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知らないはずはないと思います(1)
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「ミヤちゃん、ちょっと待っていてくれる?」
「どうしたの? お兄ちゃん」
森に入ろうとしていたミヤちゃんの肩に触れて止める。
あれから俺は、しばらくあの劇場に寝泊まりさせてもらえることになった。家賃がわりに雑用を手伝うという条件で。
食い扶持や風呂代は自己負担になるが、寝床を獲得出来たのは本当にありがたい。
その後、俺がまず1番にした事は“冒険者ギルドの個人情報の変更”だった。
貴族は皆、ギルドに冒険者登録することが義務づけられている。
魔獣や盗賊が出没した際、自分達が国を守るのだと意思表示出来るからである。実際俺も何度か討伐に参加した経験がある。
そしてそんな時、本来の冒険者なら成功報酬が支払われるのだが……貴族の場合、報酬の半分を王家に納めなければならない。その代り、依頼で怪我をした時には治療費やその間の生活費を王家が半分負担して下さるのだ。
しかし貴族でなくなった俺は、怪我をしても王家の援助は受けられない。
だから……登録内容を『王家直属』から『フリー』に変更する必要がある。
変更されたギルドカードを見て、また落ち込みそうになったが……昨日よりは痛みが少なかった。
いい加減、前を向かないとな。
で、何故俺が東の森にいるかというと、同じく冒険者だったミヤちゃんが
“ヒイラギ草を50束採取すること”という依頼を受けたからである。
“討伐経験がある”とぽろっと言ったところ、彼女の姉であるミーシャさんに頼まれ、俺がお供をすることになった。
ヒイラギ草の効用は魔除けだ。このカルティ王国ではこの時期、最も需要の多い草である。
この時期。カルティ王国には決められた風習がある。どの家も、定められた日にはヒイラギ草を玄関につるすように……という風習だ。故にこの時期になると、どの家もヒイラギ草が必要になる。だからこその冒険者依頼だ。
まぁここ東の森の魔獣はそんなに強くないし、俺1人でも倒せる位だから心配はいらないが……念の為だ。
俺はゆっくりと息を吸い込む。そして――。
「!?」
ミヤちゃんが目を丸くして俺を見ている。
そうだろう、俺がいきなり歌い出したんだから。
静かな森の中に聞こえるように、俺は歌う。
誰が言い出したのか、俺の歌声には何かしらの効果があるという。女王陛下の前でもよく歌ったっけ。“元気になる”と言って頂けて嬉しかった。
以来、1人での討伐とか重要な任務の前には歌うことにしている。一種のまじないのようなものだ。
笑いのネタにされそうで第3王女とその取り巻き達と一緒の時にはしなかったけど、今はミヤちゃんだ。大丈夫だろう。……変人扱いされるかも知れないが。
「――♪」
歌い終わるとパチパチパチ、と拍手が聞こえた。頬を紅潮させ瞳を潤ませてミヤちゃんが見ている。
「スゴイスゴイ! お兄ちゃん、歌手だったの?」
「? いや……今のはちょっと、俺個人のおまじないだ」
「ふーん……。よく分からないけど、また歌ってね!」
興奮しているのか、ぴょんぴょん跳ねながらスゴイスゴイを繰り返される。褒められるのになれてないから、何だか照れくさい。顔が赤くなりそうなのを誤魔化すように視線を泳がせてしまう。
「“また歌ってね”か……」
そう言えば昔、同じ事を言ってくれた女の子がいた。作り物みたいに綺麗な女の子。歳は……今のミヤちゃん位だったと思う。
けどあれからずいぶん経ったから、今はきっと美少女に育っているに違いない。
「お兄ちゃん、早く行こうよ」
いつの間にかミヤちゃんが、俺よりずっと奥に行っていた。俺は慌てて現実に戻る。
今日はミヤちゃんの護衛なんだぞ、キチンとしろ俺。
