ありがちな異世界での過ごし方

nami

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第2話 街へ出掛けよう

2 魔術学院を見学

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 三人でカラミンサの街を歩いていく。
 石畳に煉瓦造りの建物が多く、何だか地球のヨーロッパの方に雰囲気が似ている気がする。行ったことないけどさ、ヨーロッパの方って。そもそも海外に行ったことがない……。
 街には人間の他にも様々な種族がいて、それが当たり前のように生活しているようだ。

「あの大きな建物は何?」

 一際立派な煉瓦造りの建物を指した。

「あれは、王立・フロックス魔術学院だ」

「それって、魔法使いになるための学校ってこと?」

「まあ、そうだな」

「へ~」

 感心して学院を眺めていると、

「自由にケンガクできるんだよ。行ってみる?」

 クリムベールちゃんが教えてくれた。

「ホント!? うん、行きたい、行きたい!」

「おい、見学はまたの機会にしろ。さっさと街を回るぞ」

 めんどくさそうにアレックスが引き止めにかかる。

「え~? いいじゃん、少しくらい」

 あからさまに不満げな顔を作り食い下がってみる。

「そうだよ。ユウコちゃん行きたいって言ってるんだし、ちゃんと案内しなきゃ」

 クリムベールちゃんが味方についてくれる。

「別に学院の中まで案内する必要はないだろう。日常生活に直接関わる場所ではないのだからな」

「う、それはそうなんだけど……」

 もっともなことを言われてしまい、反論の余地がなくなってしまった。

「アレックスの意地悪! ユウコちゃん、行きたいって言ってるのに! 行っちゃダメって言うなら、今度、学院のお兄さんに『家に遊びにおいで』って誘われたら、ついてっちゃうからね?」

 またもクリムベールちゃんはアレックスを脅す。

「なんだと? あの学院にそんなことを抜かす痴者がいるのか? 一体どこのどいつだ?」

 アレックスの表情がどことなく険しいものになる。

「教えないもん! 教えたらアレックス、そのお兄さんにヒドイことしちゃうでしょ!?」

「そんなことはしない。厳重注意をするだけだ」

「ゲンジューチューイって、大鎌を首に当てて脅かすことなの!?」

 げっ! こいつってばそんな過激な行動に乗り出しちゃうワケ!? そんなにクリムベールちゃんが大事?

「……ねえ、もしかして二人って恋人同士だったする?」

 つい訊いてしまった。

「何を言っているんだ。そんなわけないだろう」

 私の問いにアレックスは真っ向から否定する。

「うわ~、速攻で否定するとこがかえって怪しい……」

 じとーっと疑いの眼差しでアレックスを見る。

「怪しいも何も、そういう事実はない。まったく、女というのは本当にその手の話題が好きなんだな」

 アレックスはやれやれといった感じにかぶりを振る。

「じゃあ、二人の関係って一体何なの? 名字が違うわけだから兄妹じゃないだろうし」

「どうだっていいだろう。私達は理由あって一緒に暮らしているというだけの話だ。余計な詮索などせず、もっと別のことに頭を働かせたらどうだ。お前のノートを見る限り、成績の方は芳しいとは言えんようだったしな」

「う、うっさいな! 私の成績のことはほっといてよ!」

 痛い所を突かれ軽く狼狽える。

「それで、学院に行ってもいいでしょ?」

 脱線してしまった話をクリムベールちゃんが半ば強引に戻した。

「……どうせ、反対したところでお前は引き下がらんだろう。仕方ない、ざっと見て回るだけだからな」

「うん! よかったね、ユウコちゃん」

 クリムベールちゃんは愛くるしい笑顔を私に向けた。
 学院の門をくぐり、受付で手続きを取った。手続きといってもなんてことはない。用紙に名前を書いて、見学者用のバッジを受け取るだけだ。

「う~ん、ここが魔法を習う学校なんだぁ」

 興奮気味に、辺りをきょろきょろと見回す。校内は、マントをまとい、その手には杖やホウキという、いかにも魔法使いといった風貌の少年少女が行き交っている。
 私達の目の前を、大魔法使いといった風格を漂わせるお爺さんが通り過ぎていった。

「わ、今のお爺さん、もしかして学院長先生かな?」

「いや、彼は……」

 アレックスが口を挟んだ時だった。
 お爺さんは、三十代半ばくらいの男性に呼び止められ、

「ソラナムさん、実験レポートの提出はまだですか? あなた、昨日も忘れてきたでしょう?」

「おお、すんませんのぅ。今日も持ってくるのを忘れてしもうたわい」

「はぁ、またですか? 早く提出しないと、単位はあげられませんからね?」

「ほいほい、明日には必ず持ってきますからのぅ」

「……本当に大丈夫ですか? このやり取り、かれこれ半年くらい続けていると思うんですが……」

「大丈夫じゃよ。ほんに婆さんは心配性だのぅ。そんなことでは長生きできんぞい」

「いや、私はあなたの奥さんじゃありませんから……」

「ところで婆さんや、わし、朝飯は食ったかのぅ?」

「知りませんよそんなこと……。本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。それじゃあ、わしはポチの散歩に行かねばならんからの」

