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第8話 廃墟探索という仕事
3 廃墟にまつわるコワ~イ話
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屋敷に帰ると、ちょうどクリンちゃんが夕食の支度を終えたところだったようだ。
「おかえりなさい。用意してくるから座って待っててね」
クリンちゃんはそう言って、厨房へと向かった。珍しいことにアレックスも食堂にいた。
「騒々しい馬鹿三人のご帰還か。この静かな食堂も、あっという間に酔っ払いどもがひしめく居酒屋のような有様になってしまうな」
アレックスがこちらを見て、感じ悪く毒づいてきた。
私達三人はアレックスの悪態を無視して席に着く。程なくして、クリンちゃんが三人分の食事を持ってきた。今夜の献立は私の大好物であるポポ鳥の唐揚げだ。
あ~あ、それなのに、今日はこいつも一緒だなんて……。ちっ! 間の悪い。そもそも、なんで今日に限ってこいつも晩御飯食べてるわけ? いつもめんどくさがって食べないくせに。
「私がいて悪かったな。私がいると食事が不味くなるとでも言いたいのか? 今日は魔力の消耗が激しい実験をしたから、こうして食事をしているんだ」
アレックスは豆のサラダをつつきながら、私に向かって言ってきた。
「なんでいきなりそんなこと言い出すわけ!? あんた、また性懲りもなく、あのナントカって魔法使ったね!? 最近は使わなくなったなって、安心してたのに! 私の許可もなしに使わないでよっ!」
「許可を求めたらお前は怒りだすだろう? 大体、心覘術を使うのに許可を求めるなど聞いたことがない。荒唐無稽もいいところだ。これは密かに使ってこそ、真価を発揮するものなんだからな。そもそも、読まれて困ることを考える方が悪い。それがわかったら、己の浅はかさを反省するんだな」
アレックスは淡々長々と説教じみた言い分を垂れる。こういう時のこいつは何を言っても無駄だ。
反論するのは止め、イライラしながら大好きな唐揚げを頬張った。
「ねえねえ、ユウコちゃん。明日から、サントリナでお祭りがあるの。あたしはお手伝いをしに行くんだけど、よかったら遊びに来ない?」
クリンちゃんが険悪な空気を変えるように誘ってくれた。
「へ~、そうなんだぁ。でも、ごめんね。明日はギルドの仕事があるから行けないや」
「そっか~。残念だなぁ……」
「なんだお前、ギルドの仕事があるというということは、とうとう四つ葉堂を解雇されたのか? まあ、お前八割方が愚鈍だからな。いつかはこうなるだろうと思っていた」
アレックスは勝手に勘違いして勝手に納得する。
「違うよ! ラグラスさんの都合で明日からしばらくお休みなの! ってか、失礼な予想しないでくれる!?」
「それで、一体どんな依頼を請けたんだ? 子守か? 留守番か?」
請けた依頼について教えてあげた。
「お前達……、その貴族の令嬢にしてやられたものだな」
アレックスはフォークを置くと、真剣な眼差しで私達を見据える。
「え? どういうこと?」
私も思わずフォークを置いた。
「明日行くというその廃墟はとんでもない場所だぞ」
「そ、それ、どういう意味?」
私は上擦った声で訊く。
「あそこは、有名な“幽霊屋敷”なんだ」
「ゆ、幽霊屋敷……?」
ゴクリと唾を飲んだ。胃の辺りから、得体の知れない恐怖心がこみ上げてくる。
「なあーんだ。そんなの、よくある話じゃない。だって肝試しに使われるくらいだもの。そういう噂があっても別におかしくないわよ。ね、ケンユウ?」
ノイアさんは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの口振りで、ケンユウさんに同意を求める。
「……ケンユウ?」
返事のないことに訝り、ノイアさんはケンユウさんに視線を向けた。
ケンユウさんはガチャンとフォークを滑らせ、見てはいけないものでも見たような表情で固まっている。その顔色は有り得ないほど蒼白だ。
「ちょっと……、まさかあんた……、こいつの話、真に受けてんじゃないでしょうね……?」
