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領地経営編②
領主、天才針子の過去を知る
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とにかく落ち着いて話をしましょうと、店内の奥に入れてもらうことにした。
イライアス様が監督しライオネルのこだわりが詰まった店はとてもセンスがよく、キレイとかわいいが溢れた商品で埋められている。
むむっ、白豚にはちと敷居が高い店だな。
案内された接客室……つまり高貴な方専用の個室は、白くて曲線を強調した調度品に囲まれており、白とピンクのカーテンには金糸で花の刺繍が施され、毛足の長い絨緞はベージュと白の市松模様。
かあーっ、落ち着かねぇ。ケツがもぞもぞする。
「すみません、セシル様。ライオネルさんはとっても人見知りで内気な方ですので、私が代わりにご説明します」
ケイシーさんがキリリッとした表情で、こちらを見据える。
こ、怖いんだけどおおおおおぉぉぉっ。
この店の店主であるライオネルは、高い背を屈めてお茶の支度をしているので、ディーンが慌ててヘルプに行った。
俺の隣にシャーロットちゃんがちょこんと猫足ソファーに座る。大丈夫? 白豚と天使が座って華奢な猫足が折れたりしない?
「コホン。改めてこちらが王家御用達デザイナーイライアス様の秘蔵っ子。天才針子のライオネル氏です」
ん? なんかすごい紹介だったな。手でも叩いておくか? パチパチパチ。
釣られてシャーロットちゃんも控え目にパチパチパチ。
「そっ……そんな、て、てててて、天才だ、なんて……そんな……」
あー、会話が進まない。どうしてこの人はこんなにビビッてるんだ? あれか貴族とか白豚とか関係なしで極度の人見知りなのか?
そんなに人とコミュニケーション取れなくて接客は大丈夫?
俺の不安な心情が顔に出ていたのか、ライオネルはしょんぼりと眉を下げて泣きそうな顔になる。
「セシル様。ライオネル氏の腕はたしかなのです! どうか、見捨てないであげてください」
「ケイシーさんがそこまで惚れ込んでいるのに邪険にはしないよ。シャーロットちゃんも彼が作った服が大好きだしね」
俺の言葉に横に座るシャーロットちゃんが、頭がもげそうなほどの勢いで頷いている。
「あ……。そ、そのワンピース。とっても……お、お似合いです。シャ……シャーロット様」
ほわっと頬を紅色に染めて、うちの天使を褒める挙動不審な天才針子ライオネル。シャーロットちゃんの可憐さがわかるのは素晴らしい慧眼だが、疚しい気持ちがあったらギルティだ!
「あ……ありがとう、ごさいます」
消えそうな声でお礼を言うシャーロットちゃん。あ、うちの子も人見知りだったわ。主にセシル君のせいで。
「セシル様。ライオネル氏がこのような恰好をしているのにも事情があるのです!」
「は? このようなって、ええ? 好きで着ているんじゃないの? このドレス」
俺がなんちゃらの国のなんちゃらみたいなエプロンドレスを指差すと、ライオネルは顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。
「だから、事情があるんですっ」
ギロッとケイシーさんに睨まれて、俺はすうーっと指をおろした。
あれ? 俺って白豚だけど伯爵様だよね? 俺って偉いんだよね?
ケイシーさんの話はちょっと重かった。
ライオネルはただの女装っ子ではなかった。
この世界、俺も知ったときはびっくりしたけど、女性の数が圧倒的に少ない……あれ? 俺の周りには結構いるけど?
「そうですね。女性は大事にされますから教育もしっかりと受けられます。そのため私のように文官試験を受け働くことができたり、貴族のお屋敷で上級使用人として雇用されることも多いです。正直……リタやヘレンのような子が珍しいのです」
どうも、少ないから田舎の農村などでは、女の子は囲われて外には出れないことが多いそうです。そりゃ、いくら男でも神に祈れば身ごもれるとは言ってもねぇ、女性がいない地域の出生率は少ないみたいだし。
だから、女性が多そうな職場、つまり針子の職場にも男性は多く、ライオネルも実家が古着屋だったからか幼いときから針を持ち、チクチクと縫物をしていた。
そして、その技能がとび抜けて凄かった……らしい。
驚いた母たちは、有名なサロンにライオネルを押し込んで輝かしい未来を夢見ていたが……彼には致命的な欠点があった。
「ど、どうしても……ひ、人と話す……に、苦手……で……」
ああ、もう! 声が小さいよっ! ただ話しているだけなのに、号泣したあとの掠れ声みたいでいたたまれない気持ちになるぜ。
話すのが苦手でオドオドしていた背ばかりが高い少年は、サロンでの接客を禁止され日々繕いものをするだけ。どんなに憧れてもドレスはおろか飾りのレースや刺繍さえもさせてはもらえなかった。
このまま、職人たちの繕いものだけをする毎日で終わるのかと絶望していたころ、サロンに立ち寄ったイライアス様によって引き抜かれる。
「そしてイライアス様はライオネル氏にドレスをお召しになることを勧められたのです!」
「え……なんで?」
「それは……女性相手の苦手意識が少しでも軽減されるようにとのイライアス様のお考えです!」
嘘だな。
あの人、絶対に面白がってライオネルにドレスを着せたに違いない。
しかし、俺は口を噤んだ。バカ正直にドレスを着て必死に苦手な接客に挑んでいるライオネルに敬意を表して。
別に、俺も「おもしれー」とか思ってないよ。ホントだよ?
