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第一話:二年前
夢
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目を覚ます。
一つの部屋。簡素で、面白みもない。
置かれているのは机、クローゼット、そしてベッド。そのベッドに私は寝ていた。
体を起こし、俯く。窓のカーテンは閉められていて、細い斜陽が私の足に 凭れている。この陽は、きっと夕日だ。
意識が朦朧としている。体中が痛い。腕を少し動かすだけで骨が軋み、パキパキと音がする。まるで、随分長い間体を動かしていなかったような感覚だ。
ここはどこだろう? 最初、寝起きだから状況がつかめていないのだと思った。でも、違う。意識がはっきり戻っても、私が今置かれている状況は謎のままだ。
最後に何をしていただろうか? 記憶を辿る。でも、ダメだった。靄がかかったようになにも思い出せないのだ。
周りを見渡す。
まずは窓の外を見た。・・・知らない街だ。私の故郷ではない。どこかの都市に違いない。
机に視線を移す。燭台に小さな炎が揺らめいている。暗がりに、炎が・・・
直後、ひどい頭痛に襲われた。
直接意識を揺さぶられるような感覚に襲われ、抵抗しようにもどういうわけか体に力が入らない。まるで頭の中にある記憶の扉をこじ開けられているような気がして、ひどく恐ろしかった。
そして次の瞬間、忘れていた記憶が濁流のように頭の中に流れ込んできた。
アストレウス祭、教会、見下ろす像、黒い仮面、炎、混沌、悪夢、死・・・そう、死だ! 私は、死んだのだ。
最初、その絶叫が自分の口から出ているとは気が付かなかった。
ベッドから転がり落ち、ひどい頭痛と絶望に身をのたうった。全て失ったのだ! ああ! 全て!
足元にぽっかりと穴が開き、真っ暗な暗闇に落ちていくような気がした。地に足がついていても、まるでその心地がしない。
誰かの手が私の事を掴んだ!
私は手足を振り回して抵抗したが、私を掴んでいる何者かは四本の腕で私をしっかりと抑え込んでしまった。
「落ち着いて! 大丈夫だ!」
意識がはっきりし始め、落ち着いてくると、視界に三人の人間がいることに気が付いた。
一人は老父、一人はふくよかな女性、一人は少年だ。私を掴んでいたのは彼らだったのだ。
見たところ、家族らしかった。ここは彼らの家なのだ。
「誰・・・?」
私が口を利けると知ると、彼らは心底驚いたという風に顔を見合わせた。
老父は心底嬉しそうに笑い、私を抱きしめた。
「ああ、神よ。感謝します。私の新しい家族です」
女性は涙を流している。喜んでいるのだろうか?
「ああ、いけない。自己紹介がまだだったね」老父は私を放すと、涙を湛えた笑顔で私に話した。「私はゴールドン・ツェペリン。君の新しい家族だ」
ゴールドンと名乗る男は、恥ずかしげもなくそう言った。その後、ふくよかな夫人をエミリー、少年をルークだと紹介し、手を取って私を立たせた。でも、私は立つことができなかった。足の感覚がまるでなく、足に力が入らないのだ。
その様子を見て、ゴールドンはさも哀れという風にため息をついた。「ああ、当然だ。初めて立つのだから」
彼らは私をベッドに腰かけさせ、カーテンを開けて部屋に陽の光を取り込んだ。
「なにか、思い出せますか? どこから来たんですか?」私に話しかけてきたのはルークと呼ばれた少年だった。
質問の意図がわからず沈黙していると、ルークが言葉を続けた。
「あなたは教会で倒れているところを発見されたんです。それからずっと眠っていて・・・」
「教会・・・?」私は困惑しながら首を傾げた。「教会って、聖ユリエル教会?」
私の村にある教会の名を出すと、彼らは不思議そうな顔をした。
「いや、君が居たのは聖サルバドール教会だよ。ここ、アイゼンの教会だ」ゴールドンと名乗る彼がそう言った。
「アイゼン・・・」アイゼンは私の村からずっと離れた都市だ。馬でも三日はかかる、遠い場所だ。なぜ私がそんなところに?