ノイアさんは引きつった顔でケンユウさんの肩をポンと叩く。
「へ!? あ、いや……、そっ、そんなわけねえだろ!?」
ケンユウさんは我に返ると裏返った声で答えた。
「……お前、怪談は駄目な口か?」
アレックスは追い討ちをかけるような質問を繰り出す。
「なっ、なっ、何言ってやがる! そんなわけねえだろ!? 別に俺は、ゆっ、幽霊なんか怖くねえよッ!」
ケンユウさんは否定するものの、その態度は完全に肯定しているようにしか見えない。
「怖がらなくても大丈夫よ。そんなのきっと、面白おかしく創られた低レベルの噂話に決まってるから。幽霊なんていないわよ」
ノイアさんは素っ気なく言って、サラダのプチトマトをつまんだ。
「いや、実はそうとも言い切れんのだ」
「へえ~? 何よあんた? まさか幽霊とか信じてるワケ?」
ノイアさんがせせら笑うように訊ねる。
「なんとも言えんな。だが、幽霊の仕業かはわからんが、実際、あの屋敷に入ったきり、行方不明になった奴が何人かいるんだ」
「……あんた、アタシ達を担ごうとしてない?」
さすがのノイアさんも少し気味悪そうに眉をひそめる。
しかし、アレックスは構うことなく言葉を続けていく。
「まあ、無事に戻ってきた奴もいる。だが、そいつらは皆一様に異常なまでに鏡を恐れるようになり……」
アレックスはここで一度言葉を止めた。そして、充分過ぎるほど間を置いた後、
「一週間と経たずに死んでしまうんだ」
その言葉に、みんなの表情に恐怖の色が浮かぶ。
アレックスの話は不思議とリアリティがあり、私の中に芽生えた恐怖心はより強いものに変わった。ケンユウさんに至っては表情は完璧に死に絶え、今にも気絶しそうに見える。
「そして、その死に方が普通ではないんだ」
「普通じゃ……ない? い、一体、どんな……?」
ノイアさんが恐る恐る訊いた。幽霊などいないと強気だった態度は、今や完全に消え失せている。
「原因は失血死だ。それも、全身の毛穴から血を吹き出す、という異様な状態のな。そして、死に顔もまた、何か恐ろしいものを見たような見るに耐えない苦悶の表情だったらしい」
「ちょっ、ちょっとッ! 今の話、ウソでしょっ!?」
膨れ上がる恐怖心に耐えきれず、私は勢い良く立ち上がった。
するとこいつは……、
「ああ、嘘だ」
私を見据えてしれっと言った。
数秒程、恐怖に凝り固まった脳は、こいつの言葉をすぐに理解することができなかった。しかし、すぐに正常の働きを取り戻し、怒りという感情が、腹の底から間欠泉の如く噴き出した。
「なっ、何考えてんの、あんたァっ! なんで、そんな史上最低な大ボラ吹くわけッ!? いっぺん頭、医者に診てもらえっ!」
「季節は夏だからな。夏といえば怪談だ。ゆえに、即興でそれらしい話を創ってみたのだ。どうだ? 面白かったか?」
「面白くないわッ! っつーか、なんで寄りによって、このタイミングをチョイスすんの!?」
「最高に恐がってくれると思ったからだ。怯えるお前達を見れて私も満足だ。特に、ノイアの強気な態度が一変した瞬間は痛快だった」
アレックスは無表情な顔で淡々と心情を告白する。
「なっ!? う、うるさいわねッ! あんまりくだらないことやるんじゃないわよ!」
ノイアさんは恥ずかしいのか顔が真っ赤だ。
「まあ確かに、あの廃墟が幽霊屋敷と言われているのは事実だ。だが実際は何も起きたりはしないただの廃墟。ノイアが言った通り、廃墟につきものの噂がまことしやかに流布しているだけだろう。そういうわけだから、明日は臆せず仕事に励むがいい」
アレックスはキノコのスープに口をつけながらしれっと言った。
安堵と屈辱を感じながら椅子に座り直す。けれど、騙された怒りでお腹が膨れたような気がし、大好きな唐揚げなのにあまり喉を通らない。夕飯の半分を残した状態で夕食を終えた。
今日は私とクリンちゃんが後片付けの当番だ。
クリンちゃんがお皿を洗い、私が乾いた布巾で水気を拭いていく。
「……あの、ユウコちゃん」
クリンちゃんが遠慮がちな声で話し掛けてきた。
「ん? なぁに?」
「………………」
