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本編
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しおりを挟む帰ってきた部屋の中は嫌になるほど静かで、自分の息づかいがやけに響いて聞こえた。
ベッドに体を埋め込むように投げ出して、力一杯さんざん泣いた。叫びたい気持ちのまま、布団と枕に顔を埋める。胸に渦巻く気持ちを吐き出すように、泣けるだけ泣いてやろうと、力一杯泣いた。
さんざん泣きわめくと、泣いて暴れている自分が滑稽に思えてきて、急に力が抜ける。むくりと体を起こせば自嘲気味な笑いが漏れた。
もう、終わりなんだ。
それは、疲れるほど泣いて、少しすっきりした頭と投げやりな気分でたどり着いた結論だった。
続けたければ続けられる。見なかったふりをして、いつものように隣にいればいいだけのこと。
雅貴を手放したくない気持ちが、またそうすれば良いと誘惑する。
けれど実咲はもうそれに耐えられない事も分かっていた。
雅貴と付き合っていく上でこの程度のことが気になるようなら、続けていても自分が更に辛くなるだけなのは目に見えているから。
だから終わらせよう。
実咲は決意する。
「別れよう」と、たった一言でいい。そしたらきっと軽く「分かった」と返されて、それで終わる。
けれど、別れたところで彼を忘れられるだろうか。
別れようと決意しているのに、まだ雅貴のことが好きな自分が「本当にそれで良いのか」と決意を揺るがそうとする。
好きだから別れたくない。好きだから別れたい。
決意と躊躇いの狭間で堂々巡りになりそうな頭を振って、実咲は自分に言い聞かせる。
忘れられるかどうかなんて分からない。けれど、きっと自分は今より楽になる。だから、別れるのが正解なのだ。
だって、雅貴の彼女が誰かだなんて、もう考えなくてすむのだから。
いつも考えていた。雅貴にとって自分がなんなのか、いつまでこんな関係が続けることができるのか、と。
付き合う前も、付き合い始めてからも雅貴は実咲だけを見ることはなかった。「付き合う」という言葉の意味さえ考えるのがばからしくなるほどに。
付き合う、なんていうのは、全て言葉の上だけのこと。気持ちも行動も伴わない「付き合う」という言葉。それに振り回されただけの四ヶ月だった。
考えれば考えるほどあまりにもバカバカしくて笑いさえ込み上げてくる。
何もなかったフリまでして縋る価値がどれほどあるのか。
静かな部屋に、実咲の笑い声がむなしく響いた。
雅貴の容姿は周りの男達からは群を抜いて良い。
長身で細身だけれど筋肉質な引き締まった身体。端整だけれど、どこか男臭い整った顔立ち。女性の扱いが上手く会話は退屈させないし、いつも周りに女性がいる。
実咲はそんな雅貴と一年余りの間、ただの友人でしかなかった。
けれど友達同士の付き合いの中で、いつからか雅貴の隣に自分以外の女性が隣にいることを辛いと感じるようになっていた。
隣にいるのは自分でありたい、友人ではなく女としてみられたい。
そう願うようになって、実咲は雅貴の彼女の座を望んだ。
その結果、彼女というその立場はあっさりと実咲のもとに転がり込んできた。
実咲はその軽さの意味から目を逸らし自分に都合のいい部分だけを見て、雅貴にとって自分自身の存在が特別であるという理由を見いだそうとしていた。
雅貴の周りには実咲より遙かにかわいい女性が数多いる。男慣れしていて後腐れのない女性達が。
それが雅貴が好んで付き合う女性達だ。
比べて、実咲はどちらかといえばまじめで、男の子と付き合ったことはあるもののセックスに至っては雅貴が初めてだったような女である。普段の雅貴なら相手にするはずがなかった。
そんな実咲のことを知っていながら、それでも雅貴が彼女に選んだその意味、……それを、特別な存在だからだと、思いたかった。
もって一ヶ月、早くて三日。
どこまで本当か知らないが、そんな付き合い方しかしないと噂されていた雅貴が実咲とは四ヶ月付き合っている。実際、実咲が友達として彼の側にいた頃から、取っ替え引き替え、すぐに周りにいる女の子は変わっていった。そんな雅貴との長い付き合いに特別性を見いだして、実咲は彼女の座にすがってきた。
なんて事なかったのに。ただ、お互い別れを切り出さなかっただけ、それだけのこと。雅貴にとって、自分は別れを切り出さなくていいくらいには都合が悪くなかっただけのこと。
そう思うと、また涙があふれてきた。
本当は知っていた。
見ないふりをしていただけで気付いていた。自分と付き合っている間も他の女と寝ていたこと。キスは本当に挨拶代わりに誰とでもしていること。
知らないふりして、聞こえないふりして、自分だけは特別と言い聞かせて。
だけど、雅貴は私でなくてもいいんだよね。
実咲はこらえようとしてもこぼれる嗚咽を聞きながら、心の中でつぶやく。
分かっていた、知っていたよ、そんなこと。
本気で雅貴を好きな私が、バカなんだ。
こんな事で泣いている私が、バカなんだ……。
こぼれる涙をぬぐい、こぼれる嗚咽をかみ殺し、疲れたように実咲は笑う。雅貴を信じようとしてきた自分があまりにも滑稽だった。
もう、明日で全部終わり。
眠れない夜は、ひどく長かった。
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