3 / 6
3
しおりを挟むやばい。これはもう、思いだせないパターンだ。ダメ、落ち着いて。焦ったらなお思いだせない、落ち着かないと。
目の前に、わたくしをじっと見つめる彼がいる。
エドガー様が、わたくしを、じっと………!! 無理……!! ……落ち着くなんて絶対無理……!!
どうしよう、どうしよう。
でも、諦めたらそこで試合終了だって誰かえらい人が言ってた気がする。わたくしはなんとしても思いださなければいけない。だって私の人生がかかっている。わたくしと、エドガー様の……!!
よみがえれ、わたくしの記憶……!! 意地でも絞りだせ、私の発想力……!! 思いだせなくても良いから、今大正解を導きだして、乗り切るのよ……!!
わたくしは口をつぐんだまま、必死に考えた。
結婚してくだされば……えっと、何だっけ、何だっけ、なんて言おうと思ってたんだっけ…。結婚してくだされば、結婚してくだされば………。
シェルマ、落ち着いて考えるのよ。エドガー様と、結婚したら、わたくしはエドガー様の妻になって、そしたら公式の場で堂々と隣にいることが出来て……それで、それで、だから、わたくしはエドガー様にふさわしくなりたくて、えっと、それで、わたくしと結婚してくだされば、えっと、なんて言おうとしてたんだっけ、何だっけ、思いだせない、どうしよう、エドガー様がわたくしと結婚してくださったら……えっと、は、早く何か言わなきゃ。何だっけ、落ち着かないと。どうしよう思いだせない、早く言わないと、無言のままいつまでもいたらエドガー様に失礼だし、面倒って思われたらやだ……早く言わないと、えっと、何だっけ……エドガー様がわたくしと結婚してくださったら……エドガー様が結婚……わたくしと……そしたら、わたくしは……わたくしは……
沈黙が辛い。とりあえず、何か言ってみよう、そうすれば何か思いつくかもしれない。
「エドガー様が、わたくしと結婚してくだされば………わたくしは……わたくしは………………………………………………………幸せです……………………」
……うん、間違いない。エドガー様と結婚出来れば、わたくしは間違いなく幸せだ。うん、幸せだ。間違いない。
でも、わかる。正しくわたくしは間違ったのだと、確信を持って、わかる。
これは違う。うん、違う。…………違ううぅ――――!!!!! あああああ!! わたくしの、ばかぁぁぁぁ!!
全力で頭を抱えたいけれど、エドガー様を前にそんなことを出来るはずもない。
うつむいて、だらだらと流れる冷や汗に、肝が冷えるどころか、体中が凍ってしまう。
思わず本音がもれたたけど、これは違う!! 断じて違う!! 確かに言おうとしていた言葉は忘れた! 忘れたけど、これだけは確信を持ってわかる!!
わたくしが言おうとしてた言葉は、絶対に、これじゃない……!!!
ぶわっと涙がこみ上げる。
そうだ、逃げよう。
立ち上がろうとした瞬間、目の前から「ク……っ」とこらえきれなくなったように吹きだす声がした。
「そ、それは、予想外、な、つ、つづき、だ、ね……っ」
途切れ途切れの声が、彼が笑いを必死にこらえようとしているのを教えてくる。そんなにもこらえきれないぐらいおかしいのなら、いっそ思いっきり笑ってくれた方がマシだ。
違う、違うんです、そんなこと言いたかったわけじゃないんですっ
「ち、ちが……っっ」
「………ちが?」
違うんです、これは……と言おうとして、あれ、何が違うの?ってふと頭の片隅で疑問がもたげる。
「……いません」
ぐほっと、彼が吹きだした。
しまった! 思わずバカ正直に……!!
もう、消えたい、今すぐ、ここで消えてしまいたい。彼が吹きだした瞬間、違うって言えば良かったんじゃない? って気がついたけど後の祭りだ。そんな簡単なこと、どうしてわたくしは気付かないの!! いやだって、さっきの瞬間はパニックになって、違わないと思っちゃったから……!
頭の中で言い訳がぐるぐるぐるぐる回る。
違わないのが真実だったのが、わたくしの不幸の一端をになっている。間違いない。
彼が、もう耐えきれないというように、ついに声をあげて笑いだした。
もうやめて!! わたくしがかわいそうだから、これ以上はやめてあげて……!!
