悪役令息な俺でもいいんですか?~歌声で人々を癒やします。でも元婚約者(第3王女)はお断りです~

みけの

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閑話~マクガイヤ公爵夫人~

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 レオンが出て行った。
あの忌々しい目の上のたんこぶが、やっといなくなったのだ。周りの空気すら清々しい。
 とにかく面倒な男だった。
目と髪の色が母親似なのは気に入らなかったが、それ以外は父親とは違う、端正な容姿の持ち主だった。最初は平民の中で育ったせいか、立ち居振る舞いに洗練された様子はなかったが、そこも惹きつける要素になっていた。
  懐柔してやろうと最初、愛想よく接してやったらすぐに笑いかけるようになった。だからいける、と思った。なんなら父親のように関係を持っても良いと思った。懐妊出来ない今、それが生き残れる方法だと思ったからだ。

 けれど、幸いにも私は身籠もった。報告したら夫も喜んでくれた。でかしたと私を褒めながら抱きしめてくる彼の腕の中で、ニヤリと笑い確信する。――夫にはあの女の子供など、必要ないのだ、と。
 それが分かってからは使用人を使って嫌がらせをしてやった。屋敷の人間は全て、レオンをいない者のように扱った。彼らも、いいストレス発散の相手だと思ったらしい。お前はこの屋敷で、ゴミ以下の存在だ――そんなふうに思うように、寄ってたかっていじめ抜いた。
 だが――レオンは何一つ、変わらなかった。
もしかすると虚勢を張っていたのかも知れないが、空気扱いされても腹が立つ程傷付いた様子を見せない。
 食事をゴミ同然のものに変えてやった、と報告が来た時も“今日から食事は自分でこしらえるよ。あぁ? 厨房を使われるのが嫌なら、今後は余所でとるようにする。――外聞が悪い? 構わないだろう? 聞かれたら、出してもらった食事の内容を普通に答えるだけだよ。……あぁ、女王陛下にもぽろっと言ってしまうかもね”と言われたという。他の貴族でもまずいが女王陛下はもっとまずい。
 次に、掃除や服の着せ替え等の身の回りの手伝いを拒否している、と報告されて、やっとこれでへこむかもと思いきや。突然、屋敷に孤児院の子供達を招いたのだ。……何をする気だ? と思っていたらレオンは彼らに“掃除の手伝いをお願い出来るかな?”と言った。


 ――一体何のつもりです! 孤児達をこの屋敷に呼ぶなんて貴方は何を考えているのですか!!
私が怒鳴りつけると、彼は飄々とした様子で説明する。
“慰問した時、最近満足に食べていないと聞いたので、部屋の掃除を頼めるかなーと思ったんですよ。ホウホウ鳥10羽で話がつきました。喜んでましたよあの子達。久しぶりにお肉が食べれるーって”
 そう言ってわいわいきゃっきゃと掃除している子供達に、優しい視線を向ける。
“俺もここに来て初めて、当たり前に食事が出来て、当たり前に肉や魚が食べられる幸せを知りました。……職業体験ってことでシスター達も納得してくださいましたし”
“で、ですが……”
と、何とか反論しようとしている私にレオンは、ハッと今気付いたような調子でうろたえた。
“あれ? 私はどうやらまた、ご迷惑をおかけする行為をしてしまったようですね誠に申し訳ありません!”
 ガバッと頭を下げてくるレオンに、私は固まったままだった。


 そうしていると、何人かの使用人が渋り始めた。
――このような真似は続けるべきではない。レオン様は女王陛下のお気に入りで第3王女の婚約者に抜擢されたのだ。十分公爵家に貢献し……ている。平民の血が混じっている位で虐げるのは先々を考えてもまずいのではないか。……それに何より。
――自分達にあの方を傷付ける事が出来るとは思えない。

 当然、全員クビにしてやった。後に残ったのは私に従うしかない者達だけだ。
 そこに、まさかの婚約破棄。
男爵家の令息を虐げるなど、あの男がやる筈がないこと位、分かっている。でも、そのような事はどうでも良いのだ。あの男が公爵家の栄誉に泥を塗った。その事だけが重要なのだから。そして望み通り、あの男を追い出せた。
 このまま全て、思い通りに進むだろう。私の子供が跡継ぎだ。


 そう思い悠々と歩いていたら、夫の書斎から言い争う声が聞こえた。
「何て態度だ! こちらは手を引かせてもらう!」
「構いませんよ。僕だってレオンと共同で興す企画だったのですから、彼がいないのでは意味がありませんので。失礼します」
「な!? ま、待ちなさい!」
 言い捨てて出て来た男は、誰でも知っている男だった。伯爵家の3男でありながら、商才に長けているという事で、商会の娘と縁談が決まっているらしい。
 彼は私に気がつくと、一瞬だけ侮蔑するようなまなざしを向けてから一転、愛想の良い笑みに張り替えて礼をとり、立ち去った。


 「あのガキ、生意気にもこの私に“貴方のお考えはもう古いですよ”なんて言いおって!」
パリンッと音がした。夫がどかっと椅子に座り、組んだ足をイライラと揺すっている。足下でティーカップが割れて、液体が絨毯を濡らしていた。
「あいつがやりかけていた計画をこの私が引き継いでやろうと言っているのだ! 私のやり方を尊重するべきだろうが!」
 こんなやり取りが最近増えている。――いや……正確にはレオン・マクガイヤを追い出してからずっとだ。夫が憤慨し、相手は気にする風もなく去って行く。
 公爵家という有力な後ろ盾がいなくなるというのに、あの余裕は何なのだろう?
 私がいる事に気付かないまま、夫は愚痴を言い続ける。
「――まぁいい。すぐに私を頼ってくるさ」
 夫はそううそぶく。……が。
彼らは一向に頼ってくる気配はない。

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