ありがちな異世界での過ごし方

nami

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第2話 街へ出掛けよう

3 深緑の翼亭でお昼御飯

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 フロックス学院の見学を終え、私達は再び街を巡り始める。今度は、真っ白い宮殿みたいな建物が見えてきた。

「あれお城?」

「いや、王立図書館だ」

「へえ、あれがそうなのか~」

 確かロートレックさんが働いてるんだよね? 司書をしてるって言ってたし。あの人、いるのかな?

「ちょっと行ってみたいな」

「好きにしろ」

 どうせ反対しても自分が折れるしかないと悟ったのか、アレックスはあっさりと承諾してくれた。
 足取り軽やかに図書館に入る。中は物凄く広くて驚いた。
 受付には数十人の司書がいて、ロートレックさんもその中にいた。昨日は真っ白な服装だったけど、今は勤務中なので制服と思われる服を着ている。ベージュをベースカラーにした、ちょっと風変わりなスーツのような服だ。うん、よく似合ってる♪ ってか、この人は何を着ても似合うよね、きっと。

「おや、皆さん、お揃いで。一体どうしたのです?」

 ロートレックさんは穏やかな微笑を作る。その上品な笑顔に思わず見とれる。それに、やっぱり声がいい。柔らかい響きでほわ~っと癒されるんだよね。

「どうもこうもない。私はこの馬鹿どもに引っ張り出されて来ただけだ」

 アレックスは淡々とした調子で悪態を吐く。っていうか、馬鹿どもって、もしかして私も含まれてる? 誘ったのはクリムベールちゃんだけだよ!? 私は別にあんたなんかいなくてもよかったんだからね!

「今日はね、ユウコちゃんにカラミンサを案内してるの」

 馬鹿呼ばわりされたことなど気にすることなく、クリムベールちゃんは無邪気に説明した。

「なるほど、そうでしたか」

ここで、またまた私のお腹の虫が『きゅる~ん』と鳴き始めた。

「あっ……!」

「……お前、その腹の中には、本当に“腹の虫”とやらが住み着いているのではないか?」

 アレックスが呆れたように指摘した。

「おやおや、お腹が空いているのですか?」

 ロートレックさんがくすくすと笑う。
 館内は静かなので、周りにも聞こえてしまったようだ。他の司書さん達も遠慮がちに笑っている。私の顔は瞬く間に熱を帯びる。うう、穴があったら入りたいという言葉は、こういう時に使うのか……。

「僕、あと少しで昼休みなんですけど、よかったらお昼一緒にどうです? ご馳走しますよ」

「いや結構だ。適当に街を回ったらすぐに帰るのでな。第一、二日連続で、お前と食事などしたくない。本当は面を拝むのも嫌だったのだからな」

 空気も読まずにアレックスが即答した。ってか、その言い種! 何でそんな酷い言い方するワケ!? ロートレックさんって友達じゃないの!?

「アレックス、ヒドイ! どうしてそんな言い方しかできないの!? ロートレックさんには、いっぱいお世話になってるっていうのに!」

 クリムベールちゃんが怒りを露わにして、ロートレックさんを庇う。

「いいんですよクリムベールさん。彼とは付き合いも長いですからね。辛辣な物言いは、愛情の裏返しだと理解しています」

 ロートレックさんは天使の笑みでクリムベールちゃんをなだめる。

「気色悪いことを抜かすな。お前のそういうところが嫌いなんだ」

「しかしアレックス、僕はあなたではなく、ユウコさんに訊いたのですよ?」

 ロートレックさんは天使の笑みを維持したまま、ちくりと指摘した。こう言われてはアレックスも黙るしかない。

「どうですか、ユウコさん?」

 ロートレックさんは改めて私に訊ねる。

「いいんですか? はい! ぜひ、お願いします!」

 やったね、ロートレックさんと御飯だ~♪


 ☆★☆


 みんなで向かった先は、表通りに建っている一軒の酒場。名前は“深緑の翼亭”。なんでも昼はランチも出しているらしい。
 店内は木材の温かみを活かした質素な造りだ。古そうだけど、よく手入れをされているみたいで清潔感がある。

「おう! いらっしゃい! カウンター席にでも着いてくれや」

 威勢のいい声で迎えてくれたのは、身長二メートル超えの大男。思わずギョっとなる。
 筋肉質の逞しい体格にツルツルに禿上がった頭。パッと見は何だか怖そうだけど、目は優しげな感じだ。名前はバンダさん。パンダじゃないよ? バ・ン・ダ。タイタロープスという、巨人の血を引く種族の人なんだって。

「マスター、日替わりランチを三つお願いします。アレックス、あなたはどうしますか?」

「いらん。マスター、コーヒーを頼む。ブラックでな」

 二人は慣れた感じでそれぞれ注文をする。

「アレックスさん、珍しいじゃねえか。こんな時間に来るなんてよ」

 バンダさんは注文の品を用意しながらアレックスに話しかける。

「ああ、そこの馬鹿娘二人に連れ出されてな……」

 アレックスはまたも私とクリムベールちゃんを顎でしゃくって毒づいた。なんか馬鹿どもから馬鹿娘に変わってるし。そして、やっぱり私も含まれているみたいだ。ま、別にいいんですけどね。

「はいよ、お待ち!」

 バンダさんの威勢のいい声とともに、注文の品が目の前に置かれた。カレーに似ているけど少し違う。一口食べるとほっぺたが落ちそうなくらいの美味しさ!

