獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花

文字の大きさ
14 / 19

閑話 愚かすぎた思い込み(エルファ)

しおりを挟む

 ガウスにはどこにも獣の要素がなかった。
 けれど獣並みの力があり、気が付けばガウスはこの街のリーダーにおさまっていた。
 彼の獣の要素は力だけだ。見た目もヒトなら、あの理知的な言動、頭の切れ味なんかはまさしくヒトだ。ヒトなんて口先だけでつまらないと思っていた私は、ガウスに会って衝撃を受けた。

 あんなヒトもいるんだ。すごい。あのがほしい。

 ヒトだけど、ガウスなら私の番にしてあげてもいい。
 ヒトなのにヒトじゃないガウスに子供の頃から憧れてた。その頃には既に、私は獣人の中で有望な番候補として期待されていたから、成人するのが楽しみだった。
 でも入った群れでは、ガウスに手を出すのは許されなかった。以前ガウスの番におさまろうとしてミーナに手を出した雌たちが報復を受けたとか、そんな理由だった。
 バカね。ヒトはこざかしいから、出て行かなきゃいけないのを教えてあげないと、自分の立場がわからないのに。あんな何の力もないヒトに寄生されて、ガウスがホントにかわいそう。
 でも私が群れのリーダーになったら、ガウスを助けてあげる。だから、私が番になってあげる日までまっててね。

 群れのリーダーになったときもまだ、ガウスは誰とも番ってなかった。やっぱり、ガウスは私のための番だと思った。私のために誰のものにもならなかったんだって、確信した。
 なのに、ガウスの周りをちょろちょろとしているミーナのせいで、ガウスは私をよらせてくれない。見た目も弱さもヒトでしかない役立たずのミーナを心配しているのだろう。ただの家族のくせにガウスに甘えすぎだ。さっさと家を出て行けば良いのに。ホントにあの子は、いつまでも甘えて。ガウスが私と番えなくてかわいそうだとわからないのかしら。

 兄さんはヒトのミーナにいつもデレデレしてる。獣ってホント、あの小賢しいばっかりで力もない役立たずが好きだなんて、どうかしてる。しかも兄さんは、獣らしくちょっと頭が悪い。ミーナがガウスの番とかって変なことを言って……ヒト同士で番うわけないじゃない。ばっかじゃないの?
 ホント優しくて大好きな兄さんだけど、こういう短絡的なときは頭を抱える。
 考えたらわかるじゃない。ガウスに力があるからって所詮はヒトなのよ? ヒトのミーナが番のわけないじゃない。
 自分が力で敵わないからって、ガウスは獣だなんて。ホント、にいさんってバカ。

 まあ、確かに獣並みに力が強いからミーナとだって番えるかもしれないけど。でも、それは、他に番候補がいない場合の最終手段でしょう?
 だいたい、私みたいに完璧なバランスの獣人が番になってあげるっていうんだから、ガウスだって私がいいに決まってる。
 ミーナがいつまでたっても嫁に行かないからガウスが困ってるのは、考えればわかることだ。
 なのに兄さんったら、ミーナが可愛いからって、ガウスと私の仲を邪魔するなんて。

 あのミーナもミーナなのよね。もっともらしいこといって、ガウスの気持ちも考えられないなんて、ヒトのくせに頭が悪すぎる。
 だから何度も教えてあげたのに。ガウスには釣り合わないって。さっさと獣のところにお嫁に行けばガウスも安心するって。ガウスの家族だから、あんなに気にかけてあげたのに。それでもわからないんだから……ヒトっていっても、大して頭のよくないのもいるのよね。
 だいたい、ガウスも大概過保護なのよ。ミーナと番う獣を選びすぎてるのか、なかなか手放さない。
 ホントじれったい。