 そう言って、ソラナムという名のお爺さんは去っていった。
 そんなやり取りを目の当たりにして、私はポカンとするしかない。

「見ての通り、あの御老人はこの学院の生徒だ」

 突っ込みどころ満載であるにもかかわらず、アレックスはしれっと言い切った。

「いや、生徒って……。私にはボケちゃったお爺さんにしか見えなかったんだけど……。徘徊してて迷い込んできたんじゃないの?」

「失礼なことを言うんじゃない。教師からレポートの提出を求められていただろう。まあ、確かに少々もうろくしている部分もあるが、あれでなかなか優秀な生徒なんだぞ」

「優秀な生徒って……、あれのどこが!? どこからどうみても、完全にボケちゃったお爺さんだったじゃん! だって、先生のこと婆さん呼ばわりしてたし、朝御飯を食べたかどうかも定かじゃなかったんだよ!? っていうか、何でアレックスが、そんなこと知ってるの?」

「アレックスはね、時々この学院で先生やってるからだよ」

 クリムベールちゃんが教えてくれた。

「え、そうだったの? ふ~ん、あんたが先生……ね」

「なんだ、その不審者でも見るような目は?」

「いや、あんた、性格も口も悪いからさ」

「……それはどういう意味だ?」

「あんたの授業を受ける生徒が可哀想ってことだよ」

 私の言葉にアレックスは反論しそうな感じだが、口を開く隙を与えることなく私は言葉を続ける。

「ねえ、先生やってるならこの学院のこと、それなりに詳しいんでしょ? お勧めの面白スポットってどこ?」

「なんだそれは……。ここは娯楽施設ではない。ざっと一回りしたらとっとと出るぞ」

 アレックスは呆れたように言うと一人でさっさと先に進む。
 学院の中を回っていく。普通の教室みたいな部屋や、魔法の実技を行う部屋、薬などを調合する部屋があり私の興味はつきない。

「わわっ、カエルとウサギが合体して、キモカワな生き物になっちゃった! すっご~」

 とある教室の授業風景を見た私の感想だ。

「あら、アレックスさん。今日は講義の依頼を出していないと思いましたけど?」

 幼い声でそう呼びかけられた。視線を向けると、おさげ髪の十歳になるかならないかといった感じの少女の姿が。

「いや、今日は見学者として来たのだ。こいつらがどうしても見学したいと喚くのでな」

 アレックスは尊大に私とクリムベールちゃんを顎でしゃくった。

「そうでしたか。あなたは初めてお目にかかるわね。カルミア=フロックスよ。当学院のまとめ役をしているわ」

「あ、こちらこそ、初めまして。田中有子です。…って、ええっ! まとめ役って……、あなたが学院長先生!?」

 驚愕のあまり、仰け反って叫んだ。

「おい、失礼だろう」

 すかさず、アレックスがたしなめてくる。

「いいんですよ、アレックスさん。事情を知らない方が聞いたら、驚くのが普通の反応ですもの」

 カルミアちゃん……いや、カルミアさんは微笑んで穏やかにアレックスを制する。
 カルミアさんの実際の年齢は七十八歳だそうだ。それなのになぜ子供の姿なのか? 人間ではないから? それは違う。彼女は人間だという。子供の姿をしているのは、数年ほど前にカルミアさんをライバル視する魔法使いに呪いをかけられたせいらしい。その呪いをかけた魔法使いは、その後すぐに死んでしまい、施術者がいなくなってしまった今となっては呪いを解く術がないのだそうだ。

「じゃあ、永遠にその姿のままってことなんですか?」

「ええ、そうよ」

「それは、その……お気の毒ですね……」

「大丈夫よ。それに、この姿になってからは、長年悩まされてた腰痛が解消したんですもの。悪いことばかりではないわ」

 カルミアさんはそう言って穏やかに微笑んだ。

「しかし、あなたに会う度に思うのだが、その呪いをかけたという術者も存外間抜けだな。ただ子供の姿に戻すだけでは温いだろう。私なら、醜い魔物の姿に変えるくらいはしてやるが。それこそ死ぬほうがよほど幸福だと思わせるほどのな」

 アレックスの極悪非道な発言を聞いて私は凍りついた。なんなのこいつ!? 涼しげな顔して、何真っ黒な台詞吐いてんの!? 発想が悪そのものなんだけど! 死神っぽいって思ってたけど、実は悪魔!? ってか、魔王!? っつーかその発言、カルミアさんに対して超絶に失礼過ぎるだろ! 口を慎め、コラッ!

「ふふ、相変わらず手厳しいですね。彼にアレックスさん程の聡明さがなかったことを感謝しなくては」

 カルミアさんは特に気分を害した様子はなく、穏やかにアレックスの鬼畜発言を受け止める。う~ん、寛大な人だ。私も将来、こういう人になりたいなぁ。
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