「うわぁ、美味しい!」

「そうでしょう? 喜んでもらえたようで、良かったです」

 ロートレックさんは嬉しそうに微笑む。

「そういや、こっちの嬢ちゃんは見たことねえなぁ。なんて名前だい?」

「えっと、有子です。田中有子っていいます」

「タナカユウコ? 変わった名前だな。それに格好も変わってるし……。もしかして、よその国の人かい?」

「あ、それは……」

 私は地球から召喚されたことなどを説明した。

「おお、するってえと、ユウコちゃんは、そのチキュウとやらに帰る方法を見つけなきゃいけねえわけか……。若えのに大変だな。まあなんだ、俺じゃ役に立たねえかもしんねえけど、困ったことがあったら遠慮なく相談してくれよな。あ、でも、そばにその二人がいるってなら、そんな必要もないか?」

 バンダさんはそう言って豪快に笑った。話してみるととても親切で気のいいおじさんだ。

「うるさいねぇ、何をそんなに馬鹿笑いしてんだい!」

 奥から恰幅のいいおばさんが現れた。やたら体格がいいので、この人もタイタロープスのようだ。

「俺のカミさんだよ」

 バンダさんが教えてくれた。

「おや、みんなで珍しいねぇ。ん? この子は新顔だね」

 私はバンダさんにしたように、自己紹介と置かれている状況を説明した。

「まあ、それは可哀想に。けど、この二人は頼れる男だよ。必ずチキュウに帰る方法を見つけてくれるさ。……ああそうだ、あんたくらいの女の子だったら、男に相談しづらいこともあるだろうね。そういう時は、遠慮なくアタシに言いなね」

「はい、ありがとうございます」

 なんて良い人達なんだろう。その温かい心遣いが嬉しい。
 食事も終わり、食後のお茶を貰う。ふぃ~、お腹いっぱいだよ。
 隣のクリムベールちゃんは、“クリームタワー”という、高さ四十センチはあろうかと思われる巨大なパフェを、嬉しそうに食べている。自分で食いしん坊って言ってたけど、ほんと良く食べるなぁ。今さっき食べたランチもかなりの量だったのに……。ってか、そんだけ食べてよく太らないね。エルセノアっていっぱい食べても太らないのかな?

 ロートレックさんは昼食を食べ終わってすぐに、昼休みが終わるからと図書館に帰ってしまった。残念。もっとお話したかったな。ちなみにロートレックさんは帰り際、ちゃんと私達三人分のランチの代金を払っていった。ロートレックさーん、そんなのみんな、アレックスの奴に払わせればよかったんですよ。あんなでかい屋敷の主だもん。ランチ代くらい巻き上げても罰は当たりませんって。

「それはそうと、アレックスさんよ、最近エルダーの店には行ったかい?」

「いや、最近は顔を出していない。彼がどうかしたのか?」

「あいつ、とうとう手に入れやがったんだ。エリンシム地方の、あの“幻の銘酒”をよ」

「ほう、あの五十年に一度、市場に三本しか出回らないという“リラ・ローゼ”とかいう酒のことか?」

「おう、それそれ! あんたに売るんだって息巻いて、他の連中には売る気ないみたいだぜ」

「なぜだ?」

「あんたは、あいつの曾祖父さんの代からのお得意様だから、優遇したいんだとよ。あいつの義理堅さは半端じゃねえからな。どっかの貴族が破格の金額で交渉した時も、迷うことなく突っぱねたって話だぜ。当然、俺も断られちまった。……なぁ、買いに行ってやれよ」

「そうか。ならば、後ほど行ってみるとしよう。……有り難い話だと思うが救い難い馬鹿だな、あいつは。私に売ろうとせず、その貴族にでも売れば、今頃富豪になっていただろうに。奥方が気の毒でならんな」

「まあな~。やっぱそのことで、すっげえ派手な夫婦喧嘩になったらしいぜ。噂じゃ、あいつ半殺しにされて、家が半壊したって話だ。……どこまでホントかわかんねえがよ。まあ、最後は和解して丸く収まったらしいけどな」