クリンちゃんは何も言わない。洗い物の手も止まってしまっている。
「どうしたの?」と、そう言おうとした時、
「あのお屋敷が幽霊屋敷っていうのは本当のことだよ」
クリンちゃんは怯えた目で私を見つめ、震える声で語り始めた。
「……え?」
尋常ではないと察し、わずかに怯えを含んだ声で応えた。
「ごめんね!? 別に恐がらせるつもりじゃないよ? でも、あたしもあのお屋敷に行ったことがあるの。もう何年も前のことだけどね……。友達が行こうって言ったから」
「そ……それで……?」
「あたし、あのお屋敷で声を聴いたの……。友達は気付かなかったんだけど『待てよ』っていう声を……!」
クリンちゃんの脳裏に、当時の出来事が再生されているのだろう。怯えきった目で頭を抱えている。
「別にこれは、アレックスの作り話のような恐ろしいことじゃないかもだけど……。でも、あのお屋敷には“何か”が居る気がするの。だから、明日はくれぐれも気を付けてね? そして、それがもし、邪悪なものだったら、決して夜にそこにいちゃダメ。夜の闇は、邪悪なものの力をとても強力なものに変えてしまうから」
クリンちゃんは真摯な瞳で私の手を握って忠告する。
クリンちゃんの明かした衝撃の事実に、特盛りの氷入りの冷水を、頭からぶっかけられたような戦慄に襲われた。
ちょっ……、ウソでしょ!? やっぱりその廃墟って、マジもんの幽霊屋敷ってこと!?
そういや、最後のベルロッティさんの態度が妙におかしかったのは、まさかそのせい!? あの人、今から探しに行くっていうケンユウさんを必死に引き留めてたもんね!? ケンユウさんが断念した時は妙にほっとした顔してたし……。
しかも“夜に行くべきじゃない”みたいなことも言ってなかった!? あの時は“暗闇で怪我をしたら大変”って感じで心配してくれてるのかなって思ったけど、本当は“得体の知れない化物に襲われたら大変”って意味で心配してたんじゃないの!?
きっとあの人も、その廃墟で何か見たり聴いたりしたんだ! どうしよう!? 私ってば、とんでもなくキケンな依頼を請けちまったんじゃね!? つーかこれってある意味、魔物が出没するより質が悪くね!?
その晩、床についても、クリンちゃんの忠告の言葉がグルグルと頭を駆け巡り、ろくに寝付けずに朝を迎えてしまった。
「おかえりなさい。用意してくるから座って待っててね」
クリンちゃんはそう言って、厨房へと向かった。珍しいことにアレックスも食堂にいた。
「騒々しい馬鹿三人のご帰還か。この静かな食堂も、あっという間に酔っ払いどもがひしめく居酒屋のような有様になってしまうな」
アレックスがこちらを見て、感じ悪く毒づいてきた。
私達三人はアレックスの悪態を無視して席に着く。程なくして、クリンちゃんが三人分の食事を持ってきた。今夜の献立は私の大好物であるポポ鳥の唐揚げだ。
あ~あ、それなのに、今日はこいつも一緒だなんて……。ちっ! 間の悪い。そもそも、なんで今日に限ってこいつも晩御飯食べてるわけ? いつもめんどくさがって食べないくせに。
「私がいて悪かったな。私がいると食事が不味くなるとでも言いたいのか? 今日は魔力の消耗が激しい実験をしたから、こうして食事をしているんだ」
アレックスは豆のサラダをつつきながら、私に向かって言ってきた。
「なんでいきなりそんなこと言い出すわけ!? あんた、また性懲りもなく、あのナントカって魔法使ったね!? 最近は使わなくなったなって、安心してたのに! 私の許可もなしに使わないでよっ!」
「許可を求めたらお前は怒りだすだろう? 大体、心覘術を使うのに許可を求めるなど聞いたことがない。荒唐無稽もいいところだ。これは密かに使ってこそ、真価を発揮するものなんだからな。そもそも、読まれて困ることを考える方が悪い。それがわかったら、己の浅はかさを反省するんだな」
アレックスは淡々長々と説教じみた言い分を垂れる。こういう時のこいつは何を言っても無駄だ。
反論するのは止め、イライラしながら大好きな唐揚げを頬張った。
「ねえねえ、ユウコちゃん。明日から、サントリナでお祭りがあるの。あたしはお手伝いをしに行くんだけど、よかったら遊びに来ない?」
