星降る庭で、きみを見た

夜灯 狐火

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第九章 語られるは、楔の呪い

80 答え合わせの時間

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 病室の窓はすでに白み始めていた。
 淡い朝の光が、長く眠っていた部屋の空気をそっと暖めていく。アクタビの診療所は、相変わらず彼女らしい空気が漂っていた。

 机の上には、前夜のまま置かれた茶のカップ。
 その傍らには、古びた紙片――ある時代の神事の写しが無造作に広げられている。

「……目ぇ、覚めてたなら、声くらいかけてくれてもよかったのに」

 アクタビがそう言って振り返ったとき、ミナトはすでに椅子に腰掛けていた。
 その姿勢は穏やかで、手にはまだ湯気の立つ茶を大切そうに持っている。

「かける必要があるか、考えていた」

「考えすぎ。……ま、あんたらしいけどさ」

 ⸻

 アクタビは片手で髪をかきあげ、紙片を手に取った。
 それは、古の祭儀の記録。学術的にも詳細は謎に包まれた、ある神事の写しだ。

「あの星縫――“儀式の最後に姿を消した存在”がいたって、記されてる」

「……知っている」

「記録には、“中心を担っていた者が唐突に消え、儀式は途中で崩壊した”って。
 ……でもね、アタシにはどうしても釈然としないんだよ。
 あの場に居合わせた人間が、誰ひとり口を開かなかった。
 全員、生き残ってるはずなのにね」

 ミナトは茶を口に運び、静かに目を伏せた。

「……俺の中には、空白がある」

「ふうん?覚えてない、のか。……それとも、“思い出したくない”のか?」

 茶の表面が、ほんのわずかに揺れた。
 そのわずかな動きに、アクタビは息を呑む。

「……どちらかを、選ばねばならないか?」

「アタシは“友達”として訊いてるんだよ、スメラギ。
 ……神獣のいう花嫁が“お前”だったのかどうかを」

 ミナトは返事をしない。ただ一口、茶を飲み干す。

 その沈黙が、いっそう重く部屋に響いた。

「……まぁ、いっか。答えは、いつか出るでしょ。
 自分の中で、ちゃんと認めたときにでも」

 そしてそのとき――

 診療所の扉が静かに叩かれた。
 ミナトがゆっくりと目を伏せ、唇を引き締める。

「おや……思ったより早いじゃないか」

 アクタビは立ち上がり、茶碗を片付けながら言った。

「さあ、幕が上がるよ。物語の続き――答え合わせの時間だ」
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