「き、君は、予想外に、真っ直ぐだね……!!」
意外だよ、と、彼がおなかを押さえながら、目元をぬぐって言う。
涙流すほど楽しんでもらえたのなら、良かった……とは、死んでも思わない。というよりも、今すぐわたしは死んでしまいたい。
「こんなに、淑女然として、聡明そうな顔をして、その冷たそうな瞳で見つめられたら大変そうだと思っていたんだが……」
もう、やめてください、お願いします。
目の前は、もう霞んで歪んで、涙がこぼれる寸前だ。
「こんなにかわいらしい方とは、本当に予想外だ」
え?
「いや、いいね。うん、いい。うれしいよ。……じゃあ、結婚しようか」
「…………………………は?」
たまっていた涙が、衝撃でぽろりとこぼれた。そして、そのまま涙は引っ込んでしまった。
顔を上げると、いつものポーカーフェイスの笑顔とは違う、楽しそうな笑顔を浮かべて、エドガー様はにこにことしながらわたくしを見ている。
「シェルマ殿は俺と結婚すれば、幸せになれるのだろう?」
「……はい」
ずいぶんと答えにくいことを聞かれたけれど、今更なので、仕方なくうなずく。旅の恥はかきすてというではないか。……わたくしは今、全力で旅立ちたい。そうだ、今は旅の途中だ。人生という長旅の………………ああ、わたくしは今すぐ人生の長旅を終了して別の世界に旅立ちたい。
「俺も、結婚するのなら、自分の隣で幸せに笑ってくれる妻がいるとうれしい」
……それならば、間違いなく実現可能だ。全力で立候補出来る。
「……ありがとう、ございます……?」
「どういたしまして?」
エドガー様は楽しそうに肩を震わせながら笑っている。
何だろう、頭がふわふわする。何も考えられない。とても今起こっていることに現実味が感じられなくて、他人事のように思えてしまっている。
大好きなエドガー様がいる。私のすぐそばで、私と一緒にいて、楽しそうに笑っていて………なんて幸せなんだろう。
しばらくしてエドガー様が立ち上がってわたくしに手を差し延べてきた。「ここは寒いから」と、わたくしを控えの間に案内してくれ、そして挨拶を済ませ両親に声をかけた後、まだ新年を祝う広間を二人で後にした。
「それでは婚約者殿」
と、わたくしを送り届けた後、そう挨拶をして去ったエドガー様の後ろ姿を見送ったのだけれど、わたくしは、今、一体何が起こっているのか、全く理解が追いつかない状況だった。
10
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
姉妹のお相手はわたくしが見つけますわ ー いき遅れ3姉妹の場合
葉月ゆな
恋愛
「フェリシアが結婚して、フェリシアの子供が侯爵家を継げばいい」
女侯爵である姉が言い出した。
3姉妹が10代のころに両親がなくなり侯爵家の建て直しで、この国では行き遅れと呼ばれる部類に入っているシャルロッテ(長女)、フェリシア(次女)、ジャクリーン(三女)の美人三姉妹。
今日まで3人で頑張って侯爵家を建て直し、落ち着いたからそろそろ後継者をと、フェリシアが姉に結婚を薦めれば、そんな言葉が返ってきた。
姉は女侯爵で貿易で財を成している侯爵家の海軍を取り仕切る男装の麗人。
妹は商会を切り盛りする才女。
次女本人は、家内の采配しかできない凡人だと思っている。
しかしフェリシアは姉妹をけなされると、心の中で相手に対して毒舌を吐きながら撃退する手腕は、社交界では有名な存在だ(本人知らず)。
なのに自慢の姉妹は結婚に興味がないので、フェリシアは姉妹の相手を本気で探そうと、社交に力を入れ出す。
フェリシアは心の中で何か思っているときは「私」、人と喋るときは「わたくし」になるのでご注意を。
【完結】年下幼馴染くんを上司撃退の盾にしたら、偽装婚約の罠にハマりました
廻り
恋愛
幼い頃に誘拐されたトラウマがあるリリアナ。
王宮事務官として就職するが、犯人に似ている上司に一目惚れされ、威圧的に独占されてしまう。
恐怖から逃れたいリリアナは、幼馴染を盾にし「恋人がいる」と上司の誘いを断る。
「リリちゃん。俺たち、いつから付き合っていたのかな?」
幼馴染を怒らせてしまったが、上司撃退は成功。
ほっとしたのも束の間、上司から二人の関係を問い詰められた挙句、求婚されてしまう。
幼馴染に相談したところ、彼と偽装婚約することになるが――
迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた
月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる