悪役令息な俺でもいいんですか?~歌声で人々を癒やします。でも元婚約者(第3王女)はお断りです~

みけの

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閑話~子爵令息ジュエル・サイラス~

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 「な? 何するんだ、やめろ!」
「へぇ。普段はスカした態度のくせに、結構ウブなんだな? それとも誘ってるのか?」
 僕を見下ろしアーリア・コーニーはニタリ、と笑う。その下で呆然としている僕。
子爵邸にいたら呼び出され、何の用かと思っていたら愚痴を聞かされ――いきなり距離を近づけられたかと思ったら、執務机の上に押し倒された。
 上半身を机の上に押しつけられ、体の両側に手をつかれている。のけぞるような体勢で、足が床についていないから体に力が入らない。
「誘うわけないだろう! だから止めろって――?」
大きな手がいきなり胸に触れた。そのままなで回すように動かされる。毛虫が這い回るような感覚にゾワッと肌が粟立った。
「や、止めろ……っ」
「ほぅら、感じている。――お前、本当は腐女子向けの攻略キャラだろ? 運営もわけの分からない設定放り込むぜ。ま、全員攻略したら良いだけだしな?」
感じてるんじゃない、気持ち悪いんだ。何だよその勘違い発想!
「はぁ!? コウリャク? フジョシ? ――分からないこと言ってないでとにかく放せ!」
 何とか必死で抵抗するも、全身ピクリとも動かせない。せめてと思い、そいつの顔を思いっきり、睨み付けた。
「あんた、第3王女の事が好きなんだろう!?」
 こいつは第3王女の婚約者になった男だ。
王女の婚約者ならば、国を担う一端だ。だから立場を弁え、王女にだけ誠実に、その立場を崩さないよう自重すべきじゃないか?
 と言ったらアーリアは、一瞬きょとんとしたが、直ぐに機嫌良くニヤリとする。
「へぇ? 何だ妬いてんのか? 可愛いよなぁ。
……そうだなぁ……ルナのことは好きだぜ。はっきり言って好みのタイプだ。でも俺は優しいから」
 は? 何言ってるんだ。というか頬を撫でるな気持ち悪い。と思っていたらその手が顎にかかり、顔を固定された。
「お前のことも無下にする気はないんだよ」
「や、止めろ!」
 ギラギラした顔が近付いてくる。突き出された唇が気持ち悪い。何とかして顔を背けようと必死で抵抗したけど、馬鹿力でピクリとも動かせない。ジタバタと足を動かしたけどまるで効果がない。
 嫌だ! こんな奴となんて絶対に!!
と、その時。
扉の外からコンコン、とノックの音がした。続けて静かな男の声が聞いてくる。
「失礼します、スチュアートです。そちらにサイラス子爵令息がいらっしゃると聞きました。女王陛下がご用があると仰せられているのですが……」
「じょ、女王?」
今だ!
一瞬アーリアの手の力が緩んだ隙に、思いっきり体を突いて奴を押しのける。後ろにのけぞった程度だったけどその間に手の届かないところに逃げ出し手荷物を引っ掴むと、
「ただいま参ります!」
叫び様、部屋を飛び出した。


 「どうやら間に合ったようだね」
 扉の向こうにいたのは宰相だった。彼はボロボロになった僕を見て事情を察したのか、痛ましそうに見てから着ていたコートを脱いで肩にかけてくれる。
 「彼に付けていた見張りに、君が呼ばれた事を聞いて来てみたんだけど」
「あ、ありがとう、ございます……。あ、では女王陛下のご用というのは……」
「後で陛下に話を合わせて頂くよ」
どうやらハッタリだったらしい。
「少し私の部屋で、休んで行きなさい」
「はい……」
正直、直ぐに平静には戻れそうにない。お言葉に甘えさせて頂く事にした。


 「こんな目に遭うのは、初めてじゃないのですが……。しばらくなかったので油断していました」
宰相は、部屋に入った僕をソファに座らせ、手ずから備え付けのティーセットでお茶をいれて下さった。
良い香りのするお茶は過ぎる位甘かったけど、ささくれだった今の僕には優しかった。ティーカップを包むように持ち暖かさを感じる。
 そんな僕に、宰相はいつもの怜悧さを解いた優しい瞳で労りの言葉を下さる。
「相手が悪いんだから、気にしなくて良いよ。……しかし、王城で貴族令息を襲うとは……第3王女が知ればとは思わないのだろうか?」
訝しげに首を捻る宰相に、僕はずっと疑問に思っていた事を言う事にした。
「あいつ……いやアーリア・コーニーといてて、思った事なんですが……彼、魅了魔法か何か使ってるように思うんです」
「魅了魔法……どうしてそう思うんだ?」


 アーリアの監視を命ぜられてから、出来るだけあいつに声をかけるようにした。
後は簡単だった。あいつは前から僕に興味があるみたいだったから。でも女性としか関係は持たないと思っていたから、まさかあんな真似をしてくるとは思わなかった。
 で、その女性関係だが、想像以上に乱れていた。学園に通う女生徒や女教師は知っていたが、平民の花屋の娘から果ては教会の修道女にまで手を出していた。
 が、奇妙なのは全員が“彼が好きで関係を持っているのも自分だけ”と、根っこから信じて疑っていないことにある。
 あれだけあちこちに手を出していれば、普通は誰かの耳に入るだろう。なのに全員、知らないと言う。
「1度僕、彼と関係があるという女生徒と、話をしてみたんです。そうしたら……」
「どうだって?」
 あの時の事を思い出す。
彼女は僕を知っていたらしく、声をかけても不審がる様子はなかった。“何かご用ですか?”と聞かれたから、“アーリア・コーニーのことなんだけど”と口に出そうとした。
 なのに……それは出来なかった。何故なら。


「アーリアの名前を出そうとした途端、何かに喉を塞がれたように、しゃべれなくなってしまったんです……」
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