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第1章 始まりの物語

第12話 報酬

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 俺達はエディト領へブラッディベアの死体を回収し戻っている。
 アンジェラはすっかり俺の歌が気に入ったようで、何度も同じ歌をせがむ。
 まあ、この世界で歌と言えば吟遊詩人の歌う、リズムのない朗読のような物が歌らしいからね。

 他の冒険者からは、『あんなことがあったのに、陽気に装うなんていじらしい…』と、同情が集まった。

 再びエディト領に入り、冒険者ギルドに戻って来た。

 ブラッディベアの検証が終るまで、俺達は休憩場で時間を潰していた。

「アンジェラさん、どうぞ」
 ジェニーさんに呼ばれ、俺達は二階のギルドマスターの部屋に案内される。

 ドアを開けると相変わらずガタイのいい、ギルドマスターが座っていた。
「やあ、またせたね、アンジェラさん。まあ掛けたまえ」
 そう言われ俺達は向かいのソフトウェアに腰かける。

「回収した魔物の死体は、間違いなくブラッディベアだった」
「そうですか、よかった」
「しかし状態は酷いものだった。たった一日で体の骨があんなに、ぐずぐずになるのを見るのは初めてだよ」
 そうだろうね。
 俺が『ムササビ流星拳』で、毛皮の上から骨を粉々に砕いたからね。
 ポテチを袋に入れて、外から叩いて潰した状態と同じだ。

「それでは冒険者ギルドから、討伐の報奨金を出そう。君達のおかげで街に被害は出なかったからね」
 そう言うとギルドマスターは、金貨が入った袋をテーブルの上に置いた。

「500グルカ(500万円)ある。受け取ってくれ」
「え?」
「もちろん、人の命に比べたら安いのはわかっている。だがこれが精いっぱいだ」
「いえ、これで十分です」
 後からアンジェラに聞くと、500グルカあれば三年近く遊んで暮らせると言う。
 あの時、安いから驚いたのではなく、思っていた金額より高額で驚いていた。
 庶民なら三年近く遊んで暮らせるお金が、一度に手元に入ることなど考えられない。

「これからアンジェラさんは、どうするのかね?」
「明日の朝、宿を引き払い仲間の遺留品をもって、村へ帰ろうと思います」
「そうか、では道中気を付けて行っておくれ」
「ありがとうございました。お世話になりました」

 そうアンジェラは言うと立ち上がりギルドを後にした。

 宿屋に戻り、明日の朝で宿を引き払うことを女将に伝えた。
 部屋に戻るとアンジェラは、俺に聞いて来た。

「ねえ、レオ。私は明日、村に向かうけど、あなたはどうするの?」
「そうだな、ここまで来たんだ。最後まで付き合うよ」
「ありがとう!嬉しいわ」
 そう言うとアンジェラは俺を抱きしめた。

 その晩はアンジェラに抱き抱えられ、俺は一晩中頬ずりをされていた。

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