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第2話 街へ出掛けよう
1 異世界二日目の朝
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鳥のさえずりが聴こえる。……なんか、いつもより鳥の数多くね? 山とか森とか、そんな環境にいるみたいだよ……。
うっすら目を開け、時計の方を見て時刻を確認する。時計は8:40を過ぎようとしていた。
「ヤッバ! 完全に遅刻じゃん!」
物凄い勢いで飛び起きた。
ちょっと、お母さんってば何やってんの!? どうして起こしてくれないワケ!? あなたの娘が、学校で恥をかくんですよ?
娘を起こしてくれない薄情な母に軽く怒りを燃やす私だが、すぐにハッと我に返った。
見慣れない部屋。見慣れない家具。ここは、私の家じゃない……。
ああ、そうだったよ……、私、今、異世界にいるんだっけ……。
そんな現実に落胆しつつ、学校の制服に着替える。こんなもの着たくはないが、何の準備もなく(っていう言い方も変だけど)異世界に来てしまったのだから仕方ない。
さて、これからどうしよう? まあ、とりあえず、アレックスかクリムベールちゃんを捜すとしようか。そう決めて部屋を出た。
二人はどこにいるんだろう? 適当に屋敷内を捜していく。こんなに広い屋敷なのに、住んでいるのは二人だけなんて……。家人を捜すのも一苦労だ。
談話室に顔を出してみる。予想通りというか、そこには誰も居なかった。
にしても広い部屋だ。何畳くらいあんだろ。あの壁の絵とかも高価そう。なんか私がここにいるのって、場違いって感じ。
談話室を出た次は食堂だ。そういえば、おなか空いてきたな……。
食堂に入ると何とも美味しそうな匂いが漂っている。どうやら奥の厨房からだ。遠慮がちに厨房をのぞく。
厨房では、クリムベールちゃんが何やらお鍋をかき回していた。
「おはよう、ユウコちゃん。良く眠れた?」
「おはよ。うん、おかげさまで」
「おなか空いてるでしょ? すぐ用意するからね」
クリムベールちゃんはそう言って小さなフライパンを取った。
すると、催促するかのように私のお腹がきゅる~んと一鳴き。恥ずかしくて顔が熱くなった。
「ふふふ、美味しいの作るからね♪」
クリムベールちゃんは楽しそうにくすくす笑う。その様子が可愛いこと可愛いこと。
程なくして、クリムベールちゃんは朝食を持ってきてくれた。
トースト、ふわふわプレーンオムレツ、グリーンサラダ、ミルクという、理想的な朝食だ。そのどれもがやっぱり美味しい!
材料のほとんどが自給自足で、パンもドレッシングも手作りだとか。
「ごちそうさまでした。もう、すっごく美味しかった! 昨日の晩御飯の時も思ったけど、クリムベールちゃんって、料理上手なんだね~」
「ありがと♪ あたし、食いしん坊だからね。お料理も大好きなの」
「アレックスってこんな美味しい料理を毎日食べてるんだ。あいつ、何気に幸せ者だね」
「ううん、アレックスはあんまり御飯は食べないよ」
「そうなの? 昨日は一緒に食べてたけど?」
「昨日アレックスが御飯を食べてたのは、召喚儀式をして魔力をいっぱい使っちゃったからだと思うよ。御飯を食べると、魔力の回復が早くなるから。エルセノアってね、空気中の魔力を吸収して生きてるから、普段は食べ物を食べなくても大丈夫なんだ。……あたしは食べることが好きだから、御飯食べてるけど」
「へえ~、そうなんだぁ」
なんだかよくわからないけど、それって植物の光合成みたいなモン? なんか違うか……。でも、こんな美味しい料理を食べないなんてもったいない話だ。
「あ、そうだ! ねえ、ユウコちゃん、今日はカラミンサに行こ。案内するよ」
「カラミンサ?」
「すぐ近くの街だよ。ユウコちゃん、この辺のこと知らないでしょ?」
「あーそうだね。じゃあ、お言葉に甘えてお願いしようかな」
