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婚約破棄編
白豚、異世界に気づく
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俺が別人、いいや白豚の中で覚醒した翌朝。
本当に、誰もお世話しに来ないのね!
いいよ、この部屋は中で居間と寝室と洗面所と風呂とトイレがあるから、一人で朝起きて冷たい水で顔を洗えたから、別にいいけどね。
天蓋付きのベッドに慄きながら重い体を横たえて、熟睡なんてできずに浅い眠りを繰り返し、朝起きてベッドから出ようとしたらデカい腹がつかえて身動きできないってね。
「くっ……痩せたい」
ポンと手で腹を叩くと太鼓のようないい音が豪奢な部屋に響く。
寝返りうつのも大変だし、無呼吸症候群になるんじゃないかと思うと怖いし、寝不足だよ。
しかも、貴族の朝ってもっとこう、優雅なイメージだったんだけど……。
メイドが顔洗い用の温かい水を持ってきて優しく洗い、フワフワタオルで拭いてくれるとか。
ピシッとお仕着せを着た執事がアイロンをかけた新聞を片手に、目覚めの紅茶を淹れてくれるとか。
俺、映画で見た記憶があるんだけど……誰も来やしねぇよっ。
まあ、ボロが出るよりはいいけどね。
ブツブツ文句を言いながら着替える。
昨日の夜はゴテゴテした服を脱ぐだけで一苦労だったから下着姿で寝てしまったが、まさかそのまま屋敷中を歩くわけにはいかないので服を着ないとね。
着ないとね……着ないと……おいっ!
コンコン。
「おはよーございます。って、旦那様、何してんです?」
見ればわかるだろう? 着替えてんだよっ。
「プッ」
笑ってないで手伝えって。ぶ厚い肉に覆われた肩で太っい腕が届かなくて袖が……袖が通せない。
「はいはい。お手伝いしますよ」
ディーンに笑われながら、その後ズボンを履かせてもらい、靴下まで履かせてもらった。
情けないっ。
なんとかディーンに手伝ってもらって着替えを済ませると、昨日会ったメイドのマリーがワゴンに朝食を乗せて部屋に入ってきた。
テーブルに朝食? と思う量の料理が並べられる。
マジか……。
現実から目を背けるように、俺はディーンに気になることを聞いた。
「そういえば、お湯は沸かすのか?」
貴族の中にはクラシカルな生活様式を好む、もの好きもいるのだろう。
でも、俺はオール電化ぐらいの快適生活を望む。
つまり、蛇口を捻ればお湯が出る生活がしたい。
「……何を言ってます? 日常の記憶も飛んでしまったのですか?」
そんな可哀想な子を見る目で見るな。マリーもカトラリーを並べる手を止めるな。
どうやら、蛇口を捻ればお湯が出るらしい……ちゃんと魔道具があるから。
「ま、魔道具?」
「ええ。魔石の補充も抜かりなくしておりますので、不便はないと思いますけど。故障かな?」
ディーンは不思議な言葉を羅列しながら洗面所へと行き、濡れた手をハンカチで拭きながら戻ってきた。
「問題なく使えましたけど? もしかして本当に魔道具を覚えてないとか?」
「……」
いや、違う。
そもそも、魔道具なんてモノは俺の生きていた世界にはないし、魔石なんて不思議鉱物は存在しない。
可能性は……もしかして……この世界って、ただの外国の貴族社会じゃなくて……。
い……異世界?
俺は「うがーっ」と叫び両手で頭を抱え込んだ。
なに? 異世界って? なに? 魔道具って?
俺ってば、どうなってんの? 会社の外階段から落とされたと思ったら白豚の中に入っていて、伯爵様だっていうし……。
しかも、この世界に家電とかの代わりに魔道具があって、エネルギーの代わりに魔石があるの?
恐ろしい現実にブルブルと震えていると、マリーが感情のこもらない平坦な声で無情に告げる。
「旦那様、朝食の準備ができました」
あのさ、そんな場合じゃないでしょ?
「まあまあ、旦那様。記憶にないことはあとで教えますから、食べてください。片付かないんで」
「おい」
お前ら、今までの俺がどクズ主人だったからって、扱いが雑じゃないか?
いいけど、食うけど、腹が減ってるけど。
俺は唇を尖らして椅子に座った。
「朝食?」
朝の時間は貴重だったので、ついつい手軽なもので済ませがちだった朝メシだが、こんなフルコースで食うものだったっけ?
「旦那様は毎日、完食されていました」
「……だから、太るんだよ」
俺はボソッと悪態を吐いた。自分自身に。
「あー、今日から俺の朝食は、コレとコレとコレ。あとは紅茶でいいよ」
サラダとパンとベーコンエッグかな? あとはコーヒーが欲しいが紅茶しかなさそう。
パンも籠に山盛りじゃなくて、この丸パンを一つか二つで十分です。
「……いいのですか?」
デブ、それで足りるのか? と眼で問うてくるな!
俺は決意を目に込めて、重々しく頷いた。
「あ、でも急にメシを残すようになったら疑われるか……。残りを誰か食べてくれないかな?」
正直、朝から分厚いステーキとか蒸かしたイモの山とか無理なんだが……。
「……そ、それでしたら、私たちで頂きます」
「へ?」
顔を少し赤らめたマリーがハイハイと勢いよく右手を挙げて主張する。
「いいけど……」
「パンとああ、できましたら少しサラダを分けてください。果物と……このスープもよろしいですか?」
「……いいけど」
そんなに涙目になるほど、食べ物が欲しいのか?
確かに下働きの連中は、みんな痩せていたけどね。もししかして十分に食べさせてもらってないのかな?