私が何も言わず、ただ困惑しているのを見ると、彼らは憐憫を含んだ視線を向けてきた。
「ああ、まだきっと意識がはっきりしないんだ。少し休みなさい」ゴールドンがそう言うのに続いて、エミリーが話した。
「きっとお腹が空いているでしょう。半年も眠ったままだったんですもの! 今シチューをつくってあげるわ」
「半年・・・? 半年も眠っていたの!?」
私はあまりに驚き、その場に立ちあがろうとした。しかし、足は言うことを聞かず、そのままへたりこんでしまった。ゴールドンが支えてくれたが、私は焦ってそれを振り払った。
「帰らないと・・・家に・・・」
床を這って扉に向かう私をルークが押さえつけた「ダメですよ! まともに歩けないのに!」
「放してよ!」私は暴れ、ルークの腕にかみついた。驚いた他の二人が私の身体を強く押さえつけるのを最後に、私はまた・・・気を失った。
一つの部屋。簡素で、面白みもない。
置かれているのは机、クローゼット、そしてベッド。そのベッドに私は寝ていた。
体を起こし、俯く。窓のカーテンは閉められていて、細い斜陽が私の足に 凭れている。この陽は、きっと夕日だ。
意識が朦朧としている。体中が痛い。腕を少し動かすだけで骨が軋み、パキパキと音がする。まるで、随分長い間体を動かしていなかったような感覚だ。
ここはどこだろう? 最初、寝起きだから状況がつかめていないのだと思った。でも、違う。意識がはっきり戻っても、私が今置かれている状況は謎のままだ。
最後に何をしていただろうか? 記憶を辿る。でも、ダメだった。靄がかかったようになにも思い出せないのだ。
周りを見渡す。
まずは窓の外を見た。・・・知らない街だ。私の故郷ではない。どこかの都市に違いない。
机に視線を移す。燭台に小さな炎が揺らめいている。暗がりに、炎が・・・
直後、ひどい頭痛に襲われた。
直接意識を揺さぶられるような感覚に襲われ、抵抗しようにもどういうわけか体に力が入らない。まるで頭の中にある記憶の扉をこじ開けられているような気がして、ひどく恐ろしかった。
そして次の瞬間、忘れていた記憶が濁流のように頭の中に流れ込んできた。
アストレウス祭、教会、見下ろす像、黒い仮面、炎、混沌、悪夢、死・・・そう、死だ! 私は、死んだのだ。
最初、その絶叫が自分の口から出ているとは気が付かなかった。
ベッドから転がり落ち、ひどい頭痛と絶望に身をのたうった。全て失ったのだ! ああ! 全て!
足元にぽっかりと穴が開き、真っ暗な暗闇に落ちていくような気がした。地に足がついていても、まるでその心地がしない。
誰かの手が私の事を掴んだ!
私は手足を振り回して抵抗したが、私を掴んでいる何者かは四本の腕で私をしっかりと抑え込んでしまった。
「落ち着いて! 大丈夫だ!」
意識がはっきりし始め、落ち着いてくると、視界に三人の人間がいることに気が付いた。
一人は老父、一人はふくよかな女性、一人は少年だ。私を掴んでいたのは彼らだったのだ。
見たところ、家族らしかった。ここは彼らの家なのだ。
「誰・・・?」
私が口を利けると知ると、彼らは心底驚いたという風に顔を見合わせた。
老父は心底嬉しそうに笑い、私を抱きしめた。
「ああ、神よ。感謝します。私の新しい家族です」
女性は涙を流している。喜んでいるのだろうか?
「ああ、いけない。自己紹介がまだだったね」老父は私を放すと、涙を湛えた笑顔で私に話した。「私はゴールドン・ツェペリン。君の新しい家族だ」
ゴールドンと名乗る男は、恥ずかしげもなくそう言った。その後、ふくよかな夫人をエミリー、少年をルークだと紹介し、手を取って私を立たせた。でも、私は立つことができなかった。足の感覚がまるでなく、足に力が入らないのだ。
その様子を見て、ゴールドンはさも哀れという風にため息をついた。「ああ、当然だ。初めて立つのだから」
彼らは私をベッドに腰かけさせ、カーテンを開けて部屋に陽の光を取り込んだ。
「なにか、思い出せますか? どこから来たんですか?」私に話しかけてきたのはルークと呼ばれた少年だった。
質問の意図がわからず沈黙していると、ルークが言葉を続けた。
「あなたは教会で倒れているところを発見されたんです。それからずっと眠っていて・・・」
「教会・・・?」私は困惑しながら首を傾げた。「教会って、聖ユリエル教会?」
私の村にある教会の名を出すと、彼らは不思議そうな顔をした。
「いや、君が居たのは聖サルバドール教会だよ。ここ、アイゼンの教会だ」ゴールドンと名乗る彼がそう言った。
「アイゼン・・・」アイゼンは私の村からずっと離れた都市だ。馬でも三日はかかる、遠い場所だ。なぜ私がそんなところに?
私が何も言わず、ただ困惑しているのを見ると、彼らは憐憫を含んだ視線を向けてきた。
「ああ、まだきっと意識がはっきりしないんだ。少し休みなさい」ゴールドンがそう言うのに続いて、エミリーが話した。
「きっとお腹が空いているでしょう。半年も眠ったままだったんですもの! 今シチューをつくってあげるわ」
「半年・・・? 半年も眠っていたの!?」
私はあまりに驚き、その場に立ちあがろうとした。しかし、足は言うことを聞かず、そのままへたりこんでしまった。ゴールドンが支えてくれたが、私は焦ってそれを振り払った。
「帰らないと・・・家に・・・」
床を這って扉に向かう私をルークが押さえつけた「ダメですよ! まともに歩けないのに!」
「放してよ!」私は暴れ、ルークの腕にかみついた。驚いた他の二人が私の身体を強く押さえつけるのを最後に、私はまた・・・気を失った。
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