クリンちゃんが険悪な空気を変えるように誘ってくれた。
「へ~、そうなんだぁ。でも、ごめんね。明日はギルドの仕事があるから行けないや」
「そっか~。残念だなぁ……」
「なんだお前、ギルドの仕事があるというということは、とうとう四つ葉堂を解雇されたのか? まあ、お前八割方が愚鈍だからな。いつかはこうなるだろうと思っていた」
アレックスは勝手に勘違いして勝手に納得する。
「違うよ! ラグラスさんの都合で明日からしばらくお休みなの! ってか、失礼な予想しないでくれる!?」
「それで、一体どんな依頼を請けたんだ? 子守か? 留守番か?」
請けた依頼について教えてあげた。
「お前達……、その貴族の令嬢にしてやられたものだな」
アレックスはフォークを置くと、真剣な眼差しで私達を見据える。
「え? どういうこと?」
私も思わずフォークを置いた。
「明日行くというその廃墟はとんでもない場所だぞ」
「そ、それ、どういう意味?」
私は上擦った声で訊く。
「あそこは、有名な“幽霊屋敷”なんだ」
「ゆ、幽霊屋敷……?」
ゴクリと唾を飲んだ。胃の辺りから、得体の知れない恐怖心がこみ上げてくる。
「なあーんだ。そんなの、よくある話じゃない。だって肝試しに使われるくらいだもの。そういう噂があっても別におかしくないわよ。ね、ケンユウ?」
ノイアさんは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの口振りで、ケンユウさんに同意を求める。
「……ケンユウ?」
返事のないことに訝り、ノイアさんはケンユウさんに視線を向けた。
ケンユウさんはガチャンとフォークを滑らせ、見てはいけないものでも見たような表情で固まっている。その顔色は有り得ないほど蒼白だ。
「ちょっと……、まさかあんた……、こいつの話、真に受けてんじゃないでしょうね……?」
ノイアさんは引きつった顔でケンユウさんの肩をポンと叩く。
「へ!? あ、いや……、そっ、そんなわけねえだろ!?」
ケンユウさんは我に返ると裏返った声で答えた。
「……お前、怪談は駄目な口か?」
アレックスは追い討ちをかけるような質問を繰り出す。
「なっ、なっ、何言ってやがる! そんなわけねえだろ!? 別に俺は、ゆっ、幽霊なんか怖くねえよッ!」
ケンユウさんは否定するものの、その態度は完全に肯定しているようにしか見えない。
「怖がらなくても大丈夫よ。そんなのきっと、面白おかしく創られた低レベルの噂話に決まってるから。幽霊なんていないわよ」
ノイアさんは素っ気なく言って、サラダのプチトマトをつまんだ。
「いや、実はそうとも言い切れんのだ」
「へえ~? 何よあんた? まさか幽霊とか信じてるワケ?」
ノイアさんがせせら笑うように訊ねる。
「なんとも言えんな。だが、幽霊の仕業かはわからんが、実際、あの屋敷に入ったきり、行方不明になった奴が何人かいるんだ」
「……あんた、アタシ達を担ごうとしてない?」
さすがのノイアさんも少し気味悪そうに眉をひそめる。
しかし、アレックスは構うことなく言葉を続けていく。
「まあ、無事に戻ってきた奴もいる。だが、そいつらは皆一様に異常なまでに鏡を恐れるようになり……」
アレックスはここで一度言葉を止めた。そして、充分過ぎるほど間を置いた後、
「一週間と経たずに死んでしまうんだ」
その言葉に、みんなの表情に恐怖の色が浮かぶ。
アレックスの話は不思議とリアリティがあり、私の中に芽生えた恐怖心はより強いものに変わった。ケンユウさんに至っては表情は完璧に死に絶え、今にも気絶しそうに見える。
「そして、その死に方が普通ではないんだ」
「普通じゃ……ない? い、一体、どんな……?」
ノイアさんが恐る恐る訊いた。幽霊などいないと強気だった態度は、今や完全に消え失せている。
「原因は失血死だ。それも、全身の毛穴から血を吹き出す、という異様な状態のな。そして、死に顔もまた、何か恐ろしいものを見たような見るに耐えない苦悶の表情だったらしい」
「ちょっ、ちょっとッ! 今の話、ウソでしょっ!?」
膨れ上がる恐怖心に耐えきれず、私は勢い良く立ち上がった。