確かに、私はこの世界のことは何も知らない。現地の人が案内してくれるのは都合がいいだろう。
出かけることを伝えるため、私達はアレックスの書斎に向かった。
「入るよー」
クリムベールちゃんは返事も待たずに書斎のドアを開ける。
書斎には窓がなく、全体が薄暗い。多くの書架で埋められており、蔵書量は半端じゃない。書架だらけであるにもかかわらず、それでも本の数が多過ぎて、そこかしこに本の山が作られている。アレックスが向かっているデスクにも、大量の本が積まれている状態だ。
「なんだ?」
こちらを見ようともせず、アレックスは短く答えた。視線はずっと読んでいる本に落とされたままだ。
視力が悪いのかな? 眼鏡を掛けている。そういや昨日、私の教科書とかを見せた時も掛けてたっけ。ふ~ん、結構似合うんじゃない? ま、ロートレックさん程じゃないけど。あの人の眼鏡の似合いっぷりは半端じゃない。“眼鏡男子”って、あの人のためにあるような言葉だよ。
「今からユウコちゃんと、カラミンサに行ってくるね」
「ああ」
アレックスはやはり本に目を落としたまま短く答える。
「あっ、そーだ! アレックスも一緒に行こうよ?」
小さな手をパチンと叩き、クリムベールちゃんはそう提案する。
「断る。私は日中は出歩きたくない。日差しが苦手だと何度説明させたら気が済むんだ」
「今日は曇りだもん。ねえ、いいでしょいいでしょ?」
クリムベールちゃんは可愛らしくお願いする。その可愛らしさは男ならイチコロといった感じだ。だが、アレックスは、
「しつこいぞ。お前達二人で行けばいいだろう」
相変わらず本に目を落としたまま、にべもなくクリムベールちゃんのお願いを突っぱねた。
「む~、アレックスのバカ! いいもん、じゃあ今度、街のお兄さん達に『一緒に遊ぼ』って言われたら、ついてっちゃうから!」
うは! それってナンパされたらついてくってコト? ってか、しょっちゅうナンパされてんの? まあ、クリムベールちゃん可愛いもんね。
「お前という奴は……。私を脅迫するつもりか?」
ここでようやくアレックスは顔を上げ、クリムベールちゃんを見据える。その顔はやっぱり無表情で、怒っているのかどうかわかりづらい。
「ついてっちゃうもん! ついてくとね、イケないコトいっぱいされちゃうんだって! いいの? あたし、街のお兄さん達にイケないコトされちゃうんだよ? 酒場のおねーさんが言ってたもん! どんなコトされるかっていうと……」
ぎゃあーッ! クリムベールちゃん! いきなり、なんてコト言い出すの!
「わかった、わかった。……仕方ない、少しだけなら付き合ってやる」
「わーい! アレックス大好き♪」
クリムベールちゃんの爆弾発言が効いたのか、アレックスは渋々と言った感じで承諾した。そんなアレックスにクリムベールちゃんは無邪気に抱きつく。なんていうか、親子みたいだなぁ。
☆★☆
「おい、大丈夫か?」
手を膝につき、息を整えている私にアレックスは淡々とした調子で訊いてきた。
「な……、なんとか……」
それだけを答えるのが精一杯だ。それもそのはず、このカラミンサという街に来るのに、たっぷりと三時間は歩いたからだ。それだけではない。アレックスの屋敷は“テッセンの森”という場所にあるんだけど、その森がめちゃくちゃ深い上に人の手が加わってないもんだから、想像を絶する程の悪路。そんな道を歩いてきたので、ただ歩く以上に疲れてしまったというわけだ。
「これしきの距離で、だらしない奴だ」
へばっている私にアレックスは冷たく侮蔑の言葉を投げつけてきた。
「ちょっ! そんな言い方ないでしょ!? 地球にいた頃は、こんなに歩いたことなかったんだもん! 大体そういう必要もなかったし!」
学校も徒歩で十分くらいの距離だったし、長距離移動は普通に電車やバスだったしね。今考えると私、一時間以上歩いたことって滅多になかったんじゃない?