 どうしたらはやくガウスと番えるかと、毎日頭を悩ます。最悪、ミーナが一緒にいても、気を遣ってあげるし、こぶ付きでも、番ってあげるのに。
 そのとき、見たことのない獣が通りを歩いているのに気付いた。
 彼を見た瞬間、思いついた。
 ミーナにぴったりの強すぎる獣性の、ここの住人でない獣。
 この街にはミーナに手を出すような獣はいない。だってガウスがこわいから。でも、ガウスを知らない獣人だったら? 彼がミーナと番ったら、全部丸く収まるんじゃない?
 でも普通に出会ったら、ガウスの匂いで尻込みをするかもしれない。でも、匂いを弱めたら?
 私は自分の思いつきに感動する。
 あの獣性ならミーナだって喜ぶに違いないし、あの獣だって喜ぶ。
 ガウスはちょっと過保護すぎるから、ミーナだって番いが見つからなくて大変なはずだ。私があの子を番わせてあげると良いのよね。ミーナは人見知りだからちょっと強引なぐらいが良いかな。
 はやく番わせてあげよう。
 そしたらガウスもあの子もきっとあの獣だって、みんな幸せだ。私があの子にいい雄を探してあげたらガウスも喜ぶし、私を褒めて番にするにちがいない。
 私はよそ者の獣に声をかけた。
 最高の思いつきだと、私は、確かに思っていた。




「エルファ……!!」

 叫ぶようなその声は、兄のものだ。
 エルファは鈍い痛みの中、ようやく目を開ける。痛みはまだ、あまり感じない。衝撃で体中が動かない。

「にい、さ、ん……」
「バカが……!! なぜガウスの番になんか、手を出した!! あれほど余計なことをするなと……!!」
「……だって、あんな、雌、ヒトとヒトじゃ、釣り合わない……っ、だって、私の方がっ、よっぽ、どっ……」

 混乱した頭を働かせ、エルファはなぜか痛む身体を押さえつつ、兄に訴えた。
 兄の熊獣人は、それを愕然とした顔で受け止め、妹を凝視した。

「……お前、なにを、言ってるんだ……?」

 信じられないと言わんばかりの声だった。

「……にい、さ、ん……?」
「お前には、まさかが、ヒトに見えていたのか……?」

 嘘だろう、と、小さく呟く兄の声を聞いた。
「あの、恐ろしいほど純粋な獣の匂いを発しているアレが、どうしてヒトに見えるというんだ……!!!」
「え……」

 兄の叫びを聞いて、エルファは先ほど見た狼と、その変化を思い出す。そのまま、衝撃で忘れていた記憶が呼び戻された。

 狼がガウスに変化したあの信じられない光景が、エルファの頭の中によみがえる。
 以前からエルファは兄から言われていたのだ。ガウスはヒトじゃなく獣だと。けれどエルファは取り合わなかった。
 あの時理解出来なかった「ミーナがガウスの番」という兄の言葉が、今のエルファには恐ろしいほどに理解が出来た。

 アレはヒトではない。ヒトに化けた獣だ。

 がくがくとエルファの身体が震えだした。

「お前、俺の言葉を、信じていなかったんだな……。見た目に惑わされていたのか……」

 ガウスでなければ、エルファの判断で間違ってはいなかっただろう。
 だが、ガウスは特別な……いや、異常な存在だ。獣にとってひどく恐ろしく、ひどく心惹かれる尊い存在だ。
 恐ろしいのに服従したくてたまらなくなる。心酔しどこまでもついてゆきたくなる。彼がいれば安心だと従属したくなる。
 獣に近ければ近いほど、その感覚は明確だ。

「だって……、だって……。わ、わかる、わけ、ないじゃない……」

 エルファが首を横に振りながら、ボロボロと涙をこぼし始めた。
 それを諦観と共に受け止めながら、エルファの兄は重い気持ちで首を横に振った。

「……言い訳しても、今更だろう。お前はガウスの番に手を出した。……この町で、以前と同じように暮らせると思うな。……お前が望んでいたような番を得るのも、諦めるしかないだろうな」
「い、いや……」
「……街を出るか、諦めるかしかないだろう」

 街を出るのは命がけの行為だ。獣単身なら定住先を見つけるまで流れ歩けばいいが、それでも見つからなければ生涯旅するしかない。ましてやエルファのような獣人だと命も危うい。
 かといって街に残れば針のむしろだ。五体満足にいられれば幸運、とすべきだろう。

