ありがちな異世界での過ごし方

nami

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第3話 街に怪盗がやって来た(後編)

1 お詫びに食事に連れていけ

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 翌日。
 既に時刻は18:30を過ぎた頃。
 夕暮れのカラミンサを、私、アレックス、クリンちゃんの三人が歩いていく。

「アレックス、早く早くー!」

 クリンちゃんが待ちきれないといった感じに、アレックスの腕を引っ張る。

「そう逸るな。店は逃げたりしない」

 呆れつつもアレックスはなすがままだ。
 今から食事に向かうところ。もちろん、アレックスの奢りで♪ そのきっかけは当然昨日の怪盗事件である。


 ☆★☆


 昨晩、私達が怪盗に怯えている中、案の定アレックスは深緑の翼亭で飲んでいたのだという。
 それを知って当然私はキ・レ・た。だって、セイボリーさんが助けてくれなかったら、下手すると殺されてたかもしれないんだよ!?

 それでお詫びってことで、こうして食事に連れて行ってくれることになったのだ。
 命に関わるような事態に対して釣り合いが取れてないような気もするが、それはまあ良しとしよう。


 深緑の翼亭の前を通り過ぎた。

「あれ? ここじゃないの?」

 ここで食事をするのだろうと思っていたので、思わず訊いてみた。

「ああ。たまには別の店もいいだろう?」

 たまにはって……、あんた、言うほど外食に連れてってくれてるわけでもないじゃん。そう思ったが、口に出すのは止めといた。

 やってきたのは“万福食堂”という店。

「いらっしゃいまセ~」

 現れたのは私の身長(145センチ)半分程度の小太りのコック。リルトルーモスという小人族の人だ。この店の料理長だという。

「ゲゲッ! あんたら、また来たノ!?」

 アレックスとクリンちゃんを交互に見て、料理長は目を剥いた。

「げげっ、とはご挨拶だな。それが客に対する態度か? 三名だ。速やかに席に案内しろ」

 アレックスは威圧的な態度で料理長を見下ろし、人差し指、中指、薬指の三本を立てて見せる。

「うう、しかも今日は一人多いのカ……」

 私の方をちらりと見て、料理長は恨めしそうに呟いた。よくわからないが全然歓迎されてないらしい。
 席に案内され、早速メニューを見る。写真付でどの料理もとても美味しそうだ。

「これにしようかな、あ、これもいいなぁ。う~ん、迷う~」

「悩むくらいなら両方注文すればいいだろう。というより、全てのメニューを注文するつもりで食え」

「マジで!? アレックスってば超太っ腹じゃん!」

「どれだけ飲み食いしようが、一人二千ディルで片が付くからな、この店は」

 ああ、食べ放題の店か。なるほど、だからあの料理長、アレックスとクリンちゃんの来店を嫌がってたんだね。アレックスは大酒飲みだし、クリンちゃんは大食いだから。この二人なら、それはもう遠慮なく飲み食いすることだろう。

「ご、注文ハ?」

 少々青ざめた顔で料理長がやってきた。料理長自ら注文を取りに来るとは……。偵察も兼ねて、といったところか。

「あのね、とりあえずここからここまで♪」

 クリンちゃんはメニューの端から端をずいーっと指して注文する。その数、およそ二十品。クリンちゃん、いくら何でも注文し過ぎだって……。
 それを聞いて料理長の青ざめた顔色が更に悪くなる。

