【完結】王太子は元婚約者から逃走する

みけの

文字の大きさ
11 / 15

真相⑤

しおりを挟む
「国王陛下からの許可が下りたぞ!」
公爵からの朗報があったのは、マリアンヌが“等身大PMO(ポエマー迷惑王太子の略)人形”をギュウギュウ締め上げていた時だった。日焼けしてはいけないと日中は外に出してもらえないので、夕方特訓しているのである。
「ふむ。力は問題ありませんが、急所を的確に責められるようにしてください」
執事が、絞めた後と場所を確認しつつ注意している。
2人は公爵に気付くと、近寄って挨拶した。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「おじ様お帰りなさい。許可、ってあれ、ですよね」
今回の作戦に必要なものの一つ。“生命の危機や怪我をさせない限り何をしても良い”。
「ああ、あの許可だほら書面にして頂いた。王家のサインと印付きで」
バッと紙面を広げる。確かにサインと王家の金印付きだ。
「すごいですおじ様! よく許可してもらえましたね……!」
目を輝かせるマリアンヌに、少しあさっての方角に視線をやる。
「ふっ、まぁ……運が良かったのだろう」


 その日、朝の王城。
「陛下、本日の新聞でございます」
「うむ」
国王の朝のルーティンは、モーニングティを片手に朝刊に目を通すことから始まる。
盆で出された新聞を手に取り、一面を開くと……大きい見出しが飛び込んできた。

“王太子、戦に敗れ捕虜となる! 『あの時、婚約破棄をしたばっかりに……』”

「ぬ!?」
「こ、これは陛下、申し訳ございません、間違えてしまいました……!」
侍従が慌てて新聞を代えようとしたが、
「いや……少し気になるから、読んでみよう」
「さようでございますか」


 一方、王妃が廊下を歩いていると――。
「貴女達、何てものを読んでいるのですか! これは没収します」
「「侍女長、申し訳ございません」」
侍女長が、2人の侍女を叱っている処だった。
「どうしたのですか、侍女長?」
王妃が近寄ると、侍女長はハッと気付いて会釈する。
「まあ王妃殿下、お見苦しいところを。いえこの者達が王宮に相応しくないものを持ち込んでいたものですから」
「相応しくないもの?」
「ええ、ゴシップ雑誌というものです。巷で起きた出来事を面白おかしく書いたものです。全く、王宮侍女なのに自覚が足りませんね。
……あ、いけない! 用事があったのを思い出しました。御前を失礼致します。さ、行くわよ貴女達」
「「失礼致します」」
「そ……そう? ご苦労さま」
 そそくさと侍女長が去って行く。自分も立ち去ろうとしてフッと気付く。
先程の雑誌がそのまま、置いてあった。
「置き忘れなんて珍しいわね」
――ゴシップ誌、ねぇ……。
キョロキョロと辺りを確認してからそ~っと、雑誌を手に取り誌面を見る。

“ある性奴隷の独白『私はかつて、王太子だった……!』”
“元婚約者に執着した男の末路! 暴走の末に起きた悲劇”

「!?」
ぎょっ! と目を見開いた。
 侍女長が戻ってくる気配はない。
王妃は恐る恐る、雑誌を手に取り、中身を開いた――。


 「謁見の許可を頂きありがとうございます陛下」
玉座の前にひざまずく、スタン公爵と貴族数名。
「こたびは他でもなく、私の娘・セレナに王太子殿下がつきまと……いえ、拘られている件について、新たな案が出たので参じました」
「申してみよ」
「……これは私の遠縁の娘が考案した改善案です。なにとぞ、お目通しを」
うやうやしく差し出された書類に目を通すと、国王はグシャとそれを握りしめ、怒りというより悲壮な思いで叫んだ。
「我々に王太子を……息子を嵌めろと申すか!」
が、公爵も負けじと言い切った。
「嵌めるのではありません、ショック療法です。以前の聡明な殿下にお戻り頂く為の荒療治です」
“以前の聡明な殿下”の処を強調する事は忘れない。
「ショック療法……? し、しかしこの方法では、王太子を下りてしまうでは無いか」
 動揺を隠せない王の様子に広間にいた臣下達は頭の中で呟く。

――良いじゃないか、下りる程度で。
――こっちは幽閉してもらいたい程なんだぞ
――もう一押し、必要か?

 が、そこに助けが入った。
「へ、陛下……」
隣から王妃がそっと、その腕に手を添える。彼女の脳裏にあるのは、今朝見た雑誌だ。
――あの子がもし、性奴隷になるような事になったら……!
「心苦しいけど、ここはスタン公に任せましょう。セレナ嬢の為にも」
「う……っ」
 国王の脳裏にも、今朝の新聞の内容が過ぎる。
――息子がもし、あのような愚行に走ったら……!