「に、兄さん……っ、たす、けてっ」
「エルファ、もう、遅い……」

 悲しげな兄の呟きにエルファは絶望する。

「そんな……っ」
「何度もガウスが手を下そうとするのを、俺がなんとかするといって抑えてもらっていたんだ……。他の雄をけしかけて無理矢理引き剥がそうとしたのは、どう言い訳しても、どう謝っても、どれだけ反省しても、許されることはないだろうよ……。ガウスは狼だ。狼の番に手を出したんだよ、お前は……。俺も、ただじゃすまないかもな……」
「あ、あ……」

 狼は愛情深い。唯一の番を、命かけて一途に愛する。

 絶望して泣き崩れる妹を見ながら、兄もまた絶望していた。
 何度も言ったはずだった。ミーナはガウスの番だと。ミーナに手を出せば、ガウスは許さないと。いいかげんに諦めろと。
 歴然たる事実を前に、なぜエルファがあれほどガウスに執着しているのかが理解出来なかった。明らかに獣であるガウスを、まさか、ヒトと思っているなどとは思いもしなかった。

 いや、エルファも言っていたのだ「ガウスはヒトなんだから私の方が釣り合う」と。だが彼はバカなと冗談と思い込んで笑い飛ばした。見た目がヒトであることに夢を見て、たわごとを言っていると思い込んでしまった。本気で言っていたなどと、思いもしなかった。
 ガウスをヒトと間違うなどあり得ないのだから。
 そんな兄にとっての当たり前の事実と、妹にとっての当たり前の事実が違っていただなんて、思いもしなかったのだ。

 獣は、相手の思惑を読み取るのが下手だ。兄妹そろって、自分の思い込みで足をすくわれた。
 妹を、止めてやれなかった。自分にはもったないぐらいのかわいい妹だと思っていた。
 ワガママで自分の意思を通すところが、頼もしい妹だった。ちょっと獣やヒトを馬鹿にしてるようなところもあったが、思いやりもあって優しく、その上で手を貸すこともできる子だった。そんな周りの評価も自覚し、その自信のあるところがきもちいい、本当にいい子だった。
 エルファはもっとも愛される雌の体現だった。
 もしヒト寄りの獣人と番ったなら、ヒトを護りながらその能力を生かせる妻になっただろう。もし獣寄りの獣人と番ったなら、あの子の機転でうまく獣を操縦し力のだしどころを指し示すことの出来る妻になっただろう。
 それが簡単に思い浮かぶほど、うまく番をもりたてていけるような子だった。

 なのに、守ってやれなかった。

 今までガウスの番になろうと、ミーナに手を出した雌が数人いた。
 彼女たちはヒトでさえ嫌がるほどの粗暴な獣に嫁いだり、嫁ぎ先がなく家に引きこもってガウスに怯えているなどという話も聞いている。
 妹は、その話を知らなかったのだろうか。……いや、知らないはずはない。それでもなお、自分は大丈夫と思ったのだろうか。わからない。
 妹を止めてやることが出来なかった。それは変えようがない。
 俺の責任だと、兄は小さく息をついた。
 ガウスからの報復が、少しでも軽い物であるようにと、祈るしか出来なかった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

『完結・R18』公爵様は異世界転移したモブ顔の私を溺愛しているそうですが、私はそれになかなか気付きませんでした。

カヨワイさつき
恋愛
「えっ?ない?!」 なんで?! 家に帰ると出し忘れたゴミのように、ビニール袋がポツンとあるだけだった。 自分の誕生日=中学生卒業後の日、母親に捨てられた私は生活の為、年齢を偽りバイトを掛け持ちしていたが……気づいたら見知らぬ場所に。 黒は尊く神に愛された色、白は"色なし"と呼ばれ忌み嫌われる色。 しかも小柄で黒髪に黒目、さらに女性である私は、皆から狙われる存在。 10人に1人いるかないかの貴重な女性。 小柄で黒い色はこの世界では、凄くモテるそうだ。 それに対して、銀色の髪に水色の目、王子様カラーなのにこの世界では忌み嫌われる色。 独特な美醜。 やたらとモテるモブ顔の私、それに気づかない私とイケメンなのに忌み嫌われている、不器用な公爵様との恋物語。 じれったい恋物語。 登場人物、割と少なめ(作者比)

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

処理中です...