転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~

緒沢利乃

文字の大きさ
59 / 234
オールポート家編

父親、かわいいに悩む

しおりを挟む
ニコニコ顔で登場したラスキン博士と固い握手を交わしたあと、ルンルンと彼に案内されたのは増設された小屋のひとつ。

「げえっ」

そ、そこには……沢山のカイコたち。あの、前世の蚕とは大きさが桁違いのカイコたち。白くてムニュムニュしていて、博士が非常食として改良しようとしていた……カイコたちが、美味そうにクワの葉をムシャムシャしていた。

「ふ……増えましたね」

「ええ。見つけ出したカイコもいますが、増やしまた」

デデーンと胸を張ってドヤ顔するラスキン博士へお礼を言ったよ、一応ね。
後ろで引き攣った顔のディーンと「ひえええっ」と悲鳴をあげたマリーは想定内だけど、意外だったのは鉄仮面を崩すことのなかったベンジャミンではなく……。

「かわいいーっ! とってもかわいいですわ、お父様」

どこかのゆるキャラを見つけた女子高校生のテンションになってしまったシャーロットちゃんだ。
かわいい? コレ、かわいいか?

俺の頭の中をクエスチョンが埋め尽くすなか、ラスキン博士とシャーロットちゃんはかわいいカイコの話に夢中だ。
うそだろ?

俺は聞いていたくない二人の会話を早々に終わらせて、もう一つの小屋を覗くとムワンとした蒸気が顔を撫でていく。

「ここで繭から糸を。最初は上手く繭糸が解けませんでしたが、漬ける時間、水の温度、力加減と試行錯誤しました。いやぁ、楽しかった」

俺だったらうんざりとしてしまいそうな工程を笑顔で語るラスキン博士は、まさに好奇心の固まり。だからこそ「博士」と呼ばれるほどの人物となったのだろう。うん、脱帽です。
しかも、糸を紡ぐための道具などが既に作られている。

「器用ですね」

ラスキン博士ったら、大工仕事もお得意ですか?
俺の褒め殺しを浴びたラスキン博士は、スイーッと顔を背けて曖昧な受け答えを繰り返す。
はは~ん、この道具や小屋を建てたのは、ラスキン博士とは別の人間が作ったな。そう……例えばここ西側領地に住む民たちが。う~む、直接会っていろいろと話がしたいが……俺には会えないんだろうなぁ。

「彼らは税も払っていない、流民扱いの不法滞在者ですからな。さすがに領主様に堂々とは会えないでしょう」

「でも、ここの発展には協力してもらわないといけないんだ。むしろここで働いてちゃんと税金を払ってほしい」

大切な領民であることに違いはないと思っている。全ては領主として領地経営能力に乏しかったオールポート伯爵家の責任だ。

ラスキン博士は、青臭い言葉を吐く俺のことを優しい目で見てくれている。少しは白豚の評価は彼の中で上がったのかな?

「かなりオールポート領から民が出て行ったと聞きました。セシル様の元、領民たちが戻ってくるといいですな」

「そうですね。そう願いたいです」

ま、戻ってきても同じ職に就けるとは限らんがな。
特に、オールポート伯爵家に仕えていた奴らは。














「よろしいのですか? 使用人たちの復職を拒否しても?」

「ああ」

これはまだ、王都へ行く前、白豚とベンジャミンのやり取りだ。

オールポート伯爵領に巣食っていた奴らを追い出し、その噂が周辺に出回り、ぽつぽつと元領民たちが戻ってきていた。

元々、東側の鉱山地域と南側の農作地域からは余所の領地へ出ていく者が少なく、ここを出て行ったのはほとんどが領都の住民と屋敷の使用人たちだった。

戻ってきた領民たちは新しく家や部屋を借りたり、勤めていた職場に復帰したり、仕事探しに奔走したりしている。
当然、伯爵家の元使用人たちも復職を望んで、オールポート伯爵屋敷を訪れていた。

その対応をしていたベンジャミンからの「どうしますか?」とのお伺いに「ノー」と拒否ったのは俺だよ。
俺としては当たり前だったのだが、ベンジャミンの口がへの字に曲がっているのを見て、ため息を吐いてみせた。

「あのなぁ、主人たちが間違っている方向に爆走しているのを止めることもしないで、自己保身のために逃げ出した使用人なんか雇えないだろう?」

セシル君が奥さんに嵌められたとき、ベンジャミンは反対して地下牢に入れられていた。その後、当時執事長だった父親を蹴落とし、自らが執事長となりオールポート家を守ってきた。

セシル君が自暴自棄になっていて、下品ママが子どもを連れて乗り込んできたとき、陰険悪党なコーディが屋敷でのさばっていたとき、反発して下働きに落とされたのはお前だろう? ベンジャミン。

こんなクソ伯爵家なんて辞めてどこかへ出ていけばよかったのに。下働きとなってコーディたちにバカにされてもここに残って、正当な跡継ぎであるシャーロットちゃんを守っていただろう?

本来、使用人ってそういうものだ。主人を諌め、間違った使用人を正し、家を守る。そこに自分を守ることまで考えたら忠義は尽くせない。

ここを出て行った奴らは、また似たことが起きればまた出ていく。
そのとき、この家の主人はシャーロットちゃんかもしれない。

そんなこと、許せるか? シャーロットちゃんが女伯爵として踏ん張っているときに、沈む船から逃げ出すんだぞ?
まだ、頑張れば沈まないで航行できるかもしれないのに、奴らが逃げ出したことで船は沈むんだ。

俺は動かしていた手を止めて、じっとベンジャミンを真っ直ぐに見つめた。

「俺はなベンジャミン。シャーロットちゃんの近くには、ベンジャミンやライラみたいな忠義者が必要だと思っている。だから、ここに残ってくれた者たちに報いたい。それなのに、出て行った奴らを迎え入れたら、お前たちの忠義の価値が揺らぐ。俺は……お前たちがいいんだ」

「……はい。わかりました」

頼むぞ、ベンジャミン。白豚には、まだまだお前たちの支えが必要なんだからな!
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

森で助けた記憶喪失の青年は、実は敵国の王子様だった!? 身分に引き裂かれた運命の番が、王宮の陰謀を乗り越え再会するまで

水凪しおん
BL
記憶を失った王子×森の奥で暮らす薬師。 身分違いの二人が織りなす、切なくも温かい再会と愛の物語。 人里離れた深い森の奥、ひっそりと暮らす薬師のフィンは、ある嵐の夜、傷つき倒れていた赤髪の青年を助ける。 記憶を失っていた彼に「アッシュ」と名付け、共に暮らすうちに、二人は互いになくてはならない存在となり、心を通わせていく。 しかし、幸せな日々は突如として終わりを告げた。 彼は隣国ヴァレンティスの第一王子、アシュレイだったのだ。 記憶を取り戻し、王宮へと連れ戻されるアッシュ。残されたフィン。 身分という巨大な壁と、王宮に渦巻く陰謀が二人を引き裂く。 それでも、運命の番(つがい)の魂は、呼び合うことをやめなかった――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

処理中です...