悪役令息な俺でもいいんですか?~歌声で人々を癒やします。でも元婚約者(第3王女)はお断りです~

みけの

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まずは形から

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 「「…………え?」」
突如として出た、ステラ王女からの提案に俺とジュエルが驚く。
 急に何を言い出すんだ、この方は?
この空気のどんな流れから、なぜそうなるんだ?
 そんな戸惑いを含んだ空気が流れる中、シン殿下が代表して質問した。
「す、すーちゃん? 急にどうしたの」
全員に注目される中、平然とステラ王女は言う。
「彼ら自身の話し合いは大事だが、今優先すべきなのは2人が協力してこの事態に当たれるかどうだろう?
という訳で少しでも歩み寄る為に、お互いの垣根を低くするべきだと思った。そこで呼び方だ。一致団結する一歩として、改まった言い方を止めたらどうかと思っただけだ」
“まずは形から”とステラ王女は続ける。
 正直、今だ複雑な表情をしているジュエルの事を思うと受け容れ辛いものがある。どうも先程の俺の解釈(という形の提案)は気に入らなかったようだ。
 そう思っていたのに意外にも、俺よりも先にジュエルが折れた。
「……分かりました。これからは僕の事はジュエルで良いよ。……僕も貴男の事、レオン、って呼ぶから」
「分かった」
俺も合わせて了承する。確かに色々疑問は残るけど、ジュエルが嫌なのなら俺は別に知らなくても良いし。
これから協力し合う関係なんだからそこは俺が気を配れば済むだけだ。
 次にジュエルは支配人やバンドの仲間達の方に向き直って言った。
「……皆さんにもこれからは、そうして欲しい」
「お、おう……よろしくな、ジュエル……」
「俺らのことも当然、名前で呼んでくれ」
 麗人なジュエルに頼まれて、嫌な気分になる者はいない。皆一様に頷きつつ、思い思いの言葉で肯定した。
 そんな彼らに対し、ジュエルは――。
「ふふ……っ、ありがとう……」
花が綻ぶような笑顔を向けた。


「!!!!」
途端にビン! と全員が固まる。
 そりゃそうだ。俺も当然驚いている。ジュエルの笑顔なんて在学中、数える程しか見れていない。
遭遇率の高い俺でさえもそうだから、学園内では“ジュエル・サイラスの笑顔が見れたら、その日はきっと良い事がある”なんて噂があった程だ。――そのせいで一層、彼に対するつきまといが増えてしまい精神的負担が増えたが。
 そんな体験を経て、それを含んでの笑顔だ。ジュエルは本当に俺らと仲間になれるのを喜んでいるのだと分かる。だから、
「何だよ……こんなの、反則だろう!?」
「これって俺らだけで見て良いもんなのかな!? 後で天罰とか来ないかな?」
なんて口々に言ってるのも分かる、うん。


 けどそんな彼らを気にすることなく、ジュエルは次の瞬間には元の無表情に戻り王族のお2人に向き直る。
「それで、先程のお話に戻りますが……。僕にも明日からその“推し”を目指せ、って事ですよね?」


 そう。
シン殿下がジュエルに指示した任務は、“レオン達と一緒に舞台に出て、メンバーの1人として盛り上げる事”だった。
確かに彼は綺麗だが、しかし……。
 「僕は愛想なんて振りまけないですよ」
そう、そこが彼の致命的欠陥。整いすぎた美貌が故に接してくる相手に冷たい印象を与えるのだ。でもなぜか、
「そこが良いのよ!」
ミーシャさんが力強く、グッとサムズアップして断言する。
「怜悧な美貌で周りに冷たい! っていうのにも、人は惹きつけられるものなのよ!! “あんなになったのには、過去に辛い出来事があったのね”とか“彼を呪縛から解くのは私”とか相手は妄想して、より一層惹きつけられる魅力になるの!」
胸に手を当て、違う方の腕を前方に突き出し語るミーシャさん。その姿は語るというより崇める感じだ。
「そ、そう、なのか……?」
「そうよジュエル! 貴方とレオン君は私に喜びを与えてくれるの!……本当は私だけの楽しみにしてたかったけど……」
最後の呟きだけはぼそぼそしていて聞こえにくかった。
でも、分かった事もある。
彼女のどこか恍惚とした顔で語られる思想は、客観的に見れば独りよがりだ。その背後で「お姉ちゃんが、何か恐い……」とミヤちゃんが引いているがそこはそれだけの影響なのだと受け取る。
 ……そうか。妄想で惹きつけるというのもあり、なんだな。
ならば独りよがり大いに結構。目的の為に、大いに盛り上がってもらおう。
「じゃあ今日からジュエルには、ピアノの特訓をしてもらおう!」
 声がした方を向くと、ジュエルとライドが話をしていた。ジュエルは本調子に戻っている為ライドだけがガンガン盛り上がっている。
「ピアノ……? 確かに少しは習ったけどプロの貴方には及ばないよっ? それにそこはライドの担当じゃあ……?」
「大丈夫! 平気、へーき!!」
躊躇うジュエルに、ライドは不安を吹き飛ばすように高笑いをしてみせる。
「ちゃんとフォロー入れるから! これから始まる奇跡の前には、俺のピアノなどもはや意味は無い!!
ああ……これで神が降りる! 
俺の望んだレオンの歌声が聴ける!
待ち望んでいた甲斐があった、ああ、神様ありがとう……!」 
お・おーい…………。
しまいには地面に膝をつき、天に祈り始めた。両目から滝のように涙が流れている。
「そ、そこまで…………?」
俺の呟きに、ルノーとシオンが両隣で言ってきた。
「ずっとライド、不満だったんだよラブソング出来ないの。作詞作曲やってたら、望むのはそれでしょ?」
ルノーが言うと、
「と、言ってもまだ希望が見えただけなのに、すごい盛り上がりだね~」
シオンが感心と言うより呆れたような様子で、ライドを見ていた。
というか、何故2人まで分かったみたいに頷いているわけ? 俺だけ置いてきぼり??


というか色々ツッコミ部分が多すぎる。まずジュエルが入ってくれると、どうしてラブソングが出来るようになるんだ? 


 俺達の打ち合わせが終わったところで、殿下達にご報告しようと劇場内を(あの後ステラ王女に引っ張られ、お2人して出て行かれた)探す。
 裏口でやっと、見つかった。シン殿下が従者達に指示を出しているところだった。
「即急にヤマトノ国から、有能な魔術師を数人こちらに呼ぶよう伝達してくれ。そしてさっき言った魔道具の完成を急がして」
 俺やステラ王女の前では出さない、一国の王子の顔で指示を下す。そんな彼に従者達も
「はっ! 必ずや」
力強く応じ、礼をした。
 さすがシン殿下、絞める時は絞めるな……なんて感心していたが、次に予想外な指示が下りる。
「そしてこれは、“影”達にも告げている事だけど……。攻略対象と思われる女性達の周囲に注意して欲しい。その中でもし変わった言動のする人物がいたら報告して」
アーリアではなく、攻略対象の女性達を……?
 彼女らはあくまで“狩られる者”のはず。その周囲を探れというのは??
「――シン殿下」
 俺が声をかけると、殿下は普通に振り返り笑った。その顔には驚いている様子は微塵も無い。その反応に、俺が来る事も知っていたんだろうと確信する。
「どうしたの? レオン君」
問いつつ見せる顔が笑顔だから、少し警戒を解き、疑問を呈した。
「殿下、なぜそのようなご指示を?」
俺が訊くと、彼は悪戯っぽく笑ってみせる。


「考えている事があるんだ。ダメ元だけどうまく行けば、良い情報源になる」
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