するとこいつは……、
「ああ、嘘だ」
私を見据えてしれっと言った。
数秒程、恐怖に凝り固まった脳は、こいつの言葉をすぐに理解することができなかった。しかし、すぐに正常の働きを取り戻し、怒りという感情が、腹の底から間欠泉の如く噴き出した。
「なっ、何考えてんの、あんたァっ! なんで、そんな史上最低な大ボラ吹くわけッ!? いっぺん頭、医者に診てもらえっ!」
「季節は夏だからな。夏といえば怪談だ。ゆえに、即興でそれらしい話を創ってみたのだ。どうだ? 面白かったか?」
「面白くないわッ! っつーか、なんで寄りによって、このタイミングをチョイスすんの!?」
「最高に恐がってくれると思ったからだ。怯えるお前達を見れて私も満足だ。特に、ノイアの強気な態度が一変した瞬間は痛快だった」
アレックスは無表情な顔で淡々と心情を告白する。
「なっ!? う、うるさいわねッ! あんまりくだらないことやるんじゃないわよ!」
ノイアさんは恥ずかしいのか顔が真っ赤だ。
「まあ確かに、あの廃墟が幽霊屋敷と言われているのは事実だ。だが実際は何も起きたりはしないただの廃墟。ノイアが言った通り、廃墟につきものの噂がまことしやかに流布しているだけだろう。そういうわけだから、明日は臆せず仕事に励むがいい」
アレックスはキノコのスープに口をつけながらしれっと言った。
安堵と屈辱を感じながら椅子に座り直す。けれど、騙された怒りでお腹が膨れたような気がし、大好きな唐揚げなのにあまり喉を通らない。夕飯の半分を残した状態で夕食を終えた。
今日は私とクリンちゃんが後片付けの当番だ。
クリンちゃんがお皿を洗い、私が乾いた布巾で水気を拭いていく。
「……あの、ユウコちゃん」
クリンちゃんが遠慮がちな声で話し掛けてきた。
「ん? なぁに?」
「………………」
クリンちゃんは何も言わない。洗い物の手も止まってしまっている。
「どうしたの?」と、そう言おうとした時、
「あのお屋敷が幽霊屋敷っていうのは本当のことだよ」
クリンちゃんは怯えた目で私を見つめ、震える声で語り始めた。
「……え?」
尋常ではないと察し、わずかに怯えを含んだ声で応えた。
「ごめんね!? 別に恐がらせるつもりじゃないよ? でも、あたしもあのお屋敷に行ったことがあるの。もう何年も前のことだけどね……。友達が行こうって言ったから」
「そ……それで……?」
「あたし、あのお屋敷で声を聴いたの……。友達は気付かなかったんだけど『待てよ』っていう声を……!」
クリンちゃんの脳裏に、当時の出来事が再生されているのだろう。怯えきった目で頭を抱えている。
「別にこれは、アレックスの作り話のような恐ろしいことじゃないかもだけど……。でも、あのお屋敷には“何か”が居る気がするの。だから、明日はくれぐれも気を付けてね? そして、それがもし、邪悪なものだったら、決して夜にそこにいちゃダメ。夜の闇は、邪悪なものの力をとても強力なものに変えてしまうから」
クリンちゃんは真摯な瞳で私の手を握って忠告する。
クリンちゃんの明かした衝撃の事実に、特盛りの氷入りの冷水を、頭からぶっかけられたような戦慄に襲われた。
ちょっ……、ウソでしょ!? やっぱりその廃墟って、マジもんの幽霊屋敷ってこと!?
そういや、最後のベルロッティさんの態度が妙におかしかったのは、まさかそのせい!? あの人、今から探しに行くっていうケンユウさんを必死に引き留めてたもんね!? ケンユウさんが断念した時は妙にほっとした顔してたし……。
しかも“夜に行くべきじゃない”みたいなことも言ってなかった!? あの時は“暗闇で怪我をしたら大変”って感じで心配してくれてるのかなって思ったけど、本当は“得体の知れない化物に襲われたら大変”って意味で心配してたんじゃないの!?
きっとあの人も、その廃墟で何か見たり聴いたりしたんだ! どうしよう!? 私ってば、とんでもなくキケンな依頼を請けちまったんじゃね!? つーかこれってある意味、魔物が出没するより質が悪くね!?
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