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意外な客
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「それで今日は、いつもより大変だったんだね」
少し休憩しよう、ということになり。俺はジュエルと並んで、劇場の待合の椅子に座って話していた。
俺の話を聞き終えた彼は、うーんと首を捻っている。普通の人なら多少の悩みに思える事でも、彼の様子を見た人間には、とんでもない一大事! と思われるだろう。そんな表情で。
でもそんな彼は、
「取りあえず、ミーシャさんから借りた恋愛小説を読み込んでみようかと……」
「っ!!」
と俺が言った途端、いきなり顔を伏せた。口元を必死に押さえ、ぷるぷると肩を震わしている。頬が少し赤い。
……これ確実に、笑いをこらえているな。
「……俺は真剣なんですけど」
「ご、ごめん。……で、でもあ、貴方が、恋愛小説……っ」
人が真剣に悩んでいるってのに、と憮然としていたら、目尻の涙を拭いながらも笑いを治めて、
「……他の人は知らないけど、絶対僕はがっかりなんてしないよ。貴方の声だから」
だから頑張って、とニッコリ笑った。
……本当に、誰だこのヒト。学園でいた時と、まるで別人じゃないか。“氷の麗人”、“水の女神の愛し子”なんて言われ、遠巻きにされていたのが嘘みたいに。
……けど俺がレオンだって分かったら、またあの怒ったような無表情に戻るんだろう。そう考えてちょっと寂しい気持になるのは、ミーシャさんにからかわれて変に意識しているだけだ、きっと、そう。
それにもう俺、平民だし。
「と……ところでジュエルさま。……変なことをお尋ねしますが」
「ん、何?」
やや葛藤しながらも俺は質問した。
「“お邪魔キャラ・こーかんど・だい2だんかい・イベント”……こんな言葉、訊いた事ありますか?」
予想通りにきょとんとされてしまう。まぁ当然だ。真面目な顔してこんな突拍子もない言葉だけ言われても、分からないのが当たり前だ。
だが、サイラス子爵家は、領地のワインを通して他国との交流も多い。
マクガイヤ家も公爵だったから、ある程度の交易に関わってはいる。が……あの言葉は初耳だった。もしかしてと思って、支配人やご近所の方々にも打診したが、成果がなかった。
が、ジュエルならもしかして、他国の風習とかで知ってるかもと、思っただけだ。
けど彼は、少しだけ首を捻って考えてくれたが……。
「ごめん、初めて訊いた言葉ばかりだ」
そして、うーんと腕組みをして首を捻る。まぁ、それが当たり前だな。と頭の中で納得してたら、ジュエルもボソッと、意味不明な言葉を言った。
「僕も最近……。訳の分からない事を言われた。フジョシだのコウリャクだの、って」
「それは一体……ってそれよりジュエル様、何か……怒ってません?」
綺麗な顔の眉間に深いシワが出来ている。心なしか、声にも怒気がこもっていた。何か俺の言葉に、彼の気に障る要因があったんだろうか。
「ジュエル様? 何か――」
「おーいレオ! 練習始めるぞ!」
俺が言いかけるのに、シオンさんの声が重なった。
あの後。
練習に戻ったもののダメ出しをくらうばかりの俺にたまりかねたのか、ルノーとシオンがラブソングは保留にしよう、とライドに提案してくれた。
「ライドの気持は分からなくもないけど、このままだと他の曲の練習も進まないしレオンにも考える時間をあげるべきだと思う」
温情溢れる助言がありがたい。ライドも渋々ながらも頷いてくれた。うん、時間を無駄にしないように俺は頑張って、借りた恋愛小説を読破しよう。
幸い俺は速読が出来る。王配教育には必須のスキルだったからだ。本の10や20冊程度、わけではない。
と決意を固く自室に戻ろうとしていたら、
「ビート君、……どうしたの? ミヤちゃんはここにいないよ」
正面玄関で、見知った顔に出くわした。
先日逢ったばかりのビート君だ。
でも、前に逢った時のような冒険者の服装ではない。それよりも……ずっと、悪い。肌寒いだろう時間にも関わらず、彼は薄着だ。やせっぽちの体に使い古され擦り切れたシャツが体に合わず、肩が落ちそうだ。ズボンも明らかに体に合っていない。
こんな時は、自分が貴族でなくなった事が歯がゆくなる。名だけでも公爵家の人間だった、あの頃なら改善してみせたのに……。
と考えたところでブンブン、と首を振る。無いものは無い、それだけだ。出来ないという理由にはならない。何がなくとも、考える事は出来るのだから。
と頭の中で唸っている俺に対し、彼は予想外の事を言ってきた。