 「絶対体に傷をつけないと、約束出来るか?」
「はい、傷などつけるつもりは毛頭ございません」
体には、ね。
「分かった。我の名において、許可する。書面にする故にしばし待て」
「ありがとうございます。英断に心から感謝申し上げます」


 「いやあ……何故かは分からないが、スムーズにいけて良かった」
はっはっは……と公爵は陽気に笑うが、マリアンヌは首を傾げる。
――なんっか、丸め込まれた感があるなー。でもまあ、これで王家側は大丈夫、って事だな。

 そして……当日になる。
決戦の火蓋は落とされた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、王太子を破滅させたあと静かに幸せになります

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エレナは、 誕生日の舞踏会で突然、婚約破棄を宣言される。 「地味で役に立たない」と嘲笑され、 平民の少女を新たな婚約者に選ぶ王太子。 家族にも見放され、エレナは王都を追われることに――。 しかし彼女は、ただの“癒しの令嬢”ではなかった。 静かに力を蓄え、事実と証拠だけで王太子の虚飾を暴き、 自らの手で破滅へと導いていく。 復讐の果てに選んだのは、 誰かに与えられる地位でも、名誉でもない。 自分で選び取る、穏やかな幸せ。 これは、 婚約破棄された公爵令嬢が 王太子を終わらせたあと、 本当の人生を歩き出す物語。 -

「王妃としてあなたができること」を教えてください

頭フェアリータイプ
ファンタジー
王妃候補達に王太子様が決意を問う。そんな一幕。

無自覚チート令嬢は婚約破棄に歓喜する

もにゃむ
ファンタジー
この国では王子たちが王太子の座を競うために、生まれたばかりの有力貴族の令嬢を「仮婚約者」にして、将来の王太子妃、王妃として確保していた。 「仮婚約者」の数は、王子の母親である王妃や側妃の実家の力に大きく影響されていた。 クレアが生まれてすぐ「仮婚約」を結ばされたのは、側妃が産んだ第一王子だった。 第一王子を溺愛する祖父である公爵の力により、第一王子の「仮婚約者」の数は、12人にも及んだ。 第一王子は、ありえないくらい頭がお花畑のお馬鹿さんに育った。 クレアが定期的に催されている「第一王子と仮婚約者たちのお茶会」に行くときに、10歳年下の妹のルースが必ずくっついて登城するようになった。 妹ルースは、賢王になること間違いなしと噂されていた第五王子と心を通わせるようになっていった。 この国では、一貴族から王家に嫁げるのは一人だけ。 「仮婚約」を「破棄」できるのは、王族側だけ。 仮婚約者有責での仮婚約破棄には、家が潰れるほど法外な慰謝料が要求される。 王太子妃になれなかった「仮婚約者」は将来は側妃に、正妻になれなかった「仮婚約者」は側室にされ、「仮婚約契約」から解放されることはない。 こんな馬鹿げた王家の慣習に不満を抱いている貴族は少なくなかった。 ルースを第五王子に嫁がせるために、 将来性皆無の第一王子から「仮婚約」契約を破棄させるために、 関係者の気持ちが一つになった。

これぞほんとの悪役令嬢サマ!?〜掃討はすみやかに〜

黒鴉そら
ファンタジー
貴族の中の貴族と呼ばれるレイス家の令嬢、エリザベス。彼女は第一王子であるクリスの婚約者である。 ある時、クリス王子は平民の女生徒であるルナと仲良くなる。ルナは玉の輿を狙い、王子へ豊満な胸を当て、可愛らしい顔で誘惑する。エリザベスとクリス王子の仲を引き裂き、自分こそが王妃になるのだと企んでいたが……エリザベス様はそう簡単に平民にやられるような性格をしていなかった。 座右の銘は”先手必勝”の悪役令嬢サマ! 前・中・後編の短編です。今日中に全話投稿します。

婚約破棄された公爵令嬢は冒険者ギルドの魅力的な受付嬢

天田れおぽん
ファンタジー
フレイヤ・ボルケーノ公爵令嬢は、婚約破棄されので公爵令嬢だけど冒険者ギルドの受付嬢になった。 ※他サイトにも掲載中

婚約破棄するから結婚しようと言われても『俺』は男だし婚約破棄を告げてる相手は兄だしあなたの婚約者は姉なんですが?腹抱えて爆笑していですか?

ラットピア
ファンタジー
「レナスティア・フィオネス!今日この場で!貴様との婚約破棄を宣言する!」 よく通る声によりそう告げられた瞬間その場は凍りついたように静寂が支配した 「そして、ここにいるアナスティアと私は婚約する!」 続いて言われたことにどよめきが広がる 「王太子殿下、、いきなり何を?」 とうのレナスティアと呼ばれた者とアナスティアは震えていた、、、。 彼女、、いや彼らを支配したのは歓喜でも怯えでもなく、、 腹筋が攣るのではないかとゆうほどの笑いであった 兄「王太子殿下、言う相手を間違えておりますよw、、んん、失礼」 姉「何ふざけたことを抜かしてらっしゃるの?コイツ、、あ、失礼、つい本音が、、」 弟「腹割れるまで爆笑していい?、、だめ?」 はてさて、王太子にこんなふうに発言できるこの三人は一体誰だろうね☺️ 一話完結、後日談の希望があれば書きます。まぁBL要素が入るかもなので別シリーズになる可能性大ですが、、

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

処理中です...