仮面少女LIZU

月影 光(つきかげひかる)

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第3話:灰の弓使いと約束の灯

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森が終わった場所に、それはあった。

燃え尽きた街――灰に沈んだ小さな集落の跡地。
砕けた石垣、崩れた屋根、そして焼け焦げた標。
少女はそこに、かすかに灯る火のようなものを見つけた。

それは灯台の残骸の上、ひとつだけ残された燈火だった。
夜空の下、風に揺れながら、それは確かに生きていた。

「まだ……誰かがいるの?」

少女の声が風に溶ける。
仮面の奥で、彼女の目がほのかに揺れた。

歩み寄ると、風の影がひとつ、瓦礫の上に立っていた。
黒いコートを羽織り、顔を覆う灰色のフード。
その者の背には、まるで翼のように、長い弓が斜めに背負われていた。

「……おまえか。火を守っているのは」

少女の問いに、影は何も言わなかった。
代わりに、矢のように鋭い視線が彼女の仮面を見つめる。

「“影の道化”の次は、白いうさぎの仮面か」

声は静かだった。男か女かも曖昧な低音。
そしてその手には――煤にまみれた、折れた矢が握られていた。

「ここはかつて、誓いの街だった。火を絶やさぬ約束の地。
 だがその誓いは破られ、すべては焼かれた」

少女は言葉もなく、その地面を見つめた。
灰の下に、失われた誰かの時間が眠っている気がした。

「……名前は?」

「もう要らない。かつて“リド”と呼ばれていた。それだけだ」

リド――
その名に、少女は仄かな既視感を覚えた。

「あなたも、“鍵”を?」

彼は黙って、自らの足首を示した。
そこには少女と同じような銀の輪――だが、それは砕けていた。
光を失い、まるで約束を裏切った証のように。

「……鍵を失えば、記憶は還らない。おまえは、まだ持っているな」

少女は、手の中の鍵を強く握った。
温もりが、まだそこにあった。

「この灯火を絶やすな。おまえが行くなら、次の扉へ――」

風が強く吹いた。

そして、影は消えていた。
灰の上に残されたのは、一本の矢。
その軸には、赤い糸が巻き付いていた。

――これは、導きか。それとも別れのしるし?

少女は矢を手に取ると、そっと胸元にしまい、もう一度歩き出した。
仮面の奥で、宝石の瞳が静かに揺れる。

風が鳴る。
かつての火と、かつての誓い。
それらが、いまも誰かを待っている気がした。

➤ 第4話:月の花嫁と眠らぬ街 へ続く


 
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