「あっ、もしかしてシャーロットちゃんの分か」
ガタッと椅子から立ち上がって言い放つと、マリーは悔し気に唇を噛みしめた。
本当に、誰もお世話しに来ないのね!
いいよ、この部屋は中で居間と寝室と洗面所と風呂とトイレがあるから、一人で朝起きて冷たい水で顔を洗えたから、別にいいけどね。
天蓋付きのベッドに慄きながら重い体を横たえて、熟睡なんてできずに浅い眠りを繰り返し、朝起きてベッドから出ようとしたらデカい腹がつかえて身動きできないってね。
「くっ……痩せたい」
ポンと手で腹を叩くと太鼓のようないい音が豪奢な部屋に響く。
寝返りうつのも大変だし、無呼吸症候群になるんじゃないかと思うと怖いし、寝不足だよ。
しかも、貴族の朝ってもっとこう、優雅なイメージだったんだけど……。
メイドが顔洗い用の温かい水を持ってきて優しく洗い、フワフワタオルで拭いてくれるとか。
ピシッとお仕着せを着た執事がアイロンをかけた新聞を片手に、目覚めの紅茶を淹れてくれるとか。
俺、映画で見た記憶があるんだけど……誰も来やしねぇよっ。
まあ、ボロが出るよりはいいけどね。
ブツブツ文句を言いながら着替える。
昨日の夜はゴテゴテした服を脱ぐだけで一苦労だったから下着姿で寝てしまったが、まさかそのまま屋敷中を歩くわけにはいかないので服を着ないとね。
着ないとね……着ないと……おいっ!
コンコン。
「おはよーございます。って、旦那様、何してんです?」
見ればわかるだろう? 着替えてんだよっ。
「プッ」
笑ってないで手伝えって。ぶ厚い肉に覆われた肩で太っい腕が届かなくて袖が……袖が通せない。
「はいはい。お手伝いしますよ」
ディーンに笑われながら、その後ズボンを履かせてもらい、靴下まで履かせてもらった。
情けないっ。
なんとかディーンに手伝ってもらって着替えを済ませると、昨日会ったメイドのマリーがワゴンに朝食を乗せて部屋に入ってきた。
テーブルに朝食? と思う量の料理が並べられる。
マジか……。
現実から目を背けるように、俺はディーンに気になることを聞いた。
「そういえば、お湯は沸かすのか?」
貴族の中にはクラシカルな生活様式を好む、もの好きもいるのだろう。
でも、俺はオール電化ぐらいの快適生活を望む。
つまり、蛇口を捻ればお湯が出る生活がしたい。
「……何を言ってます? 日常の記憶も飛んでしまったのですか?」
そんな可哀想な子を見る目で見るな。マリーもカトラリーを並べる手を止めるな。
どうやら、蛇口を捻ればお湯が出るらしい……ちゃんと魔道具があるから。
「ま、魔道具?」
「ええ。魔石の補充も抜かりなくしておりますので、不便はないと思いますけど。故障かな?」
ディーンは不思議な言葉を羅列しながら洗面所へと行き、濡れた手をハンカチで拭きながら戻ってきた。
「問題なく使えましたけど? もしかして本当に魔道具を覚えてないとか?」
「……」
いや、違う。
そもそも、魔道具なんてモノは俺の生きていた世界にはないし、魔石なんて不思議鉱物は存在しない。
可能性は……もしかして……この世界って、ただの外国の貴族社会じゃなくて……。
い……異世界?
俺は「うがーっ」と叫び両手で頭を抱え込んだ。
なに? 異世界って? なに? 魔道具って?
俺ってば、どうなってんの? 会社の外階段から落とされたと思ったら白豚の中に入っていて、伯爵様だっていうし……。
しかも、この世界に家電とかの代わりに魔道具があって、エネルギーの代わりに魔石があるの?
恐ろしい現実にブルブルと震えていると、マリーが感情のこもらない平坦な声で無情に告げる。
「旦那様、朝食の準備ができました」
あのさ、そんな場合じゃないでしょ?
「まあまあ、旦那様。記憶にないことはあとで教えますから、食べてください。片付かないんで」
「おい」
お前ら、今までの俺がどクズ主人だったからって、扱いが雑じゃないか?
いいけど、食うけど、腹が減ってるけど。
俺は唇を尖らして椅子に座った。
「朝食?」
朝の時間は貴重だったので、ついつい手軽なもので済ませがちだった朝メシだが、こんなフルコースで食うものだったっけ?
「旦那様は毎日、完食されていました」
「……だから、太るんだよ」
俺はボソッと悪態を吐いた。自分自身に。
「あー、今日から俺の朝食は、コレとコレとコレ。あとは紅茶でいいよ」
サラダとパンとベーコンエッグかな? あとはコーヒーが欲しいが紅茶しかなさそう。
パンも籠に山盛りじゃなくて、この丸パンを一つか二つで十分です。
「……いいのですか?」
デブ、それで足りるのか? と眼で問うてくるな!
俺は決意を目に込めて、重々しく頷いた。
「あ、でも急にメシを残すようになったら疑われるか……。残りを誰か食べてくれないかな?」
正直、朝から分厚いステーキとか蒸かしたイモの山とか無理なんだが……。
「……そ、それでしたら、私たちで頂きます」
「へ?」
顔を少し赤らめたマリーがハイハイと勢いよく右手を挙げて主張する。
「いいけど……」
「パンとああ、できましたら少しサラダを分けてください。果物と……このスープもよろしいですか?」
「……いいけど」
そんなに涙目になるほど、食べ物が欲しいのか?
確かに下働きの連中は、みんな痩せていたけどね。もししかして十分に食べさせてもらってないのかな?
「あっ、もしかしてシャーロットちゃんの分か」
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