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最終章 まさかの展開
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自分は間違った事を言ったろうか?
目の前で怯えたような表情をするルースに、ミュゼは眉を顰め、首を傾げた。
貴族として、婚活の準備をしておくのは必要だ。それも旬の内に。“未来ある若者”と言う言葉があるが、誰もが今の瞬間が一番若いのである。その限りある時間を有効に使わず、他にどうするのか。
なのにルースは、
「ま、待ってくれ…僕は、今は君の夫だろう? だから……」
いやだから、皆知ってるんですって。
「? 明日から領地なんです、ここで社交しとかないでいつやるんですか?」
「い……今の困窮しているリュドミラ家に嫁ぎたがる令嬢なんか、いないだろう!!」
「リュドミラ侯爵家の親族になる事の利点はまだあります。新興貴族であれば厚みを持たすための縁を繋ぎたい者もいくらでも」
確かにリュドミラ侯爵家の歴史は長い。紐解けば開国から続く家門で、他国にもその名は知られている。
―――と言っても、現実にはご先祖様の七光りに過ぎないが……。
説得力を持たせるように、ミュゼの指が背後を示す。
ルースがちら、と見たところには、色とりどりのドレス姿の若い令嬢達が、窓にペターッと張り付くようにしてこちらの方をガン見していた。
―――い、いつのまに……?
令嬢達の猛禽な眼差しに圧倒されているルースに、ミュゼは面白そうにニヤニヤしながら、ルースの乗り気になれない原因を見抜く。
「多少ルミカさん以外の女性に免疫がなかろうと、口説かれる事ばかりで口説いた事がなかろうと、何事にも最初はあります。
最初は利益重視な貴族同士の結婚でも、お互いを尊重し合えば十分幸せになれますから。相手に求められている内に決めてしまえば良いと思いますよ?
後は努力と運しだいって事で」
そして2人と令嬢達を阻んでいる壁――この場合はバルコニーの扉――を力いっぱい押し開けた。
たちまち雪崩れ込む令嬢の群れ。彼女らの目標は侯爵令息である“薔薇の貴公子”!
開かれた扉から、彼女らはルースへと一気に押し寄せて来た!
「キャーッ! ルース様ぁ」
「リュドミラ侯爵令息様ぁ!」
「う、うわぁぁ!!」
黄色い声を上げる令嬢達に囲まれ、もみくちゃにされるルースに、ミュゼは
「健闘を祈ります♪」
にぃ、と口の端で笑いサムズアップした。
「―――って事があったのよ」
迎えのドラゴンの背に乗ったミュゼは、サイモンに少し遅れた事を謝罪し、先程迄の出来事を話していた。
夜空を悠々と飛ぶドラゴンは、本来なら一日かかって進む距離を半日以下に縮められる。それほどの猛スピードで飛行している。が、騎乗している2人の周りには結界が張られている為、普通に会話が出来る。
サイモンは謝罪するミュゼに対し、気にしないでと軽く笑って言った。
「これも想定内でしたよ。―――まぁ……小侯爵はちょっと不憫にも思いますが」
夜会の場に置いて行かれたルースを、サイモンは魔道具で見ていた。ルースを伴侶にしたい令嬢達にもみくちゃにされるのに、全く意に介さない風で去って行くミュゼ。彼女からは見えなかったようだが、ルースは絶望した顔をしていた。
「………阿呆な餓鬼」
サイモンにとって、ルースは色々な意味でバカな餓鬼だった。
まず自分達のリーダーで大恩あるミュゼと、王命(本人は疑っていたようだ)とはいえ結婚出来た事を、不本意で理不尽だとしか捉えなかった事。
そこで“何故そうなったのか”と自力で知ろうとすれば光が見えただろう。
……まぁ見えたところで何が出来たかは疑問だけど、今よりはまともな関係をミュゼと築けたはずだ。
と、思っていたサイモンにミュゼは、今思いついたように手を叩いた。
「まぁ確かに、生まれてからずっと知っている女性が母親と幼馴染しかないってのは、社交の場では高位貴族としては致命的ね」
「……あー……まあ、ですね?」
「まあ、それも小侯爵様が自分で選んだこその結果だもの。これからどうなるかは小侯爵様次第さね」
「……………」
“小侯爵様”
つまり今の時点でも、ルースに対するミュゼのポジはそこなのだ。仮初でしかない夫。どころか男ですらないのだろう。
とサイモンの思いもよそに、ミュゼは資料をバサッと広げて睨みつけている。
「で、この中継地点についてなんだけど、普通に分離帯にするか小島を使うかでもめていてね……」
ミュゼはもう、ルースやリュドミラ家など見えていない。目の前の仕事しか見えていない。
しかし、サイモンは知っている。ルースがミュゼに拘りつつある事に。そんなルースに、心の中でサイモンは言ってやった。
―――やめとけ坊ちゃん、あんたの手には負えないぞ。
まぁ……? 望みを抱くのは自由だ。負けると分かっている戦をしたいからすると言われれば反対する理由はない。
やれるならやってみろや坊ちゃん―――
それがエールになるか、唯の揶揄いになるかは、ルース次第だ。
~※~※~※~※~※~※
後書き
これにて完結です。ここまでお読み頂きありがとうございましたm(__)m♪
夏風邪にかかり、更新が不安定になってしまってご迷惑をおかけしました<(_ _)>💦!