「刃向かう元気があるなら大丈夫だな。では行くぞ」
アレックスは一人でさっさと歩きだした。まったく、ホント自分勝手な奴だ。
うっすら目を開け、時計の方を見て時刻を確認する。時計は8:40を過ぎようとしていた。
「ヤッバ! 完全に遅刻じゃん!」
物凄い勢いで飛び起きた。
ちょっと、お母さんってば何やってんの!? どうして起こしてくれないワケ!? あなたの娘が、学校で恥をかくんですよ?
娘を起こしてくれない薄情な母に軽く怒りを燃やす私だが、すぐにハッと我に返った。
見慣れない部屋。見慣れない家具。ここは、私の家じゃない……。
ああ、そうだったよ……、私、今、異世界にいるんだっけ……。
そんな現実に落胆しつつ、学校の制服に着替える。こんなもの着たくはないが、何の準備もなく(っていう言い方も変だけど)異世界に来てしまったのだから仕方ない。
さて、これからどうしよう? まあ、とりあえず、アレックスかクリムベールちゃんを捜すとしようか。そう決めて部屋を出た。
二人はどこにいるんだろう? 適当に屋敷内を捜していく。こんなに広い屋敷なのに、住んでいるのは二人だけなんて……。家人を捜すのも一苦労だ。
談話室に顔を出してみる。予想通りというか、そこには誰も居なかった。
にしても広い部屋だ。何畳くらいあんだろ。あの壁の絵とかも高価そう。なんか私がここにいるのって、場違いって感じ。
談話室を出た次は食堂だ。そういえば、おなか空いてきたな……。
食堂に入ると何とも美味しそうな匂いが漂っている。どうやら奥の厨房からだ。遠慮がちに厨房をのぞく。
厨房では、クリムベールちゃんが何やらお鍋をかき回していた。
「おはよう、ユウコちゃん。良く眠れた?」
「おはよ。うん、おかげさまで」
「おなか空いてるでしょ? すぐ用意するからね」
クリムベールちゃんはそう言って小さなフライパンを取った。
すると、催促するかのように私のお腹がきゅる~んと一鳴き。恥ずかしくて顔が熱くなった。
「ふふふ、美味しいの作るからね♪」
クリムベールちゃんは楽しそうにくすくす笑う。その様子が可愛いこと可愛いこと。
程なくして、クリムベールちゃんは朝食を持ってきてくれた。
トースト、ふわふわプレーンオムレツ、グリーンサラダ、ミルクという、理想的な朝食だ。そのどれもがやっぱり美味しい!
材料のほとんどが自給自足で、パンもドレッシングも手作りだとか。
「ごちそうさまでした。もう、すっごく美味しかった! 昨日の晩御飯の時も思ったけど、クリムベールちゃんって、料理上手なんだね~」
「ありがと♪ あたし、食いしん坊だからね。お料理も大好きなの」
「アレックスってこんな美味しい料理を毎日食べてるんだ。あいつ、何気に幸せ者だね」
「ううん、アレックスはあんまり御飯は食べないよ」
「そうなの? 昨日は一緒に食べてたけど?」
「昨日アレックスが御飯を食べてたのは、召喚儀式をして魔力をいっぱい使っちゃったからだと思うよ。御飯を食べると、魔力の回復が早くなるから。エルセノアってね、空気中の魔力を吸収して生きてるから、普段は食べ物を食べなくても大丈夫なんだ。……あたしは食べることが好きだから、御飯食べてるけど」
「へえ~、そうなんだぁ」
なんだかよくわからないけど、それって植物の光合成みたいなモン? なんか違うか……。でも、こんな美味しい料理を食べないなんてもったいない話だ。
「あ、そうだ! ねえ、ユウコちゃん、今日はカラミンサに行こ。案内するよ」
「カラミンサ?」
「すぐ近くの街だよ。ユウコちゃん、この辺のこと知らないでしょ?」
「あーそうだね。じゃあ、お言葉に甘えてお願いしようかな」
確かに、私はこの世界のことは何も知らない。現地の人が案内してくれるのは都合がいいだろう。
出かけることを伝えるため、私達はアレックスの書斎に向かった。
「入るよー」
クリムベールちゃんは返事も待たずに書斎のドアを開ける。