「すまない、今行く」
そしてミヤちゃんに追いつくと、2人で東の森に入っていった。
「どうしたの? お兄ちゃん」
森に入ろうとしていたミヤちゃんの肩に触れて止める。
あれから俺は、しばらくあの劇場に寝泊まりさせてもらえることになった。家賃がわりに雑用を手伝うという条件で。
食い扶持や風呂代は自己負担になるが、寝床を獲得出来たのは本当にありがたい。
その後、俺がまず1番にした事は“冒険者ギルドの個人情報の変更”だった。
貴族は皆、ギルドに冒険者登録することが義務づけられている。
魔獣や盗賊が出没した際、自分達が国を守るのだと意思表示出来るからである。実際俺も何度か討伐に参加した経験がある。
そしてそんな時、本来の冒険者なら成功報酬が支払われるのだが……貴族の場合、報酬の半分を王家に納めなければならない。その代り、依頼で怪我をした時には治療費やその間の生活費を王家が半分負担して下さるのだ。
しかし貴族でなくなった俺は、怪我をしても王家の援助は受けられない。
だから……登録内容を『王家直属』から『フリー』に変更する必要がある。
変更されたギルドカードを見て、また落ち込みそうになったが……昨日よりは痛みが少なかった。
いい加減、前を向かないとな。
で、何故俺が東の森にいるかというと、同じく冒険者だったミヤちゃんが
“ヒイラギ草を50束採取すること”という依頼を受けたからである。
“討伐経験がある”とぽろっと言ったところ、彼女の姉であるミーシャさんに頼まれ、俺がお供をすることになった。
ヒイラギ草の効用は魔除けだ。このカルティ王国ではこの時期、最も需要の多い草である。
この時期。カルティ王国には決められた風習がある。どの家も、定められた日にはヒイラギ草を玄関につるすように……という風習だ。故にこの時期になると、どの家もヒイラギ草が必要になる。だからこその冒険者依頼だ。
まぁここ東の森の魔獣はそんなに強くないし、俺1人でも倒せる位だから心配はいらないが……念の為だ。
俺はゆっくりと息を吸い込む。そして――。
「!?」
ミヤちゃんが目を丸くして俺を見ている。
そうだろう、俺がいきなり歌い出したんだから。
静かな森の中に聞こえるように、俺は歌う。
誰が言い出したのか、俺の歌声には何かしらの効果があるという。女王陛下の前でもよく歌ったっけ。“元気になる”と言って頂けて嬉しかった。
以来、1人での討伐とか重要な任務の前には歌うことにしている。一種のまじないのようなものだ。
笑いのネタにされそうで第3王女とその取り巻き達と一緒の時にはしなかったけど、今はミヤちゃんだ。大丈夫だろう。……変人扱いされるかも知れないが。
「――♪」
歌い終わるとパチパチパチ、と拍手が聞こえた。頬を紅潮させ瞳を潤ませてミヤちゃんが見ている。
「スゴイスゴイ! お兄ちゃん、歌手だったの?」
「? いや……今のはちょっと、俺個人のおまじないだ」
「ふーん……。よく分からないけど、また歌ってね!」
興奮しているのか、ぴょんぴょん跳ねながらスゴイスゴイを繰り返される。褒められるのになれてないから、何だか照れくさい。顔が赤くなりそうなのを誤魔化すように視線を泳がせてしまう。
「“また歌ってね”か……」
そう言えば昔、同じ事を言ってくれた女の子がいた。作り物みたいに綺麗な女の子。歳は……今のミヤちゃん位だったと思う。
けどあれからずいぶん経ったから、今はきっと美少女に育っているに違いない。
「お兄ちゃん、早く行こうよ」
いつの間にかミヤちゃんが、俺よりずっと奥に行っていた。俺は慌てて現実に戻る。
今日はミヤちゃんの護衛なんだぞ、キチンとしろ俺。
「すまない、今行く」
そしてミヤちゃんに追いつくと、2人で東の森に入っていった。
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