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罠を仕掛けます
しおりを挟む「レオさん、おはよう」
稽古をつけてもらった翌日。
朝顔を合わせたアイカさんが、普通に挨拶してくれた。
――そう、普通に。
俺はきっと間の抜けた顔をしていたのだろう。アイカさんはいかにもサプライズ成功! って感じに笑った。
「喉、治ったんですね……?」
うわずった声で聞くと、満面の笑顔で頷くアイカさん。
「心配かけてごめんなさい」
「や」
「やった! アイカが治ったぞー!!」
俺が言うより早く声がした。聞きつけた座長や一座の役者さん達や支配人達も駆けつける。自然と、皆でやった! 良かった! の大合唱が沸き起こる。
「良かったですね、アイカさん!」
「ふふっ、ありがとうレオさん。これで明日から歌えるわ」
皆に良かった良かったと祝われながら、微笑む目尻にうっすらと涙がにじんでいる。やっぱり不安だったのだろう。
「でも念の為、今日は病院に行きましょう」
「きっともう、大丈夫だよ!」
ミヤちゃんがグッと親指を立てて太鼓判を押す。前から思ってたんだけどミヤちゃん、その自信は、どこから??
「信じられない……綺麗に治っている……」
「? 先生も、2,3日かかると仰られていたでしょう」
ならば予定通りだったはずだ。なのに何故こんなに驚く?
病院で医師に、アイカさんの喉の炎症を診てもらう。
光魔法で作られた魔道具だ。これは外側から魔力のこもった光を当てることで喉の異常な箇所を黒く示してくれる。
2,3日前なら真っ黒になっていたアイカさんのそこは、完全に光に照らされていた。
「いや、しゃべれる程度にまで回復するのが2,3日だったんだ。その段階だとまだ黒い箇所が残っている筈なんだが……。初めてだよ、これだけ完全に回復するのは。一体どうやって? 民族療法でも使ったのか?」
医師が学ぶ治療法以外の、民族が代々伝承していく療法が民族療法だ。まだ医療や治癒師のいない国や部族が使うと言われている。
眉間にしわを寄せ、頭を抱えている医師にアイカさんは、ニッコリ笑って言った。
「強いて言うなら、歌を聴いたからですね♪」
「……冗談も休み休み言ってくれ」
「アイカさんが回復したのは、良かったけど……」
俺たちは今、お客様達を送り出した後、皆で寄り合って話合っていた。
あの時の一撃が効いているのか、劇場への直接の嫌がらせはない。
ただ目の前でしないだけで、裏でこそこそしている気がする。実際今日まで、来場するお客様が減っているからだ。
「多分、こっちの手が届かないところから妨害しているんだろうな」
「前売りも何回か、キャンセルされましたもんね……」
「レオが絞めてくれたから、舞台や劇場の周りで妨害されないのが救いだぜ。」
「商売あがったりだわ」
そう、このまま客足を減らされ続けたら、この劇場も一座の役者さん達も利益が出ない。
劇薬入りジュースの送り元は、警備兵が調査をしてくれている。が、下手をすれば黒幕が判明しても保釈金を積んで終わり、という結末になってしまい、こちらにはデメリットしかない。分かっているのか一座の人達は、診て分かる位に消沈している。
何とかしたい。そうは思うけれど。
――基本泣き寝入りって、俺の性に合わないんだよな。
一歩間違えると、ここにいる全員に責任が及ぶ事だから、あまり過激な事は出来ないし……。
と、何とか正攻法で彼らを守る方法は……と、考えていると、
「レオン、お前ならどうする?」
いつの間にか支配人が、俺の隣に来ていた。椅子に座っていても俺より小柄な彼は、最初会った時と同じように、俺を見上げている。でもそこにはあの時の頼もしさではない別の何かを期待されているようだった。が、
「……俺は雇われている身です。支配人のよろしいように」
「…………お前ならそう言うと思ったよ」
雇い主兼恩人に対する無難な答えを返した俺に、言葉と裏腹にかくりと肩を落とす。今まで豪儀な彼しか見ていないからビックリだ。が……支配人はそのまま話し続ける。
「俺は、デリスが……今の劇場の支配人がしてきたことを赦してきた。
俺を恨んで今まで妨害してきたとしても許すつもりだった。
今は傷が痛いから気が立っているだけだって、いつか傷が癒えたら分かってくれるってそう思って、奴の事を放置していた。だが……俺は自分に怒っている。俺の自己満足まみれな選択のせいでアイカを危険な目に遭わせちまった事をな」
「支配人……」
ギリリ、と歯を食いしばる彼。普段の温厚で頼もしい様子からは想像出来ない程だ。
「俺は……奴を許せない! 奴にもアイカが味わったのと同じ痛みを与えてやりたい! そして自分のした事を、思い知って欲しい。
……だが、俺には何も思いつかない! だから……情けないが、お前に訊きたいんだ! 教えてくれ、俺は――どうすればいい?」
縋るような目で見つめられ、問いかけられる。俺は逡巡したが、支配人の本気な思いに揺れ動かされ、言っていた。
「……ダメ元でなら、思っている策があります」
その翌日。
「――何だこれは!?」
怒りをそのままに、手に持っていた便せんを床に叩きつけ怒鳴る肥え太った男。
大劇場の支配人に抜擢された男である。
封筒に書かれた宛名の住所は“バレンシア劇場”。便せんには、こんな文章が書かれてあった。
“先日は楽しいサプライズをありがとう、お陰様でこちらは有能な歌い手を得た故に、全て問題なく順調です。
つきましては当劇場にご招待させて頂きたく、チケットを同封いたしました。
当劇場に恥じない、最高の舞台をお見せ致しましょう”
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