悪役令息な俺でもいいんですか?~歌声で人々を癒やします。でも元婚約者(第3王女)はお断りです~

みけの

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推しへの思い

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 何とか混乱した舞台に収拾をつけ、本日のプログラムを終えて楽屋に戻ると、
「レーオン君♪」
シン殿下が待っていた。気のせいか妙にハイテンションで。
「――ご機嫌ですね?」
無意識に身構えてしまう。実体験から後に厄介事に巻込まれる可能性が高いからだ。
と、そこでもう1人、知らない顔がいる事に気がつく。
 所在なげに椅子に座っているのは14,5歳位の少女だ。着ているのはくたびれた地味なブラウスと色褪せたジャンパースカート。平民の基本的な装いだ。ソバカスの残る頬に、少し気弱そうな小さめの垂れ目。
……なんだが……。
俺の目は自然と、彼女の目の下に釘付けになる。すごい隈だ。眠れていないのか。
そんな彼女は俺に気付いた途端、ギョッとした顔で座っていた椅子から飛びすさった。
「あ……悪役令息!!」
「はぁ?」
“悪役令息”? だと?
驚きに目を見張る。その言葉を知っている、って事は、まさか……。
「そう。ご想像の通り……!」
そこで殿下はふふふ……と意味深に笑い、意味が分からずに何か何か、と俺達の興味を引いてからじゃーん! って感じに宣言した。


「紹介しよう! 彼女は宿屋のお嬢さんでエリーちゃん! “ギャルゲー”の記憶を持つ、異世界からの転生者だ」


「ええーっ!!!」


確かアーリアが俺の事を、そう読んでいた。でもどうして、こんな子供が? 
 下半身無節操野郎(と書いて、アーリアと呼ぶ)ならともかく、こんな女の子。しかも子供が、“ギャルゲー”をやっているのか――と、戸惑った後に、ハッと気がつく。それをシン殿下が補足した。
「……レオン君。所謂転生者には前世の記憶があるんだ。だから、子供でも、人格まで子供じゃ無い」
「……この子の人格はもう大人だと言う事ですか?」
「その通り。いやぁ~、初日一発で当たりが引けるなんて、僕って結構ラッキー? いや、きっと“アーリアのギャルゲーぶち壊し作戦”に神様が力を貸してくれたんだな♪」
カラカラと高笑いする殿下に、もはや何も言えない。
 いや本当にミラクルだ。転生者というだけでもすごいのに、更に同じ“ギャルゲー”の記憶を持っている人間がいて、挙げ句に確保出来るとか、どれだけ?
それはともかく、と俺はエリー嬢に近付いた。座っている彼女の前に、跪いて視線を合わせて自己紹介する。
「改めて。俺はレオン。以前はレオン・マクガイヤと名乗っていた。――知ってるかな」
「!? は……はいっ」
 元気に返事をして……でも何故か顔を赤らめて目を反らす。
「こ、こんなに綺麗だったんだなって……! その、ゲームの中だと、何と言うか、すごくイヤな感じって言うかバ……いえ、可哀相なヒト、って感じだったから……」
今バカ、って言いそうになったな。
でも俺、アーリアより成績は良かったよな? 
強制力があるなら、俺はアイツよりバカにならないとおかしい。それとも、バカと思われそうな言動でもしていたか? と記憶を探っても一向に覚えが無く、首を傾げたがすぐに気付く。
視点の違いだ。
 俺が第3王女にコテンパンにされていたのは事実。それをアーリアがバカだと思ったから、それがゲームの設定として出ていた。そういう事だ。
エリー嬢も、
「ゲームでレオンさんのかっこ悪い処ばかり見ていたせいですかね? 考えてみたら貴族のご子息で王女様の婚約者になる程の方が、主人公より能力が下、なんて筈ないですよね。しかも半分平民、って事で人気もあるのに」
と言ってくれた。
それぞれでウンウンと理解していたところで、シン殿下のお声がかかる。
「じゃあエリーちゃん、僕にしてくれた話をレオン君達にもしてもらえるかな」



「……それは最初、私にとって……変な、夢でした」
“変な夢”と濁しているけど、裏は察する。大人の男向けで、アーリアが好きそうな。そこまで思ってエリー嬢が気の毒になる。
そりゃ、普通の女の子に大人のあはんうふん……な映像なんて下手すりゃトラウマものだ。寝てても休めないんじゃないか?
思った通り、
「自分でも何でこんな夢ばかり見るんだろう? って気持ち悪くて、ちょっと不眠が続いていて」
と疲れたようにため息をつく。
「でも、レオさんの歌を聴いている内に、頭がスッキリして色々思い出しました」
そう言って、彼女は話を始めた。


「今は子供ですが、向こうで死んだ時は36歳位で、社会人やっていました。深夜残業続きでボンヤリしてて、会社の階段から落ちた処まで覚えています。
私、前世も女だったんですけど、綺麗だったり、可愛かったりする女の子が好きで……。キャラのコスプレしたりして……! そうやってハマっていたのが、あの“異世界ラブラブ大作戦!”です」
 キャラ? コスプレ?? また知らない用語が出て来たぞ。
「いっぺん、女王陛下か王配殿下に聞いてもらおうか? 僕らじゃ分からない言葉が多すぎる。
まぁそこで、僕らが頼みたいのは、君の記憶にある“ギャルゲー”の知識をあるだけ、教えて欲しいんだ。特に攻略対象者達の情報があれば、細かなことでもありがたい」
「え……?」
シン殿下の依頼に、エリー嬢は意味のなさそうな相づちをうつ。真剣味がない、というのではなく、ピンとこないという様子だ。そんなものだろう。実質被害を受けているシン殿下達と違い、彼女はたまたまギャルゲーの知識を持つだけの転生者である。
 やる気を起こしてもらうには、もう一手は必要だ。何が良いか……。
「君に大人の記憶があるのなら分かってもらえるだろうが、君たちが言うところの、『主人公』であるアーリアは、この世界でやりたい放題、女性達に手を出している。どうやら彼も転生者らしくゲームの知識があって、厄介な事に強制力という、得体の知れない力が働いているんだ。……そのせいで……っ!」
シン殿下の顔が苦しみを耐えるように歪んだ。――きっと、ステラ王女のことを思い出したんだろう。
「…………?」
が、そんな事を知らないエリー嬢は、シン殿下の様子に困惑するだけで。
俺が口を開こうとした。が、ノックの音で中断される。
入ってきたのはステラ王女だった。王城から転移したのかお忍びルックではない騎士団長の制服姿だ。
「シン様、今ヤマトノ国の魔法師団長から――」

「ひぇーー!!!」

 突如、部屋に響き渡る悲鳴。
誰か、と思ったらエリー嬢だった。さっきまでの遠慮がちな様子が抜け顔面蒼白。全開まで見開かれた目は、ステラ王女に向けられている。
そして、叫んだ。

「ス……スー様のご尊顔に、傷がぁーー!!」

 へ、“スー様”?
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