書斎には窓がなく、全体が薄暗い。多くの書架で埋められており、蔵書量は半端じゃない。書架だらけであるにもかかわらず、それでも本の数が多過ぎて、そこかしこに本の山が作られている。アレックスが向かっているデスクにも、大量の本が積まれている状態だ。
「なんだ?」
こちらを見ようともせず、アレックスは短く答えた。視線はずっと読んでいる本に落とされたままだ。
視力が悪いのかな? 眼鏡を掛けている。そういや昨日、私の教科書とかを見せた時も掛けてたっけ。ふ~ん、結構似合うんじゃない? ま、ロートレックさん程じゃないけど。あの人の眼鏡の似合いっぷりは半端じゃない。“眼鏡男子”って、あの人のためにあるような言葉だよ。
「今からユウコちゃんと、カラミンサに行ってくるね」
「ああ」
アレックスはやはり本に目を落としたまま短く答える。
「あっ、そーだ! アレックスも一緒に行こうよ?」
小さな手をパチンと叩き、クリムベールちゃんはそう提案する。
「断る。私は日中は出歩きたくない。日差しが苦手だと何度説明させたら気が済むんだ」
「今日は曇りだもん。ねえ、いいでしょいいでしょ?」
クリムベールちゃんは可愛らしくお願いする。その可愛らしさは男ならイチコロといった感じだ。だが、アレックスは、
「しつこいぞ。お前達二人で行けばいいだろう」
相変わらず本に目を落としたまま、にべもなくクリムベールちゃんのお願いを突っぱねた。
「む~、アレックスのバカ! いいもん、じゃあ今度、街のお兄さん達に『一緒に遊ぼ』って言われたら、ついてっちゃうから!」
うは! それってナンパされたらついてくってコト? ってか、しょっちゅうナンパされてんの? まあ、クリムベールちゃん可愛いもんね。
「お前という奴は……。私を脅迫するつもりか?」
ここでようやくアレックスは顔を上げ、クリムベールちゃんを見据える。その顔はやっぱり無表情で、怒っているのかどうかわかりづらい。
「ついてっちゃうもん! ついてくとね、イケないコトいっぱいされちゃうんだって! いいの? あたし、街のお兄さん達にイケないコトされちゃうんだよ? 酒場のおねーさんが言ってたもん! どんなコトされるかっていうと……」
ぎゃあーッ! クリムベールちゃん! いきなり、なんてコト言い出すの!
「わかった、わかった。……仕方ない、少しだけなら付き合ってやる」
「わーい! アレックス大好き♪」
クリムベールちゃんの爆弾発言が効いたのか、アレックスは渋々と言った感じで承諾した。そんなアレックスにクリムベールちゃんは無邪気に抱きつく。なんていうか、親子みたいだなぁ。
☆★☆
「おい、大丈夫か?」
手を膝につき、息を整えている私にアレックスは淡々とした調子で訊いてきた。
「な……、なんとか……」
それだけを答えるのが精一杯だ。それもそのはず、このカラミンサという街に来るのに、たっぷりと三時間は歩いたからだ。それだけではない。アレックスの屋敷は“テッセンの森”という場所にあるんだけど、その森がめちゃくちゃ深い上に人の手が加わってないもんだから、想像を絶する程の悪路。そんな道を歩いてきたので、ただ歩く以上に疲れてしまったというわけだ。
「これしきの距離で、だらしない奴だ」
へばっている私にアレックスは冷たく侮蔑の言葉を投げつけてきた。
「ちょっ! そんな言い方ないでしょ!? 地球にいた頃は、こんなに歩いたことなかったんだもん! 大体そういう必要もなかったし!」
学校も徒歩で十分くらいの距離だったし、長距離移動は普通に電車やバスだったしね。今考えると私、一時間以上歩いたことって滅多になかったんじゃない?
「刃向かう元気があるなら大丈夫だな。では行くぞ」
アレックスは一人でさっさと歩きだした。まったく、ホント自分勝手な奴だ。
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