悪役令息な俺でもいいんですか?~歌声で人々を癒やします。でも元婚約者(第3王女)はお断りです~

みけの

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閑話~男爵令息アーリア・コーニー~

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 「ど、どうなってんだ…………?」


 狙っていた女(キャラ)を、やっと攻略出来る。
町中を歩きつつも、俺の頭の中はイベント後の事でいっぱいだった。
修道女という、身持ちの堅いオンナが相手だ。攻略までは忍耐一色だった。それに見合う元を取らせてもらわないと。
さて、どんな事をしてやろう? やっぱイベントスチルで出たアレは不可欠だな! いやもっと違う、アレやらコレやらも――。
 想像だけでニヤついてしまうのを何とか抑え、俺は教会に足を向けた。
しかし、そこで見たものは小さい教会を囲む人だかり。
 何でこんなに人がいるんだ!?
本当ならこの時間、テレジアが独りで苦悩しながら禊ぎをしている筈なのに!
「おい!」
近くにいた男を捕まえ事情を訊く。
「この人だかりは何なんだ! 何があった!」
男は不機嫌そうに俺を睨むと、
「子供が教会の屋根から飛び降りたんだよ」
と答え、もういいだろと俺から離れていく。
 俺は頭の中が真っ白になった。
ガキが飛び降りた? ゲームにそんなイベントは無い。
い、いや……落ち着け、俺。もしかしたら日にちを早く、間違えているかも知れない。頭を振り、悪い予感を落とす。
 あんなにやり込んでいたんだ。時間も注意していた。だからありえない。
ー――俺が、イベントを失敗したなんて。
「魔導担架、持ってきたぞ! 静かに乗せろ!!」
誰かの声がし、地面に薄めの布団のようなものが広がる。
魔導担架は、町のあちこちに設置されている魔道具だ。普段は柱のように立っているが、けが人や病人の前に来ると本来の形になり、自動的に患者を乗せる。
魔法で近くの病院情報が記録されていて、怪我の具合に合った病院に転移出来るという、前世で言えば無人の救急車のようなものだ。
最高3人は乗れる仕様なのだが……。
「テレジア?」
テレジアが、ガキと一緒に乗ろうとしている。俺は慌てて人を押しのけ、彼女に近付いた。
ガキの事を心配して、なんかじゃない。テレジアが俺に――俺だけに――依存している状態だと、確認したかったからだ。
だが俺の呼びかけに、テレジアは強い意志のこもった目で見返すと、
「アーリア様、わたくし彼に付き添って行きます! ですので、ご用事がおありでしたら後日お願い致します」
と深々と頭をさげる。
「お、おいっ!?」
「あんた下がれ、転移するぞ!」
呆然としている俺の腕が誰かに引かれる。
その一瞬後、担架とテレジアが目の前から消えた。


 何故だ……好感度が初期値に戻っている?
あの瞳は主人公が初めてテレジアと出会った時に、向けられたものだ。厳格な教えを守り穢れを嫌う修道女。
何があった? 俺の知らない間に、何が起こった?
 分からない。確かなのは……イベントが流れてしまったことだ。
「くそっ!」
悔しさと空しさに襲われ、ダンッと壁を殴りつける。
今日の為にやってきたことが全部おじゃんだ! 
 しかもあのガキ……チラッと見たがほとんど傷らしい傷なんて無かった。
教会の屋根を見上げた。かなり高い。栄養不足のガキが落ちて、無傷でいられる訳が無い。一体どんな術を使ったんだ。
 と、真剣に悩んでいる俺の心境を、のんきな声がぶち壊した。
「お~い、そこでベッタリ潰れてる兄さん、平気かー?」
人が悩んでいる時に! と視線を向けると、地面に男が倒れ込んでいて、通りがかりの商人風の男に声かけられていた。言われた男の方は立ち上がりながら『平気です。お気遣いどうも』と返す。そして服に付いた土埃を払いながら、
「……まったく無茶しやがって……。魔力調整、結構面倒なんだぞ」
ブツブツと独りごちた。


 その顔を見た途端、俺は再びパニックに陥った。
――なんでこいつがここにいるんだ!


 相手も俺に気付いたのか、視線をこちらに向けてきた。自然と対面する形になる。
 俺はこの男を知っている。着ているものこそ平民のそれだが、立ち姿には嫌味なほど気品が漂うその男。
ハシバミ色の髪に、同色の瞳。腹が立つ程整った顔立ちは、最後に逢った時とほとんど変わらない。変に身綺麗にしていないのが、逆に本人の綺麗さを際立たせている。
 存在自体が気にくわない。……こいつは。
「悪役令息……!」

 元公爵令息、レオン・マクガイヤだった。
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