イライアス様が監督しライオネルのこだわりが詰まった店はとてもセンスがよく、キレイとかわいいが溢れた商品で埋められている。
むむっ、白豚にはちと敷居が高い店だな。
案内された接客室……つまり高貴な方専用の個室は、白くて曲線を強調した調度品に囲まれており、白とピンクのカーテンには金糸で花の刺繍が施され、毛足の長い絨緞はベージュと白の市松模様。
かあーっ、落ち着かねぇ。ケツがもぞもぞする。
「すみません、セシル様。ライオネルさんはとっても人見知りで内気な方ですので、私が代わりにご説明します」
ケイシーさんがキリリッとした表情で、こちらを見据える。
こ、怖いんだけどおおおおおぉぉぉっ。
この店の店主であるライオネルは、高い背を屈めてお茶の支度をしているので、ディーンが慌ててヘルプに行った。
俺の隣にシャーロットちゃんがちょこんと猫足ソファーに座る。大丈夫? 白豚と天使が座って華奢な猫足が折れたりしない?
「コホン。改めてこちらが王家御用達デザイナーイライアス様の秘蔵っ子。天才針子のライオネル氏です」
ん? なんかすごい紹介だったな。手でも叩いておくか? パチパチパチ。
釣られてシャーロットちゃんも控え目にパチパチパチ。
「そっ……そんな、て、てててて、天才だ、なんて……そんな……」
あー、会話が進まない。どうしてこの人はこんなにビビッてるんだ? あれか貴族とか白豚とか関係なしで極度の人見知りなのか?
そんなに人とコミュニケーション取れなくて接客は大丈夫?
俺の不安な心情が顔に出ていたのか、ライオネルはしょんぼりと眉を下げて泣きそうな顔になる。
「セシル様。ライオネル氏の腕はたしかなのです! どうか、見捨てないであげてください」
「ケイシーさんがそこまで惚れ込んでいるのに邪険にはしないよ。シャーロットちゃんも彼が作った服が大好きだしね」
俺の言葉に横に座るシャーロットちゃんが、頭がもげそうなほどの勢いで頷いている。
「あ……。そ、そのワンピース。とっても……お、お似合いです。シャ……シャーロット様」
ほわっと頬を紅色に染めて、うちの天使を褒める挙動不審な天才針子ライオネル。シャーロットちゃんの可憐さがわかるのは素晴らしい慧眼だが、疚しい気持ちがあったらギルティだ!
「あ……ありがとう、ごさいます」
消えそうな声でお礼を言うシャーロットちゃん。あ、うちの子も人見知りだったわ。主にセシル君のせいで。
「セシル様。ライオネル氏がこのような恰好をしているのにも事情があるのです!」
「は? このようなって、ええ? 好きで着ているんじゃないの? このドレス」
俺がなんちゃらの国のなんちゃらみたいなエプロンドレスを指差すと、ライオネルは顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。
「だから、事情があるんですっ」
ギロッとケイシーさんに睨まれて、俺はすうーっと指をおろした。
あれ? 俺って白豚だけど伯爵様だよね? 俺って偉いんだよね?
ケイシーさんの話はちょっと重かった。
ライオネルはただの女装っ子ではなかった。
この世界、俺も知ったときはびっくりしたけど、女性の数が圧倒的に少ない……あれ? 俺の周りには結構いるけど?
「そうですね。女性は大事にされますから教育もしっかりと受けられます。そのため私のように文官試験を受け働くことができたり、貴族のお屋敷で上級使用人として雇用されることも多いです。正直……リタやヘレンのような子が珍しいのです」
どうも、少ないから田舎の農村などでは、女の子は囲われて外には出れないことが多いそうです。そりゃ、いくら男でも神に祈れば身ごもれるとは言ってもねぇ、女性がいない地域の出生率は少ないみたいだし。
だから、女性が多そうな職場、つまり針子の職場にも男性は多く、ライオネルも実家が古着屋だったからか幼いときから針を持ち、チクチクと縫物をしていた。
そして、その技能がとび抜けて凄かった……らしい。
驚いた母たちは、有名なサロンにライオネルを押し込んで輝かしい未来を夢見ていたが……彼には致命的な欠点があった。
「ど、どうしても……ひ、人と話す……に、苦手……で……」
ああ、もう! 声が小さいよっ! ただ話しているだけなのに、号泣したあとの掠れ声みたいでいたたまれない気持ちになるぜ。
話すのが苦手でオドオドしていた背ばかりが高い少年は、サロンでの接客を禁止され日々繕いものをするだけ。どんなに憧れてもドレスはおろか飾りのレースや刺繍さえもさせてはもらえなかった。
このまま、職人たちの繕いものだけをする毎日で終わるのかと絶望していたころ、サロンに立ち寄ったイライアス様によって引き抜かれる。
「そしてイライアス様はライオネル氏にドレスをお召しになることを勧められたのです!」
「え……なんで?」
「それは……女性相手の苦手意識が少しでも軽減されるようにとのイライアス様のお考えです!」
嘘だな。
あの人、絶対に面白がってライオネルにドレスを着せたに違いない。
しかし、俺は口を噤んだ。バカ正直にドレスを着て必死に苦手な接客に挑んでいるライオネルに敬意を表して。
別に、俺も「おもしれー」とか思ってないよ。ホントだよ?
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