目の前で怯えたような表情をするルースに、ミュゼは眉を顰め、首を傾げた。
貴族として、婚活の準備をしておくのは必要だ。それも旬の内に。“未来ある若者”と言う言葉があるが、誰もが今の瞬間が一番若いのである。その限りある時間を有効に使わず、他にどうするのか。
なのにルースは、
「ま、待ってくれ…僕は、今は君の夫だろう? だから……」
いやだから、皆知ってるんですって。
「? 明日から領地なんです、ここで社交しとかないでいつやるんですか?」
「い……今の困窮しているリュドミラ家に嫁ぎたがる令嬢なんか、いないだろう!!」
「リュドミラ侯爵家の親族になる事の利点はまだあります。新興貴族であれば厚みを持たすための縁を繋ぎたい者もいくらでも」
確かにリュドミラ侯爵家の歴史は長い。紐解けば開国から続く家門で、他国にもその名は知られている。
―――と言っても、現実にはご先祖様の七光りに過ぎないが……。
説得力を持たせるように、ミュゼの指が背後を示す。
ルースがちら、と見たところには、色とりどりのドレス姿の若い令嬢達が、窓にペターッと張り付くようにしてこちらの方をガン見していた。
―――い、いつのまに……?
令嬢達の猛禽な眼差しに圧倒されているルースに、ミュゼは面白そうにニヤニヤしながら、ルースの乗り気になれない原因を見抜く。
「多少ルミカさん以外の女性に免疫がなかろうと、口説かれる事ばかりで口説いた事がなかろうと、何事にも最初はあります。
最初は利益重視な貴族同士の結婚でも、お互いを尊重し合えば十分幸せになれますから。相手に求められている内に決めてしまえば良いと思いますよ?
後は努力と運しだいって事で」
そして2人と令嬢達を阻んでいる壁――この場合はバルコニーの扉――を力いっぱい押し開けた。
たちまち雪崩れ込む令嬢の群れ。彼女らの目標は侯爵令息である“薔薇の貴公子”!
開かれた扉から、彼女らはルースへと一気に押し寄せて来た!
「キャーッ! ルース様ぁ」
「リュドミラ侯爵令息様ぁ!」
「う、うわぁぁ!!」
黄色い声を上げる令嬢達に囲まれ、もみくちゃにされるルースに、ミュゼは
「健闘を祈ります♪」
にぃ、と口の端で笑いサムズアップした。
「―――って事があったのよ」
迎えのドラゴンの背に乗ったミュゼは、サイモンに少し遅れた事を謝罪し、先程迄の出来事を話していた。
夜空を悠々と飛ぶドラゴンは、本来なら一日かかって進む距離を半日以下に縮められる。それほどの猛スピードで飛行している。が、騎乗している2人の周りには結界が張られている為、普通に会話が出来る。
サイモンは謝罪するミュゼに対し、気にしないでと軽く笑って言った。
「これも想定内でしたよ。―――まぁ……小侯爵はちょっと不憫にも思いますが」
夜会の場に置いて行かれたルースを、サイモンは魔道具で見ていた。ルースを伴侶にしたい令嬢達にもみくちゃにされるのに、全く意に介さない風で去って行くミュゼ。彼女からは見えなかったようだが、ルースは絶望した顔をしていた。
「………阿呆な餓鬼」
サイモンにとって、ルースは色々な意味でバカな餓鬼だった。
まず自分達のリーダーで大恩あるミュゼと、王命(本人は疑っていたようだ)とはいえ結婚出来た事を、不本意で理不尽だとしか捉えなかった事。
そこで“何故そうなったのか”と自力で知ろうとすれば光が見えただろう。
……まぁ見えたところで何が出来たかは疑問だけど、今よりはまともな関係をミュゼと築けたはずだ。
と、思っていたサイモンにミュゼは、今思いついたように手を叩いた。
「まぁ確かに、生まれてからずっと知っている女性が母親と幼馴染しかないってのは、社交の場では高位貴族としては致命的ね」
「……あー……まあ、ですね?」
「まあ、それも小侯爵様が自分で選んだこその結果だもの。これからどうなるかは小侯爵様次第さね」
「……………」
“小侯爵様”
つまり今の時点でも、ルースに対するミュゼのポジはそこなのだ。仮初でしかない夫。どころか男ですらないのだろう。
とサイモンの思いもよそに、ミュゼは資料をバサッと広げて睨みつけている。
「で、この中継地点についてなんだけど、普通に分離帯にするか小島を使うかでもめていてね……」
ミュゼはもう、ルースやリュドミラ家など見えていない。目の前の仕事しか見えていない。
しかし、サイモンは知っている。ルースがミュゼに拘りつつある事に。そんなルースに、心の中でサイモンは言ってやった。
―――やめとけ坊ちゃん、あんたの手には負えないぞ。
まぁ……? 望みを抱くのは自由だ。負けると分かっている戦をしたいからすると言われれば反対する理由はない。
やれるならやってみろや坊ちゃん―――
それがエールになるか、唯の揶揄いになるかは、ルース次第だ。
~※~※~※~※~※~※
後書き
これにて完結です。ここまでお読み頂きありがとうございましたm(__)m♪
夏風邪にかかり、更新が不安定になってしまってご迷惑をおかけしました<(_ _)>💦!
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