「いちいち注文するのは面倒だ。この酒を樽ごと持ってこい」

 アレックスの遠慮皆無の注文に料理長の顔色は、もはや死人とほぼ同レベルまでになった。

「あ、あなたハ……?」

 げっそりした料理長は私に訊ねる。

「えっと、これがいいです」

 一品選んでメニューを指した。

「えっ!? 一つでいいノ?」

 心底驚いた様子で料理長は確認する。

「はい、とりあえず。たくさん注文しても食べきれませんし」

 私の言葉に料理長の目からブワっと涙が溢れる。

「そうカ、そうカ。あなたは、いいお客さんダ~」

「は、はあ……」

 いいお客さんって……。普通だと思うんだけどなぁ。この二人が凄いだけだよ。


 すぐに注文の品はやってきた。その味はなかなかのものだ。これで食べ放題は嬉しい。当然、評判もいいのだろう。店内は満席になっている。

「お前、さっきから茄子を避けているな」

 ギクリ。指摘してくるだろうとは思っていたが、こいつも予想を裏切らない。

「う……、これだけは、どうしても苦手なの……!」

「偏食はよくないぞ。だから背が伸びんのだ」

「うっさいな、食べれないのは茄子だけだもん! たった一つの好き嫌いをガタガタ言われたかないよ!」

「おい、よそ見をするな。ほら、袖口にソースが付いてしまったではないか」

「あっ、ヤバッ!」

 慌てて拭き取ったが染みになってしまった。うう、これは洗濯しても落ちないかもしれない……。

「クリムベール、お前もだ。食べることに夢中で口周りが凄まじいことになっている」

「ふぇ?」

 クリンちゃんが顔を上げる。うわ、確かにこれはヒドい! トマトソースやら油のせいで真っ赤っかのテッカテカだ! 可愛いお顔が台無しよ?

「まったく、お前達の面倒を見るのは骨が折れる。まだ赤子の守をしていた方が楽だ」

 アレックスはクリンちゃんの口周りを拭いてあげながら、嫌味ったらしく毒づいた。

「そういえばさ、やっぱ昨日の男が噂の怪盗だったのかな?」

「昼頃にギルドから報告があったのだが、どうもそうらしいぞ。盗品が証拠品として押収されたらしい」

 アレックスが教えてくれた怪盗の正体は、突っ込みどころ満載の奴だった。
 名はマーシュ=アリッサム。カラミンサから東にあるという村の青年で、働くのが嫌で盗人になったという。それも窃盗行為をゲーム感覚でやっていた、どうしようもない馬鹿者である。信条は“働くよりも、まず盗め”だとか……。なんつーか、人として終わってるよね、完全に。

「チャラくて馬鹿そうな感じだったけど、やっぱそいつ、とんでもない馬鹿だね」

「確かに救いようもない愚か者ではあるが、奴の盗賊としての技術は一流らしい。昨日、うちで捕らえなかったら、被害はますます拡大するところだった、と言っていた」

「へ~、そんな大物には全然見えなかったけどなぁ」

「お前という奴は……、まだ人を見かけで判断しているのか。そんな思考が癖になっているようでは、いつか善人面した悪党に足を掬われるぞ。身近な例でいうとロートレックのような奴にだ」

「ちょっと! それ、ロートレックさんに超失礼じゃない!? てかさ、前々から思ってたんだけど、あんた自分の友達をよくそこまで悪く言えるよね!?」

「勘違いするな。奴は友人などではない。ただ、同族のよしみで交流があるだけだ。そうでなければ、あんな男と関わるものか」

 涼しげな顔でひどい台詞を吐くアレックスを、私は思い切り睨みつけてやった。

「スミマセーン! 追加注文でーす!」

 テーブルに備え付けてある呼び鈴をチンチン鳴らしながらクリンちゃんは店員を呼ぶ。やってきたのは、またまたあの料理長。

「今度はここからここ♪」

 クリンちゃんはまたまたメニューの端から端まで指してにっこりと笑った。
 それを聞いて料理長はとうとう卒倒してしまった。



 ☆★☆


 存分に飲み食いして店を出た。
 すっかり夜も更け、空には二つの月と満天の星が煌めいている。
 私の頭の中では、既にカラミンサを騒がせた怪盗のことなど過去のものとして処理されていた。

 そしてまだ知らない。あの怪盗以上に厄介な怪盗が、私達の周りで暗躍していることを。
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