「そうか、それはよかった。しかし、そんな殺人事件になっていたかも知れん夫婦喧嘩の原因に、知らない間に私も関わっていたとは…。なんとも複雑な気分だな。正直滅入る」

「おいおい、あくまでも噂だぜ? 大体、あの虫も殺せねえような顔した奥さんが、そんなことすると思うか? どうせ、どっかのバカが面白おかしく尾ひれを付けたに決まってらあ! あんま、気にしなさんな」

「ああ、そうだな」

 そんな会話がアレックスとバンダさんの間で交わされた。ずいぶんと親しげな感じだ。ってか、こいつが普通に喋ってたのが驚き。だって、いつも刺々しい物言いしかしないイメージがあるし。そんなことを考えながらアレックスを見ていると、

「私の顔に何か付いているのか? ……私を指摘する前に、まずは自分の顔を確認するんだな。口の端にさっき食べていた昼食のソースが付いているぞ」

 アレックスは手首をくるっと回して手鏡を出現させると、私の顔の前に差し出した。ゲッ、ホントだ! しかも、結構目立つように付いてるしっ!
 私は慌てて紙ナプキンを取り、きれいに拭き取った。

「まったく、幼児と同レベル、もしくはそれ以下だな」

 アレックスはやれやれといった感じに毒づいた。やっぱりこいつは、私に対してはこんな言い方しかしない。

「う、うっさい! 何それ、幼児以下っていったら赤ちゃんじゃん!」

「お前など、私から見れば赤子同然だ」

 二杯目のコーヒーに口をつけながら、アレックスはまたも毒づく。

「……まあ、そうだよね~。あんた、千年以上生きてるんだしね。じゃあ、あんたは超若作りのじーさんってことでいいよね?」

 言われっ放しでは悔しいので、たっぷりと皮肉を込めて応酬する。

「黙れ。赤子は赤子らしく、ミルクでも飲んで、おとなしくしているんだな」

 アレックスは手鏡を出した要領で、今度は瓶入りの牛乳を出して私の前に置いた。

「何これ? 別に飲みたくないんだけど……」

「まあ飲んでおけ。お前、歳の割には背が低いしな。実年齢が十五と知るまで、せいぜい十二くらいだと思っていた」

 うっ、何気に気にしてることを……! キャップを外しながらアレックスを睨み付けてやった。

「はっはっは! ユウコちゃんもやるなぁ! 俺、アレックスさんがクリンちゃん以外の女の子と軽口叩き合うの、初めて見たぜ」

「そうなんですか? ってか、クリンちゃんって?」

「クリムベールちゃんのことだよ。街のみんなはその子のこと、クリンちゃんって呼んでるんだぜ」

 バンダさんはクリムベールちゃんを指す。
 クリムベールちゃんは、今度は直径五十センチはある“大判ホットケーキ”なるものを美味しそうに食べている。
 って、いくらなんでも食べ過ぎでしょ! もうこれは、食いしん坊なんて可愛い言い方じゃ済まされないよ!?
 でもまあ、クリンちゃんか。可愛くて呼びやすいし、私も今度からそう呼ぼっと。

 それからしばらくして。

 昼食を終えて大分経つが、アレックスはバンダさんと雑談に花を咲かせ、ここを出る気はないようだ。こいつ……、渋々ついてきたくせに、何ちゃっかり楽しんでんの? まあ、別にいいけどさ。
 クリンちゃんは相変わらず食べることに夢中で、今度は、直径、高さ、共に三十センチはある“バケツプリン”なるものを食べ始めている。
 手持ち無沙汰になった私は店内を観察して暇を潰す。すると、ちょっとした広めのスペースに目が留まった。

「あれってなんですか?」

「ああ、ありゃちょっとした演壇だよ。ここは酒場だからな。夜はあそこで流れの踊り子なんかが、踊ったりしてくれんだ。どうだい? ユウコちゃんも何かやってみるか? もちろんバイト代は出すぜ」

 バンダさんはそう説明して豪快に笑った。

「お、踊りって……、まさか、服を一枚ずつ脱いでいくような……やつですか……?」

 私の言葉にバンダさんは更に豪快に笑い出した。

「お前という奴は……。子供のくせにそういうものをしてみたいのか? しかし、そんな貧相な体つきでは喜ぶ奴もごく一部のマニアくらいだろう。もっとも、ここは健全な店だから下劣な行為は禁じられているがな」

 アレックスが失礼な一言を交えて突っ込んできた。

「ちっ、ちち、違うもん! べっ、別にしたくないよっ! ちょっと勘違いしただけじゃんか! ってゆーか、貧相な体つきで悪かったね。これから成長していくんですよーだ!」

 しどろもどろになって弁解する。

「はっはっは! ユウコちゃんは面白いなぁ。気に入ったぜ。まあ、これからよろしくな」

 バンダさんの豪快な笑い声に見送られ、私達は深緑の翼亭を後にした。
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