「い、いや……俺が逢いたいのはあんたじゃない。レオだったっけ? この劇場の専属歌手の人。その人に、頼みたいことがあって……」
少し休憩しよう、ということになり。俺はジュエルと並んで、劇場の待合の椅子に座って話していた。
俺の話を聞き終えた彼は、うーんと首を捻っている。普通の人なら多少の悩みに思える事でも、彼の様子を見た人間には、とんでもない一大事! と思われるだろう。そんな表情で。
でもそんな彼は、
「取りあえず、ミーシャさんから借りた恋愛小説を読み込んでみようかと……」
「っ!!」
と俺が言った途端、いきなり顔を伏せた。口元を必死に押さえ、ぷるぷると肩を震わしている。頬が少し赤い。
……これ確実に、笑いをこらえているな。
「……俺は真剣なんですけど」
「ご、ごめん。……で、でもあ、貴方が、恋愛小説……っ」
人が真剣に悩んでいるってのに、と憮然としていたら、目尻の涙を拭いながらも笑いを治めて、
「……他の人は知らないけど、絶対僕はがっかりなんてしないよ。貴方の声だから」
だから頑張って、とニッコリ笑った。
……本当に、誰だこのヒト。学園でいた時と、まるで別人じゃないか。“氷の麗人”、“水の女神の愛し子”なんて言われ、遠巻きにされていたのが嘘みたいに。
……けど俺がレオンだって分かったら、またあの怒ったような無表情に戻るんだろう。そう考えてちょっと寂しい気持になるのは、ミーシャさんにからかわれて変に意識しているだけだ、きっと、そう。
それにもう俺、平民だし。
「と……ところでジュエルさま。……変なことをお尋ねしますが」
「ん、何?」
やや葛藤しながらも俺は質問した。
「“お邪魔キャラ・こーかんど・だい2だんかい・イベント”……こんな言葉、訊いた事ありますか?」
予想通りにきょとんとされてしまう。まぁ当然だ。真面目な顔してこんな突拍子もない言葉だけ言われても、分からないのが当たり前だ。
だが、サイラス子爵家は、領地のワインを通して他国との交流も多い。
マクガイヤ家も公爵だったから、ある程度の交易に関わってはいる。が……あの言葉は初耳だった。もしかしてと思って、支配人やご近所の方々にも打診したが、成果がなかった。
が、ジュエルならもしかして、他国の風習とかで知ってるかもと、思っただけだ。
けど彼は、少しだけ首を捻って考えてくれたが……。
「ごめん、初めて訊いた言葉ばかりだ」
そして、うーんと腕組みをして首を捻る。まぁ、それが当たり前だな。と頭の中で納得してたら、ジュエルもボソッと、意味不明な言葉を言った。
「僕も最近……。訳の分からない事を言われた。フジョシだのコウリャクだの、って」
「それは一体……ってそれよりジュエル様、何か……怒ってません?」
綺麗な顔の眉間に深いシワが出来ている。心なしか、声にも怒気がこもっていた。何か俺の言葉に、彼の気に障る要因があったんだろうか。
「ジュエル様? 何か――」
「おーいレオ! 練習始めるぞ!」
俺が言いかけるのに、シオンさんの声が重なった。
あの後。
練習に戻ったもののダメ出しをくらうばかりの俺にたまりかねたのか、ルノーとシオンがラブソングは保留にしよう、とライドに提案してくれた。
「ライドの気持は分からなくもないけど、このままだと他の曲の練習も進まないしレオンにも考える時間をあげるべきだと思う」
温情溢れる助言がありがたい。ライドも渋々ながらも頷いてくれた。うん、時間を無駄にしないように俺は頑張って、借りた恋愛小説を読破しよう。
幸い俺は速読が出来る。王配教育には必須のスキルだったからだ。本の10や20冊程度、わけではない。
と決意を固く自室に戻ろうとしていたら、
「ビート君、……どうしたの? ミヤちゃんはここにいないよ」
正面玄関で、見知った顔に出くわした。
先日逢ったばかりのビート君だ。
でも、前に逢った時のような冒険者の服装ではない。それよりも……ずっと、悪い。肌寒いだろう時間にも関わらず、彼は薄着だ。やせっぽちの体に使い古され擦り切れたシャツが体に合わず、肩が落ちそうだ。ズボンも明らかに体に合っていない。
こんな時は、自分が貴族でなくなった事が歯がゆくなる。名だけでも公爵家の人間だった、あの頃なら改善してみせたのに……。
と考えたところでブンブン、と首を振る。無いものは無い、それだけだ。出来ないという理由にはならない。何がなくとも、考える事は出来るのだから。
と頭の中で唸っている俺に対し、彼は予想外の事を言ってきた。
「い、いや……俺が逢いたいのはあんたじゃない。レオだったっけ? この劇場の専属歌手の人。その人に、頼みたいことがあって……」
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