは私と私の夫以外があそこから出る時に飲まないと死んでしまうのよ」
予想以上に怖い場所だったことが判明した。ただ水なら何でも良いらしく唾でもかまわないようだ。一応、水を飲んだという確証を得るためにコップの水を飲ませるらしい。
お祓いが終わり、4人で帰った。夜美の母の巫女服姿は近所の名物のような物になっているらしい。
「どうして夜美ちゃんのお父さんとお母さんは水を飲まなくても大丈夫何ですか?」
沙奈が聞いた。
「家に帰ったらお父さんが説明するわね」
家に着いた。夜美の父は私服に着替えている。
「袈裟が私服じゃないのは本当だったんですね」
沙奈が少しからかう気持ちを込めて言うと父は真面目に答えた。
「あんな動き辛い服なんて着てらんないよ」
「あなた、どうして私達だけがあな神社で神様にお祓いしてもらえるか知りたいって。教えてあげて」
待ってましたと言わんばかりに笑って奥へ行った。
父は絵本を持ってきた。絵はクレヨンで描かれている事からお手製であることが分かる。
「これ俺が作ったんだよ」
夜美の父が語る紙芝居が始まった。
「これは誰ですか?」
かろうじて人と分かるが男女の区別は出来ない。
「これは俺のじいちゃんだね」
「じゃあ、これは誰ですか?」
「これは俺のばあちゃん」
「この人は俺のじいちゃんかな?」
「同じ場面に同じ人がいますよ」
絵が下手すぎて描いた本人にも見分けられなかった。見かねた母が即席で作った指人形を持ち出した。
「私に任せて」
父は母にバトンタッチした。母も自信満々に背筋を伸ばしてアピールする。
「これは200年前のお話です」
「ある所に1人の男・・・女だったかな?えーと・・・間を取ってニュハーフが住んでいました」
父が慌てて止める。
「違うよ!先祖を馬鹿にするな」
母が締めくくるように言う。
「このように、とても古い出来事なので詳しく知る者はいません」
夜美の一族の歴史が明かされないまま話が終わりかけた。そんな時、夜美が口を開いた。
「お父さんが・・・紙芝居・・読んで・・・お母さんが・・指人形で・・演じれば・・良い・・・思う」
夜美の案で夜美の一族の謎が謎のままで終わらずに済む事になった。
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ーー次回に続きます。ーー
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